奔走編 辺境の夜②
※ちょっと不穏回
カイルと別れて、客室に戻ったエルはあたたかな寝台に潜って考えた。
昼間のオズの提案を受け入れたら……仮にリリエッタを火刑に処したとしよう。
炎の中で泣き叫ぶ彼女の姿を想像して胸がすっきりとする思いは予想よりもしなかった。
それよりも自分の中でいらないものを燃やしている、ただの作業にしか感じなかった。
リリエッタを生きながら燃やしたところで、エルの失ったものは帰ってこない。
輝かしい公爵令嬢としての日々も、次期王妃としての誇りもだ。
「私の失ったもの……」
エルの世界の全てであった、学園、ロデリッツ家、王宮。その全てから飛び出した外の世界は楽しかった。
恐ろしい魔物や、兵との追いかけっこは時にスリリングだが、エルの知らないことがたくさんあって信頼のできる仲間に囲まれて毎日のように笑っていた。
だが、おそらくこの日々は続かない。
いつまでも楽しく旅は続けてはいられない。
「………私の名誉を回復させて、リリエッタたちに地べたに頭をつかせて謝らせたい。リリエッタもアルフォンスもソフィアも、学園にいたあの愚かな同級生たちも。その為に私はまだ立ち止まってはいられないわ」
エルは寝台の中で考える。
その為にはどうすれば良いか。
目を閉じて、思案の海へ浸った。
いつのまにか寝具の暖かさに包まれているうちに寝てしまっていたのかエルは夢の中にいた。
不思議とエルはこれは夢であり、現実ではないとわかる夢であった。
ここはどこだろう、見知らぬ町の風景が広がり群衆が何かを取り囲んでいた。
『大罪人…………………の処刑を開始する』
物騒な兵士の声がして、ぎょっとしたエルは咄嗟に群衆をかき分けた。
誰かが殺されそうになっている。
もしかして報奨金のかけられているレオンではないかと焦り、ぐいぐいと人の波を進んで最前列にやってきた。
エルの目に入った、今にでも火刑にかけられそうな事態になっていたのは、予想外の人物だ。
「……これで満足ですかエスメラルダ様」
全身を拘束されて、火刑にかけられたのはソフィアであった。
「ソフィア……」
「これで満足ですかエスメラルダ様、私今から死んじゃいますけどこれで満足ですか?リリィも死んでアルフォンス様も死んで、とてもとても満たされたことでしょう」
「どういうこと?」
「大丈夫ですよエスメラルダ様、地獄であなたを見ています。また会いましょう。ご機嫌よう」
己の身に炎がついてもソフィアは笑っていた。
燃え盛る炎の中で、ギラギラと紫紺の瞳を輝かせて笑い続けた。
「愚かな魔女を殺せ!」
「公爵家に罪を被せた悪女を殺せ!」
「神の鉄槌をー!!」
群衆が騒ぎ立てながらも、石を投げつけられて怒号が飛ぶ中でもソフィアは最後まで笑い続ける。
エルの脳裏に、歪に歪んだ紫の光が絡み付いて離れない。
「……やめて!!私はそんなこと、望んでなどいないわ!!!!」
叫ぶ自分の声で目が覚めた。
夢なのに妙にリアルで恐ろしくて全身が震え上がっていた。
「……何かを企んでいるソフィアをこのままにするのは絶対に良くない。私はやはり旧都にいってミルリーゼを探さなくてはダメな気がする」
次の目的地は、お告げのようにすんなりと確定した。
ソフィアの過去を知るかもしれない学園から消えた女子生徒、ミルリーゼ・ブランの捜索。
エルの旅はまだまだ続く。
久しぶりのソフィアちゃん
アルフォンスとリリエッタとの格の違いを感じていただけると嬉しいです




