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学園編⑤【リリィ視点②】

 




 夕陽差す中庭で手を取り合ったあたしたち、結論で言えばソフィアはとてもやさしい子だった。

 クラリスとベスのいやがらせは、あの後も何回か続いたけど、あたしはもう一人じゃなかったから何をされても平気だった。


 しかし、まったく何が気に食わないのかとソフィに愚痴ると、ソフィは「リリィがかわいいから嫉妬をしているんだよ。ほらあの子達リリィに比べたら……ね」と失笑して、あたしの味方になって慰めてくれたんだ。

 確かにクラリスはちょっとふとましいし、ベスはそばかすだらけの癖毛だ。

 間違ってもエスメラルダ様みたいな美しいご令嬢ではない。


 はー、やっぱりかわいいって罪なのね。

 その夜あたしは鏡を見ながら笑っちゃった。由緒正しき貴族令嬢であるソフィにかわいいって言われたのすっごく嬉しかった。



 次の日の放課後、あたしがひとりでいるとクラリスとベスがやってきて、反射的に怯えるあたしに何かをしようと企んでるのかニヤニヤしてきたの。


 あたしは「嫌だな」って思って、逃げようとカバンを抱えたら出入り口に先回りしたベスがあたしを通せんぼして、立ち止まったあたしの背中をクラリスに蹴飛ばされていた。


「いたぁぁい…!」


 蹴飛ばされてそのまま床に伏せたあたし、顔からダイブしたから顔面からぶつけちゃった。

 って、ちょっと!貴族のご令嬢がそんなことするなんて反則じゃない?

 不満を訴えようとあたしは痛む鼻を押さえて睨みつけると、すっごい不細工な顔してこっちを見てるクラリスがあたしの足を踏んできた。


「いたぁぁぁい!!」


「ふふん、ゴミを蹴っ飛ばすなんてマナーの先生に知られたら怒られてしまいますわね」


「でも、ゴミは喋りませんから私たちが何も言わなければ誰にも分かりませんよクラリス様」


「そうでしたわね。では、このゴミはゴミ箱にいかないといけませんわね」


 クラリスはそう言って残酷な目で笑うと、わざわざ持ってきたのかゴミの溜まった屑入れをあたしにぶちまけようとした。

 そんなことされたら制服も何も汚されちゃう。助けて、神様。たすけて!


 臭いし汚いしってとにかくイヤ!目を閉じてあたしは何度目かの信仰する名前も知らない神様に祈ったら、突然派手な音をしてあたしを踏んでたクラリスの図体が吹っ飛んだ。


「きみたち、私のリリィになにをしているんだい?」


 お祈りを中断して目を開けたらいつのまにかソフィがいた。

 そしてゴミ箱ごと突き飛ばしたのか、クラリスはゴミ箱を抱えて吹っ飛んでいた。


「……ひっ」


 ベスはソフィのしたことに怯えて固まってる。

 だって侯爵令嬢のクラリスにそんなことをしても許される女子なんて、この学園には公爵令嬢のエスメラルダ様くらいしかいない。


 そしてエメラルドの姫って呼ばれている令嬢の中の令嬢であるエスメラルダ様がそんなことするわけがないから、この学園に事実上のクラリスの敵になるご令嬢は皆無だったのだ。


「……ってソフィ、大丈夫なの!?」


「わからないや、とりあえず逃げよ」


 起きたことが飲み込めず、呆然とする二人を置いてソフィアはあたしの手を取ってごみの散乱した教室から連れ去ってくれた。


 禁止されている廊下を走る罪悪感、それに勝る不思議な爽快感。

 あたしは胸がスッとするのを感じたんだ。


「ちょっとソフィ、はやいよ!ゆっくり」


「ははは、ごめん。追われるかもって思ったら全力だしちゃった」


「ふふっ……わかる。ありがとうソフィ助けてくれて」


「当たり前だよ。助けるって言ったもん」




 あたしはクラリスたちの仕返しが怖くて、その日の晩はずっと神様にお願いしてた。

 ソフィをお守りくださいって!


 そうしたらびっくりしたことに次の日、学園に行ったらあたしはソフィに呼び出されて、遊びのお誘いかとワクワクして出向いたら頭を下げたクラリスとベスが呼ばれた部屋で待っていたの。


「「いままで、意地悪してごめんなさい」」


「えっ」


 何何何何!?どういうこと?

 あの性格ひん曲がった最低のひとたちが頭を下げるなんて、明日は星でも降るってこと?


「リリィ、この人たちの話を聞いてあげて」


 隣でソフィが言うから、私は視線で続きを促した。


「あの……本当はあなたへのイジメなんてしたくありませんでしたの」


「でもね、やれと脅されて私たち仕方なかったんです」


 えっ脅された!?

 この人たちもむりやりだったなんてなんだか可哀想…でも、本当かどうかわからない。

 あたしをゴミだって罵った時、クラリスは本当に楽しそうな顔していたもの。


「誰がそんなことを言ったの?」


 静かに話を聞いていたソフィは、聞いたことないくらい低い声で尋ねた。

 ソフィって、たまに声が低くなると親友のあたしでもゾクッとするくらい圧を感じる時がある。

 友達にそんなこと言いたくないけどちょっと怖いんだ。(……ナイショだよ?)


 クラリスとベスはお互いの顔を見てアイコンタクトをとった後、意を決したように口を開いてある方のお名前を言ったの。



「あなたへのいじめを影で指示してたの、……実はエスメラルダ様ですのよ」


「……あなたたち、あたしのこと本当にバカだと思っているのね」


 はい、絶対嘘決定。

 あたしは思わずわらってしまった。

 あんな高潔で立派な人が、そんなことするわけないじゃない!


 エスメラルダ様とは転校初日に助けてもらってからは、一度も会話をしたことはないんだけどいつも教室にいるだけでオーラがあって、誰もが憧れる崇高なお方。


 エメラルドの姫って呼ばれてるのも知ってるし、あたしもこっそり呼んでるの。


 そんな方に濡れ衣着せようなんて無理だって言おうとしたら、隣で考えごとをしてたソフィアが納得したような顔してた。


「……エスメラルダ様か、なるほどね」


「えっ、ソフィは信じたの!?」


「転校してきたばかりのリリィは信じられないのも仕方ないよ。でもね、彼女には黒い噂がいくつもあるんだ」


 ソフィアはそう言って黒い噂を教えてくれた。

 テストでいつも満点なのは、テスト用紙を横流ししているからとか。


「困ってる人を助けるのは、自分が善人であるとアピールするため。なので彼女は人の目のある所でしか誰かを助けない」


 ソフィに真面目な顔で言われると確かにって思えてきた。

 先日教科書が汚されて中庭で泣いているときに助けてくれたのはソフィだった。

 あの時のあたしは本当に悲しくて、辛くて、でもエスメラルダ様はあの時のように助けてなんてくれなかった。

 手を伸ばしてくれたのは他でもない、ここにいるソフィだ。


 そう思うと、途端にあたしはクラリスたちの話が信ぴょう性のあるものに感じられた。





「あーあガッカリ、あたし実はちょっとエスメラルダ様に憧れてたの」


「世の中に完璧なものなんてないんだよリリィ」


 あたしはすっかり、エスメラルダ様への羨望が消えてしまった。

 とぼとぼと歩くあたしに、先行するソフィがふと前を指さした。


「ねえ、リリィこの先に生徒会室があるんだけど行ってきたら?アルフォンス王子がいるかもしれないよ」


 ソフィアには王子様に憧れてる話はしたことがある。彼女は覚えていてくれたのだ。


「えっ王子様!あたし会ってみたいの!そういえば学園にいるって聞いていたんだ」


「会いに行ってきたらいいじゃん」


「行きたい!ソフィも行こう!アルフォンス王子様、噂は聞いたことあるのよとっても素敵な方なんでしょう」


 うっとりと胸をときめかせてあたしは妄想の中の王子様を連想した。

 フローレンス家に引き取られた頃に、買ってもらった絵本の王子様。優しくてかっこよくて、大切なものを守ってくれる愛しの王子様。

 いつだってあたしの理想は絵本の中の彼だ。


「私が行くのはダメだよ。転校してきたばかりのリリィなら『迷い込んで〜』って言い訳が通用するから、突然の訪問もきっと優しく許してくださるだろうけど」


「えっ、ひとりでいくの!?絶対ムリだよ!!」


「いいの?このチャンスを逃したら二度とお側では会えないかもよ。アルフォンス様はエスメラルダ様と婚約されてる身だし」


 エスメラルダ様。

 その名前を聞いた途端、あたしの中に不思議な対抗心が生まれたの。


 影でいじめなんてやってる酷い女が、憧れのアルフォンス様の婚約者だなんてなんだかすごく許せない。


「あたし行く、エスメラルダ様には負けたくないもん」


「ふふふ、頑張って」


 ニッコリと笑うソフィは背中を押すようにウインクをしたので、あたしもウインクでそれに応えた。


 よし、リリエッタ・フローレンス!

 一世一代の大勝負!行きます!!


 あたしは深呼吸をしてから、勢いよく生徒会室の扉に飛び込んだ。






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