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奔走編 ブラン商会⑤

 






「「何でそうなるんですか!!!」」




 ブラン商会の店舗内にレオンとロッドの声が重なった。


「なによ。どっちにしろそんな犯罪組織、放っておけないでしょ。子供たちも助けないと」


 涼しい顔をしてエルは答えた。

 レオンは顔を赤くさせたり青くさせたり忙しない。


「なんだよ。せっかく解決策を見つけたんだから引っ込んでろよ」


 反対側では腕を組んで不満そうにミルリーゼは答えた。

 ロッドは胃のあたりを抑えて辛そうにしている。




「てなわけで、そうと決まったらすぐ行くぞ、カチコミじゃ〜」


「ミルリーゼちゃん、さっきから思ってたけどそういうセリフどこで覚えてくるの?ちょっと女の子として物騒じゃない?」


「すみません……お嬢さんは任侠小説が最近のマイブームなんです……イテテ」


 オズの質問に、ロッドが震える声で答えた。

 彼の脂汗の滲む渋い顔がこれまでの苦労を描いている。


「ロッド様、治癒魔法をかけますか?」


「ああシスターさん申し訳ないです」


「いいよいいよシスターのお姉ちゃん、そいつ解雇するから」


「えっ」


 胃痛を訴える青年からセラフィナを引き離し、ミルリーゼは冷たく言い放す。驚いた顔のロッドに再度言葉を重ねた。


「ロッド、きみはクビだよく、び。さっき誰の顔引っ叩いたかよーーく考えな」


「……あ、はいわかりました。では俺は退勤しますね」


「ミルリーゼ……あなた」


 彼をフォローしようと声を上げるエル。

 その目を見返すミルリーゼは冷ややかだ。


「平民が貴族をぶっ叩いたんだ、解雇で済むだけ温情だよ。エスメラルダはよ行くぞ、作戦は行きながら練るぞ。ついてこい」


「………はぁ、というわけだから自由参加でいいわ。不参加者はここで待機してて。ロッドさん、お大事に」


 そう言い残して先に店を出ていったミルリーゼの小さな背中をエルは追いかけた。

 犯罪組織がどれくらいの規模かわからないが、少女二人で壊滅などできるわけがない。


「すみません、お嬢さんが迷惑をかけます。本当、最近は誰のいうことも聞かないんです。旦那様は昔から仕事で忙しくて、あまり相手ができなかったからグレちゃったみたいで……イテテ」


 ロッドは申し訳なさそうに再度頭を下げると、エプロンを脱いだ。

 店の閉店を知らせるように札をcloseにすると、慣れた手つきで閉店作業をする。


 解雇通知をされたばかりなのに、律儀な青年の仕事っぷりを見ながら、店舗内に残された仲間は顔を見合わせた。


「………オレは行く、子どもが誘拐されてるなんて知ってそのままになんて出来ねぇよ!」


「わたくしも同じ気持ちです。エル様についていきます」


 カイルとセラフィナはお互いに目を合わせて頷くとそのままエルの後を追ってブラン商会を出ていった。その場に残ったのはオズとレオンだ。


「どーーすんよレオン」


「どうするもこうするもない、危険な所にエル様を行かせるわけには行かないが、止めたら止めたでエル様が怒りそうで」


「まぁそうね。お嬢様も……誘拐されたって言う子供も心配だしねえ」


 オズは小さく呟いた。彼の性格からしたら意外なセリフだ。

 ミルリーゼが落としたままで放置していった紫の髪色のウィッグを拾ったロッドが相談する大人組に同情の目を向ける。


「うちのお嬢さんもそんな感じです、お互い苦労しますねレオンさん……あれ?」


 ロッドはレオンの名前を呼んだことで何かに気付いたのだろう。ハッとした顔をして、壁の貼り紙の中に埋もれたレオンの手配書を二度見する。


「あーわかっちゃった?正解よ店員くん。認識阻害魔法を自力で解くなんてすごいじゃん」


 いつのまにか、禁煙のルールを破って煙管を吸い始めたオズが煙を吐きながらウインクをした。

 となりでレオンは少し頭を抱えた後、覚悟を決めたのか歩み始める。


「ロッド殿、変な気を起こさないように。俺はいつでもミルリーゼ嬢を斬れるので」


 釘を刺すように一言、こちらを見つめる青年に言い残した。


「………お、お気をつけて」


「レオン行く感じ?じゃオジさんもついていくよ。ここにいたってどうせ暇だし」


「エル様がすでに向かわれているのに俺が行かない選択肢があるわけないだろう」



 旧都の闇夜の中、二人の男は消えた。

 ブラン商会に残された青年はその背中を黙って見送った後、壁の手配書を剥がし、くしゃくしゃにして屑籠の中へ投げ捨てた。









「おー全員集合じゃん、景気がいいねぇ」


 ミルリーゼに導かれたエル一行は旧都の郊外の廃教会にやってきていた。

 元は聖ルチーア教会の施設だったらしいが、旧都という土地柄、信仰が続けるのが難しく施設は数年前に閉鎖されたらしい。


「ミルリーゼ嬢、少しでも余計なことをしたらおまえの首と胴体は即離れることを念頭に置いて行動するように」


「ひえーんおっかないお兄ちゃんだ。シスターさん助けておくれよ、お兄ちゃんがいじめるよ」


「ミルリーゼ様……」


 セラフィナの背中に隠れながらミルリーゼは煽るようにレオンを見た。


「ミルリーゼ、あなたに協力してあげるのだから私の仲間の気分を害するようなことはしないで」


「してないって、勝手に気分を害するそちら側の問題。受け取り方が下手くそなのさ、もっと柔軟な心がたいせ………いてててて、お兄ちゃん無言で髪引っ張るんじゃないよ!!」


 レオンは慈悲もなくミルリーゼのみつあみをひっぱる。


「ミルリーゼ嬢、はじめに言っておくが俺は女でも普通に殴るからな?」


「いてててて……やめろってば、わかるよお兄ちゃん女泣かせてそうな顔してるもん」


「それは言葉の意味が変わるからやめろ」


「どういう意味なんだ?」


 レオンとミルリーゼのやり取りを隣で聞いていたカイルが疑問に思ったのか、挙手をしながら純粋な目をして首を傾げる。そして、意味を尋ねるように他の仲間に目線をおくる。


「………オジさん、カイルはそのままでいてほしいな」


 渋い顔をしたオズはそれ以上は何も言わずに、カイルの赤い髪をわしゃわしゃと撫で、同意するようにセラフィナは無言で頷いた。




「ミルリーゼ、まず私のことはエルって呼んで」


「あぁいいよ。じゃあ僕のことは叡智の集結、超絶美女のミルリーゼちゃんって呼んでくれ」


「わかったわ、口が裂けても呼ばない」


 ミルリーゼのノリノリな提案をエルは顔も見ずに却下した。


「で、ちんちくりんは犯罪組織のことはどこまで知ってるんだ?」


「おいお兄ちゃん、ちんちくりんって僕のことか!?いてててて三つ編み引っ張るの禁止!」


「叡智の集結、超絶美女のミルリーゼ様、廃教会はもう使われていないのでしょうか」


「うん。昔はシスターさんとか居たけど旧都の人ってルチーア教に当たりが強い人多いじゃん、石とか投げられてみんな引っ越してったんだ」


 セラフィナの質問にミルリーゼは廃教会を眺めながら答えた。


「……僕は聖ルチーア教もルチーア様も別に嫌いじゃないよ?」


 自身の中で思うことがあったらしい彼女はセラフィナのシスター服の裾を掴みながら上目遣いで付け加える。その心遣いが嬉しかったのかセラフィナは優しく微笑み返した。


「跡地を犯罪組織に利用された感じか、それで叡智の集結、超絶美女のミルリーゼちゃんは作戦は練れたの?」


「ふふん、まぁね。僕にかかればすぐに作戦なんぞすぐに作れる」


 オズの問いに自信満々に答えるミルリーゼ。

 その隣でカイルは新たな質問をぶつけた。


「その変なあだ名でそのまま通すつもりなのかミルリーゼ」


「ちんちくりんもやめるタイミングがなくなって引っ込みつかないんだろ、そっとしておいてやれ」


「だからちんちくりんって言うな!!」






 ミルリーゼは地面に、彼女が覚えたという廃教会の見取り図を描く。


「このあたりに子供たちがいる、変えてなければきっとそのまま」


 一番奥の部屋を印をつけて、わかりやすいようにする。

 場所の位置的に誰にも会わずに辿り着くのは不可能だろう。


「誰かに見つかったら戦闘は避けられないわね、オズ、認識阻害を応用していい感じに姿を隠す魔法とかないかしら?」


「悪いね、ないんだよ。認識阻害もこちらが行動したらすぐ切れる。意識されない状態を保たないといけないからそこまで万能魔法じゃないんだ」


 先ほどのロッドの会話でも、彼がレオンを意識した瞬間途切れてしまった。

 魔法は万能そうに見えて案外脆いのだ。


「いえ、わかったわ。やはり殴り込みしかないようね」


 ミルリーゼの描く見取り図を見ながら、低リスクで突破できる方法を模索する。


「廃教会と知らずに迷い込んだシスターを囮にするって作戦はどうだい」


「セラフィナが危険だから却下」


 エルは首を振ってミルリーゼの案を拒否をした。

 そんな危険な作戦など、絶対にセラフィナにやらせたくなかったからだ。


「じゃあ僕が清楚なシスター役をやってやるからお姉ちゃんの服を貸してくれない?」


「ミルリーゼが清楚なシスター……?」


「あぁ適役だろ」


 カイルの疑問符をミルリーゼは自信満々に答えた。

 隣で少し考えていたセラフィナは覚悟を決めた目をして頷いた。


「エル様……わたくしやりますわ。やらせてください」


「………またセラフィナを酷い目に合わせたくないの」


 エルの脳裏をよぎるのは、この街に向かう際に起きた王立騎士団による酷い取り調べだ。

 同じ女性として彼女に起きたことは許し難い。

 二度とあんな目には仲間として絶対に合わせたくない。


「大丈夫ですわエル様、わたくしにおまかせを」


「また護衛役やるかい?」


 あの時と同じ配役をオズも立候補する。


「いんやダメだ。おじさんはいない方が良い。いくならお姉ちゃん一人で行って。向こうに最大限の油断をさせる」


 オズの立候補をミルリーゼは制止した。


「一人なんて尚更ダメよ、危険すぎる」


「そんな保険ばっかかけてたら意味がない。やるならとことんやれ。勝算はあるから言ってるんだ。生半可な気持ちでやるんじゃないよ。それに清楚で可憐なシスター役は僕がやるって言ってるじゃないか」


「………ミルリーゼ様、わかりました。わたくしがやりますのでおまかせを」


「その心意気だよお姉ちゃん。どれ商会から持ってきた魔物用の痺れ薬があるからこれを顔面にぶっかけてやれ」


「不要ですわ。わたくしには“神のおゆるし”がありますので」


 セラフィナは手首を鳴らしながら微笑んだ。

 言葉の意図がわからないミルリーゼは「お、おう」とだけ相槌を打って隣にいるエルに「教会の退魔の魔法かなんか?」と尋ねる。


 エルは何も言わずに首を振った。






癖強めガールが仲間になった。

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