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奔走編 旧都②

 




「お嬢様、答えは見つかったのかい?」


 オズと二人になってしばらくして、エルは不意に尋ねられた。

 彼が何のことを言ってるか間髪を入れずに察する。

 ガラハッド領で尋ねられた問いかけだ。


「何がしたい?の答えでしょ。私は私の誇りを取り戻すわ」


「具体的には?」


「オズ、私はね。リリエッタたちの死は望まない。残酷な目に合えなんて尚更思わない、私は私の名誉を回復させてあの馬鹿どもに頭を下げて謝ってもらえればそれで十分なの」


「……甘いな」


 エルの決意を聞いて、オズは素直に感想を述べた。


「カイルにも言われたわ。でもね、私は……エスメラルダ・ロデリッツはこの国一番の令嬢だったんだから、あいつらに奪われた誇りがあれば私は何度だって輝ける。あいつらが謝るまで絶対に許さない。

 だから、それまでは私の力になってくれるかしら、名前も知らない魔法使いさん」


 エルは真っ直ぐにオズの灰色の目を見た。


 オズは偽名だ。本名は不明。

 胡散臭い見た目と話し方で、言動も生活態度も不真面目な男だ。


 だがこの旅で、彼は何度もエルやレオンを助けてくれた。エルはオズのその行いを信頼という形で返したかった。


「………エル」


 旧都の街の中、日差しさす街通りの真ん中で男の目にはエルの真っ黒な髪がすこしだけ金色に輝いたように見えた。


「仲間になった時に言っただろ、お嬢様の投資額が働きに見合うまではオジさんはお嬢様の味方だよ」


「本当に現金な性格ね。まぁいいわ、これから頼りにしてるわよオズ」


「仰せのままに、お嬢様」


 オズは演技かかった様子で頭を下げて礼をした。


 その下げた顔が、彼をいつも取り巻いていた野心のない穏やかな顔をしているようにエルに映った。









 旧都の一角、


 表通りの喧騒から離れた裏路地の一軒の店にエルは入る。


 目的の店はミルリーゼ・ブランの実家が経営しているブラン商会の旧都にある店舗だ。

 ドアに立て付けられたベルが扉の開閉に合わせて音が鳴り店への来客を告げる。




「……らっしゃっせー」




 中に入ると薄暗い狭い店内は、たくさんの陳列物が有象無象に並んでいて、奥の小さなカウンターには本を読みながらこの店の店員と思われる女性がいた。


 紫色のボブカットに大きな色眼鏡をつけた女性は、入ってきたエル達にそう声をかけて、読んでいる大衆雑誌から目を離さなかった。


 第一印象は接客態度がかなり悪い。


「見たことない品ばかりね、マヨネーズにチョコレート……何かしらこれ」


「異国の食料品を置いてるんかね……冷やさなくて大丈夫なのか?」


「自分バイトなんでわかんないっすー」


 適当に陳列された見慣れない商品を見ながらオズが呟くと、聞いていたのかカウンターの店員はページをめくりながら答えた。




 しかし、店内の棚には埃が舞っていて、あまり品質は褒められたものではないようだ。


「ねえ、ここブラン商会のお店でしょう?ミルリーゼさんはいるかしら、私は王都からきたミルリーゼさんの学校の友達なんだけど」


「個人情報なんで教えられないっすー」


 カウンターに向かってボブカットの店員に尋ねた。

 店員は持っている本から一ミリも顔を上げずに答える。


「この商会の娘のミルリーゼさんはいないか聞きたいのだけど」


「何回聞かれても教えられないっすー」


 ぺらりとページを捲って女性はエルの目すら見ない。何だこの店は、とエルは怒りそうになるのを喉元までこらえた。

 エルの怒気に勘づいたオズは背中を撫でて「どうどう」と宥める。


「私、しばらくこの街にいる予定だからミルリーゼさんがもし帰ってきたら言伝をお願いできないかしら?」


「無理っすー」


 終始塩対応の店員に我慢の限界が来たのか、エルは棚の商品をぶちまけたくなる衝動に駆られる前にブラン商会を退店することにした


「……あざっしたー」




「………この店、公爵家のツテで潰せないかしら」


「お嬢様、こらえてこらえて」


 いつもならレオンの役目だろうが、レオンがいないのでオズが宥め役を買って出た。

 レオンがいたらエルに無礼を働いたとみなして女店員に向けて剣を抜いたのかもしれないが。


「店員の接客も酷いし、店の中は暗いし汚いしなんかいろいろ雑な店ね」


「閑古鳥が鳴いてるみたいだし、あんまり経営も上手くいってなさそうだねェ」


 オズはブラン商会の店舗をもう一度見る。

 看板の留め具も外れかけていて、正直他の店に比べても見窄らしく感じるのが正直な感想である。


「ミルリーゼの手がかりはなし、とんだ無駄足だったわ」


「レオンたちと合流するかい?まぁこういう裏路地の店舗は公爵家のお嬢様が来るような店ではないし、庶民の店なんてこんなもんがだいたいよお嬢様」


「市民の生活も大変なのね……」













 店の前の客がどこかに去ったのを確認して、カウンターで雑誌を読んでいた女店員は本を閉じた。


 かけていた色眼鏡を外すと、グラスの色で隠れていた瞳は空色の輝きを放つ。


「お嬢さん、誰か来たんですか?」


 店の奥から、エプロンをつけた青年が顔を出した。

 奥で何か作業をしていたのだろう。


「ロッド、表に塩を撒いといて。詐欺師が来たんだよ。人様の友達を語るだなんて図々しいやつ」


 女性は腕を組むと、エルの去った方角に向けて盛大に舌打ちをして不満そうにそう漏らした。




癖の強そうな女が現れた。

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