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奔走編 北の街の酒場にて②

 




「じゃあ次はあんたに質問だレオン。おまえさんのこと、知りたいね。話したく無いことは言わないでいい、生まれと経歴を教えてくれ」


 オズの質問が回ってきた。

 ハイペースで酒を進めているのに、その呂律は普段と変わらない。

 酔いなんて実はほとんど回っていないのに先程のやりとりは酔ったふりをしているのだろうとレオンは確信した。


「レオン・ヴァルター、先ほども言ったが次の誕生日で25になる。生まれは……もう概ね話したからいいか、ヴァルター侯爵家という貴族の家だ」


「侯爵家の御子息様だったのですね」


 彼の基本的に丁寧な態度や、佇まいからうすうす感じていたのだろう。

 ワインを一口飲んでから、セラフィナは納得したように頷いた。


「こないだも話したが、父が病で伏してから家は潰れた。母もすぐに父の後を同じ病で追った。兄がいたが家が潰れた途端に出ていった。薄情な男だ」


「……呪ってやろうか?」


「良い。もう10年以上も顔を見ていない。生きているかもわからない」


 オズの優しい声色の提案を断りレオンは酒を勢いよく煽った。

 案外オズよりも酔っていたのはレオンなのかもしれない。普段の彼ならここまで語ったりはしなかっただろう。


「……家が潰れた後は?」


「ヴァルター家の財は強欲な身内が持っていった。俺は修道院に預けられた。14の時に修道院を出る機会があって傭兵になった」


「その後は?」


「傭兵時代に知り合った貴族が後見人になってくれて王立学園に入った。卒業した時にたまたまきっかけがあってロデリッツ家に雇われた」


「そこでエル様とお知り合いになれたのですね、レオン様、お話ししてくださりありがとうございます」


 酒の勢いで彼の語りたく無い過去を聞いてしまったと危惧したセラフィナは、そっと話を切り上げようとする。彼は過去に同じ質問をされた時に言葉を濁したのだ。それは語りたくないというに同義だ。

 酒の勢いで無理やり話させるやり方は、聖職者の彼女としては受け入れられない。


 だがレオンはここで止める意思はないらしい。

 彼の話は続いた。


「エル様が学園に上がるまでの四年間家庭教師をした。主に古学だが、戦術の訓練もつけた。エル様が入学されてからは家庭教師業は終わったが、教師になろうと思ってここ数年は教育の勉強をしていた」


「へぇ、教師……レオンさんよ、教師より俳優になった方が儲けられるんじゃないのかい?その顔なら天職だぜきっと」


 現在に至るまでのレオンの経歴を知って、オズはそう揶揄をした。

 没落貴族の少年が、現在に至るまでそれなりに苦労はしたのだろうが前向きに精一杯生きた彼の経歴はどこに出しても恥ずかしくないものだ。

 その誰にも労われることのない彼の頑張りを年長者としてオズは認めてやりたかった。


「ああ、指名手配犯より余程天職に違いないだろうな」


 レオンは酒を煽った。



「………」


「………」


 レオンの声のトーンが明らかに変わり、セラフィナとオズは視線を交わす。


 そっと、喧騒が包まれ周囲が思い思いに酒を組み合わす場に薄い膜のような魔法がかかった。

 オズによる結界魔法だ。周囲からこちらの会話の盗み聞きを阻止する魔法である。


 何となくオズの魔法使いとしての勘と、セラフィナの聖職者としての感覚がこの先の話は誰にも聞かせてはいけないと察したのだ。


「オズ殿、セラフィナ嬢……もしもに備えて伝えておく。エル様の逃走計画を発案したのは俺じゃない。エル様の兄のエドワルド様だ」


「エル様のお兄様が……」


「………」


 オズは無言で酒を煽った。

 自分の冴え渡る勘に自画自賛を送りたい。こんな話を他人に聞かれたらと思ったら、せっかくの酒の味もわからなくなった。


「エドは俺の学園時代の後輩に当たる。今回の騒動でエル様が屋敷に監禁されて、修道院か王宮の幽閉塔送りにされるとなって俺に助けを求めた」


「おいおい、自分は安全圏にいたまま学校の先輩を死刑台に行ってもおかしくない立場に送ったのかい?」


「エドは難しい立場なんだ。察してくれ……万が一捕まった時はエドワルド・ロデリッツの名前を出せと言われている。もし、今後最悪なことが起きた時はオズ殿とセラフィナ嬢は名前を覚えていて欲しい」


 レオンはそう言って空になったジョッキを、物足りなさそうに見つめた。

 オズは結界の外にいる酒場の店員にジェスチャーで合図をして次の杯を持って来させる。


「今の王国の高位貴族……特に四大公爵家は腐敗が進んでいる。ヴァルター家から騎士団を引き継いだクレイモア家は金持ちの護衛しかやらない、筆頭のデュラン家と王妃の実家であるアルバート家は王家と結託して家の財産を潤すことしか執着がない。この国で真に国を思い動く公爵家は建国からの名門ロデリッツ家だけだ」


「でもロデリッツ公はエル様を……」


「だから子息のエドも難しい立場なんだ。わかってくれ……」


 レオンは暗い面持ちで吐き捨てると、届いた追加のエール酒を煽った。


 その結果自分の首に金貨をかけられているのに、一途に友を思うレオンにオズもセラフィナも尊敬の念を込めた視線を送ることしかできなかった。



※お酒は20歳になってから



レオン先生の過去回。

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