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奔走編 廃教会①

 




「おい、入り口にシスターがいる。ここを教会だと思って迷い込んだみたいだぜ」


「どうする?」


「忌々しい聖女の教会のシスターだぜ、そりゃお偉いさん方は“可愛がって”くれるだろうよ」


 廃教会、とある一室にて。

 外の様子を監視していた男どもは、入り口にシスター服の女性がいることに気づいて下卑た笑いを浮かべた。


 この場にいる男どもは上からの命令を受けて人身売買をする犯罪組織だ。

 教会の一室には旧都近郊の村々から集められた子供たちが何人もいる。


 子供たちのこれからの運命は男たちは知らない。

 彼らにとって、他人の子供などただの金のなる木でしかない。


 そしていま男たちが潜む場所に、何も知らない聖職者が来たのだ。鴨がネギを背負ってやってきたようなものである。




「あの……夜分に申し訳ございません。こちらは聖ルチーア教会の施設と見て間違いはないでしょうか?わたくし巡礼の旅をしているのですが夜の祈祷がまだ出来ておらず、祈りを捧げる場所をお借りさせていただけませんか?」


 入り口にいたシスターは、ドアを開けた男を見て敬虔そうな表情を浮かべた。


「シスターさん、巡礼お疲れ様です。どうぞ」


 男は、やってきたシスターを見定めるような視線で眺めた後、簡単に施設の中へと彼女を誘った。


「ありがとうございます、あなた様に神の加護がありますように」




 シスターは礼拝堂だったと思われる入り口すぐのホールの長椅子に座ると、そのまま目を閉じて祈りを捧げる。

 その清廉な雰囲気に、背後から様子を見ていた男は背筋がぞくぞくするほどの興奮と高揚を覚えた。


「(……いい女だ。お偉いさん方に下げ渡す前に俺に味見させてくれないかねえ)」


 男らの上層部は聖女ルチーアを邪神のように忌み嫌い、聖女ルチーアを神として崇めるルチーア教徒は親の仇のように何人も始末していた。

 きっと彼女の末路も同じだろう。


 勿体無いと考えながら、男は祈祷を終えたシスターに愛想よく声をかけた。


「シスターさん、お茶をどうぞ。この地方の特産茶です。ちと苦いですが……」


「まぁ……ありがとうございます」


「さぁ遠慮なくどうぞ、シスターさん巡礼の旅でお疲れでしょう、今夜は泊まって行ってくだせえ」


「ありがとうございます、でも、わたくし信仰都市まで戻らねばなりませんので、そろそろ出立させていただきますわ」


 男の提案を申し訳なさそうに辞退して、清楚で可憐なシスターは微笑んだ。


「そうですか、さぁお茶をどうぞ。信仰都市まで行くとなると大変ですねえ」


「旧都から馬車が出ていないようなので、馬車の出る街まで歩きますの。礼拝の場をお貸しいただきありがとうございました」


「いえいえ、当たり前のことをしただけです。さぁさぁシスターさんお茶をどうぞ」


 警戒しているのかたまたまか、“特製のブレンド”がしてあるお茶のカップを受け取ったシスターがなかなか口をつけないので焦ったくなった男は早く飲めという圧をかけた。


「………いただきますね」


 シスターがようやく口をつけた。

 男はほくそ笑む。

 もちろん特製のブレンドは茶葉のことなどではない。


「………っ」


 一口飲んだシスターの手からカップが落ちた。

 そのままその場に蹲る。


「あぁシスターさん、よほど疲れてたみたいだねえ。薬の周りが早いのかな、今夜はここで大人しく寝ててもらおうか。ちょうど明日お偉いさん方にガキらを納品する予定だったんだ」


 男はようやく事が終わったことに安堵をして、床に倒れて無防備に眠るシスターを再度見た。

 月明かりに照らされる麗しの女性は、街でもなかなか見かけないほどの美貌だ。

 さぞかしその手の市場なら高額な金で売れるだろう。


「上の手が回る前に味見をさせてもらうかね」


 男の下卑た手がシスターに触れようとした瞬間、その手を何かが掴んだ。


「……いけませんわ盗み食いなんて。お行儀は良くないと神はすべてをご覧になっておりますわ」


「なっ!?!?………あ"ッ!?」


 油断していた男の手を掴んだシスターは、男を背負い込むとそのまま勢いよく投げつけ男の体を勢いよく地面へ叩き付けた。


 背負い投げ、一本である。


「神はお許しになるでしょう。わたくし、特別な洗礼を受けておりますのでよこしまな薬の類は一切効きませんの。今後の参考になさってくださいね」


 シスターは丁寧に一礼をすると、そのまま施設の扉を開けた。

 男の欲望を表すように部屋の扉は幾重にも鍵がかけられていたが、それをすべて開錠して施設の外で待機していた仲間を招いた。


「ヒュー、お姉ちゃんイカすね!かっこいいー」


「相変わらずすごいわねセラフィナ、大丈夫?怪我はない?」


 興奮した様子のミルリーゼと共に入ってきたエルは、仲間のために囮役を引き受けてくれた彼女の身を案じた。


「お役に立てて光栄ですエル様」


「えげつないねえ、完全に伸びてるよ」


 靴先で男を蹴りながらオズは観察して感想を述べた。

 隣でレオンが冷たい目で見下ろす。


「非力な女性に卑劣を働こうとしたんだ。当然の末路だ」


「セラフィナって非力なのか?……とりあえずこいつは拘束して捕まえておこう」


 カイルはレオンの発言に首を傾げながらも、ミルリーゼが用意していた縄を持ち出すと、完全に気を失っている男をその辺の柱に縛った。


「さて、騒ぎを聞きつけてやってくるぜ。敵の数は10人くらいだ。男どものノルマは3人な、僕たちは安全圏に避難しよう、行くぞエル」


「ミルリーゼ、私も戦うわ」


「馬鹿言ってんじゃないよ。中途半端な戦力は足を引っ張るだけさ、僕たちは救助班!手荒事は野郎に任せよう。ほら、お姉ちゃんも行くよ!」


「でも……」


 ミルリーゼは勢いよく走り出す。

 頭の中に教会内部の見取りが完璧にインプットされているのか足取りに迷いはなかった。


「ミルリーゼ嬢の言う通りです。エル様お気をつけて」


「オレたちに任せな!……こっちに敵が向かってきてるみたいだ。やるか!」


「じゃー作戦通りにいきますか。しっかし、これは流石に深夜料金だね」


 カイルは背中に構えていた折り畳みの槍を手にして展開させ、オズはめんどくさそうな仕草で首を鳴らすと杖を構えた。


 こちらに向かってくる男の仲間を相手どる深夜の犯罪組織壊滅作戦の火蓋は切って落とされたのだ。






※セクハラダメ絶対



セラフィナさんはこの作品屈指のチート

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