表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/248

奔走編 旧都への道②





同時期、ガラハッド領にて




「閣下、街の城門に王国騎士団が来ています」


「………」


「街への入場を求めていますが許可しますか?」


ガラハッド騎士団の訓練場にて、訓練の指揮をしていたガラハッド辺境伯は、部下からの知らせを聞いて盛大に眉を顰めた。




「これはこれはガラハッド辺境伯閣下。街に入る許可をいただきありがたく存じます」


「……王家の騎士がこんな辺境まで何の用かね」


「こんな田舎では知らぬ噂かと存じますが、実はいま王都ではとある令嬢の捜索にお偉いさん方が必死でしてね。王家の婚約指輪を持ち逃げして若い男と逃亡した公爵令嬢を探しているのです」


「………」



エスメラルダのことを言っていると、ガラハッド辺境伯は即座に理解した。

だが、彼女らは少し前にここを発っているのだ。

追手に接触する前にこの街を去った彼女の幸運を辺境伯はこっそりとほくそ笑んだ。


「少し前からその公爵家の手のものが、この辺りに探しにきていたようですがどうも閣下が街への出入りを許さなかったようでロデリッツ公爵家から王家に泣きつきが入ったのですよ」


「……ロデリッツの古狐の手先が、街で変な事をしでかさないか私としては心配でね」


「閣下とロデリッツ公の仲は存じ上げております。では捜索は勝手にこちらで行いますので」


ロデリッツ公爵との不仲は王国内でも有名なので、街へ私兵が入ることを許さなかったガラハッド辺境伯の行為を特に疑問に思った様子もなく、王家の使いだという騎士は恭しく形式だけの礼をするとそのまま部下に指示をして、無数の部下が街中に散らばった。


「金髪の美しい公爵令嬢……ふむ、私も見かけた記憶はないがまぁ何かわかったら知らせてくれ」


「はっ!ご協力感謝します」


エスメラルダは今は短い黒い髪で冒険者の服を着ている。王家に伝わるエスメラルダ・ロデリッツの情報とは一致しないだろう。


街にいる間はガラハッド邸に滞在させたので、彼女の情報が漏れることはないと踏んだガラハッド辺境伯は、知らぬ存ぜぬを貫いて心の中に彼女の情報を閉じ込めた。


「(カイル………うまくやれよ)」


彼女の元に付き従う息子を思い、街中に散らばる王立騎士の背中を無言で見送った。








一方、その頃。



ガラハッド領から旧都に向かうエルたちは荷馬車に揺られていた。


エルとセラフィナが道を歩いていたら、通りがかりの旧都方面への馬車を引く青年が親切にも「乗っていくかい?」と声をかけてきたのでありがたく後方を歩いていた男性陣三人共々乗せてもらったのだ。


美しいエルと可憐なセラフィナの二人旅と勘違いした荷馬車の青年はどこか残念そうにしている件はエルは気づかないふりをしてあげた。


「しかし王立騎士団が腐敗してるとは聞いていたけど、まさかあそこまで酷いなんて」


エルは荷馬車の上で地図を広げながら、先日の検問事件を思い出して憤怒した。

大切な仲間に最低な事をしたのだ、エルは何度も思い出しては「やっぱり私も殴っておけばよかった」と怒っている。


「良いのですよエル様……でも、そこまでエル様に思っていただけるなんてわたくし光栄ですわ」


「セラフィナが優しすぎるんだわ。あの野郎ども、顔は覚えたからもし会うことがあったら絶対ぶん殴る!」


王妃教育の賜物の記憶力の良さを発揮したエルは、そう言って明後日の方に空パンチを繰り出す。


優しすぎるシスターは、間髪入れずに不埒な行為を働いた者を腹パンで沈めたりしないと煙管を蒸しながらオズは思ったがめんどくさいのでツッコミはしないでおいた。


「すみません、旧都にはどれくらいで着きますか?」


そんなエルたちの会話を横目に、レオンは馬車を運転している青年に尋ねる。


「あと少しで着くよ、お兄さんたち観光かい?劇団は休止中だからいま大きな舞台は特にやってないと思うけど」


「……舞台?」


レオンと青年との会話を愛用の槍を磨きながら聞いていたカイルが首を傾げる。


「旧都の街は、名前の通りノクタリア帝国時代の首都だ。帝国がなくなった後は街並みはそのままで、主に歌劇や劇団などの芸術産業で有名な街になっている。服や装飾品の店も多い」


「ノクタリア帝国って、建国の聖女がぶっ壊したっていうあの?」


「そうだ。まぁ本当に壊したかどうかはわからないが、聖女ルチーアは戦場を拳ひとつで駆け抜けたと聞くな」


拳と聞いて、エルは思わず隣で微笑むセラフィナを見る。

セラフィナはこの旅で何度も自慢の鉄拳を披露してくれている。

出会ったばかりの修道院のあった山に住み着いた魔狼をぶん殴り、一撃で仕留めたあの姿は忘れたくてもエルの脳裏に強く焼き付いている。



「………どうかなさいまして?」


「いや………」



聖女ルチーア教、怖い。

そう思ったエルはそっと心の中にしまった。



そんなエルの心境も知れず、馬車に乗った一行は旧都へと順調に進むのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ