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奔走編 旧都①

 






「街に入る前にちょっといいかいレオン」


 旧都の近くの村へ帰る途中だったという荷馬車の青年にお礼を言い別れた後、オズが手を上げた。


「何だ」


「認識阻害の魔法、おまえさんにかけてやるよ。レオンを見てもレオンだとわからなくさせるやつ。流石に身内とか友達レベルだと誤魔化せないが、手配書レベルの縁なら気づかれないと思うぜ」


「そんなこともできるのか?」


 初めて聞く魔法にレオンは素直に驚きを隠せない。

 オズは手慣れた様子で呪文を唱え、レオンにかけたようだ。


「さすがオズね、これからも頼りにさせてもらうわよ」


「はは、どうも」



 オズはガラハッド領でエルとの問答の後も、何事もなかったかのように付き従ってくれている。

 今回の旧都行きを改めて告げた時も、「分かった」

 とだけ言って肯定も否定もしなかった。


 そもそもその時は、オズも酷い二日酔いをしていてそれどころじゃなかったという事実もあるのだが。


「……これでレオンは見つからなくなるのか?」


 不思議そうにカイルが、魔法をかけられたレオンの様子を伺った。

 エルもセラフィナも特に変わったようには見えなかった。


「オズ殿の魔法を信じます。行きましょうエル様」


「えっ」


 あっさりと受け入れたレオンの言葉にエルは驚きの声を漏らした。

 レオンといえば、過剰すぎるオズへの警戒と殺意のイメージがあったので、ここですんなりと受け入れるとは思わなかったのである。


「おっさんとレオン、いつの間にそんな仲良くなったんだ?」


「まぁ一緒に酒飲んだ仲だからな、オジさんとレオンはもう生涯の友だよ、なぁ?」


「何を馬鹿なこと言ってるんですか、オズ殿あまり馴れ馴れしくしないでいただきたい」


「あれ?仲良くない……のか?」


 肩を組もうとしたオズの手を払いながらレオンはにこやかに答えると、そのままスタスタと旧都の街の入り口へと向かう。


「大人って複雑なのね……」


 エルはいまだに、不思議そうにレオンの背中とオズを見回してからレオンの後についていった。




「わたくしはオズ様とレオン様はとても仲良しに見えますわ」


 一人残されたオズにセラフィナが微笑みかける。


「セラフィナちゃんまじ天使……オジさんの心を癒して」


「うふふ、またお酒に誘ってくださいね」


「あぁ……うん、いつかね」


 酒ときいてガラハッド領の出発日の盛大な二日酔いを思い出したオズは、顔を青くしながら慈愛の笑みを浮かべるセラフィナに愛想笑いをした。





 旧都中心部は、王都と同じくらい栄えている。

 王都が身分ごとに住居区画が分けられ整備された都市だとしたら、旧都の方はそこまで区画整備はされてない印象で、茶色い壁の住居建築が並ぶモダンな雰囲気の街並みの所かしこに衣装や宝飾品の取り扱う店が軒を連ねていた。


 暗褐色のテラコッタ調に敷き詰められた石畳の道は行き交う馬車や人の流れができている。

 王国中からたくさんの人がやってきて常に人が行き交う王都に住まう人々に比べると、旧都にいる人々はどこか旧都の中だけで生活が完結させているような閉鎖的な雰囲気もあった。


 旧都の街の中心部には、エルたちが通った王立学園の姉妹校にあたる学園が存在した。

 大きな時計台がある特徴的な建物だ。


 閉鎖的な環境である旧都からわざわざ王都の街までやってきたソフィアの過去を探るのが今回の目的である。

 そのためには、彼女の過去を知っている可能性が高い失踪したミルリーゼを見つけなくてはいけない。




「ミルリーゼ・ブランが既に死んでいる可能性は?」


 今回の目的をガラハッド領で語った際に、オズはやはり冷静だった。厳しい目で地図を睨みながらエルに問いかける。


「生きてるかもしれないでしょう」


「……お嬢様、『かもしれない』でガラハッド領から旧都まで行くのはリスク高すぎるでしょ。学園の同級生なんだっけ?なんか媒介があれば探索魔法をかけてみるけど、ミルリーゼちゃんと縁のある品とかないの?」


「生徒名簿は?」


「んー、やってみるか」


 オズはカイルが持ち出した生徒名簿のミルリーゼのページを開く。本人が執筆したのが幸いしたのかオズの魔法が示したのは旧都の街全体であった。




「この街のどこかにミルリーゼがいる。探すのは大変だけどやってみましょうか」


「エル様、ミルリーゼ嬢の情報はございますか?」


 レオンは街ゆく旧都の街の兵と思わしき男に目をやりながら尋ねた。

 兵士たちの視界にレオンは入っているようだが、こちらに反応する気配はない。

 オズの『認識阻害』は完璧に作動しているようだ。


 ちなみに、余談だが魔道帝国であったノクタリアとの建国戦争の影響でアステリア王国の王都には建国の聖女自らが施した対魔法の結界があるのでこの魔法は王都では通用しないとオズは語った。


 魔法は万能だが完璧ではない。


「何でもかんでもはできんよ、箒に乗って空は飛べないし、時も戻せない、死んだ人間も蘇ることはないのさ」


 と煙管を吸いながら説明したオズはどこか自嘲するような目で笑っていたのがエルには印象的であった。



「ミルリーゼは私の記憶が確かだと銀髪で髪を三つ編みに編んでて空色の瞳の小柄な女の子だったわ。背丈はベティより小さいくらい」


「おお、結構小さいな……確かに普通科でそんな感じの女子を見たような気がしてきた」


 カイルの妹のエリザベートの背丈はエルより頭一つ小さいくらいである。エルたちと同い年と考えると、ミルリーゼ・ブランは小柄な印象だ。


「銀髪のおさげちゃんね、まぁ探してみますか」


「それじゃ二手に別れる?しばらくしたら、またここに集合って感じで」


「エル様、ミルリーゼ嬢の記憶のあるカイルとエル様で別れて……万が一に備えて戦力も偏らないようにしましょう」


 レオンは的確に提案を出す。


「戦力で考えたら、レオンとオズも別れた方が良いわね。それじゃ私はオズと行くわ。来なさい」


「……だ、そうだ。悪いねレオン。お嬢様はまかせな」


 エルは即座に判断すると、「えっ」と固まるレオンを置いて迅速に歩み出した。








「えっとオレたちも行こうぜ、レオン泣くなよ?」


「泣いてなどいない」


「レオン様、落ち込まないでくださいね」


「落ち込んでなどいない」


旧都編、開幕です。


学園から失踪した同級生のミルリーゼ・ブランちゃんを探します。

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