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奔走編 魔法使い②

 




 腹を抱えて床に疼くまるオズを見下ろして、エルは話を仕切り直した。


「レオンもカイルも思うところがあるのは理解しているわ。でも、私は彼を気に入ったの」


 魔法使いの身で杖を手に戦士であるレオンやカイルと互角に戦い魔法で凌駕する。

 オズはエルがこれまでに会ってきた人間の中でも、あきらかに異色の強さだ。


 それは戦術だけではない。


 生きるためにレオンを切り捨てろと冷酷に言葉にできる強さ。

 エルが求めていた復讐を遂行する者としての冷酷な強さをオズは持っているのだ。



「私は彼の強さに惹かれたの。オズもお願い、あなたの強さを私に分けて」


「いいよー」


「まぁ、なんと献身的なお方なのでしょう!」


 警戒心マックスな男性陣を横目に、あっさりとエルの願いを許諾したことで、セラフィナはオズに感嘆の声を漏らした。


「じゃあ今夜は……朝まで語り合おうかお嬢様、セラフィナちゃんも一緒にね」


 まだ腹にめり込んだセラフィナの拳が痛むのか、震えてよろめきながらもエルの肩に手を回し、セラフィナの腰にも手を伸ばす。


「セラフィナ」


「わっ!冗談です!ごめんなさい!もうやめます!!」


 エルがセラフィナの名前を呼んだ瞬間、セラフィナが無言で鉄拳を握りしめたのでオズは慌てて手を離した。





「オズ……殿、とりあえず先程のことは一旦忘れましょう。あなたの本名はなんと?」


「秘密。知りたかったら金払え」


 絵本に出てくる魔法使いの名前を名乗った事で偽名だと看破した渋い顔のレオンの問いかけにオズは煙管に火をつけながら受け流した。

 話すつもりはないらしい。


「ではオズ殿、魔法使いの所属はありますか?」


 国でも貴重な魔法使いは、望めば王城でも貴族の家でもそれなりの待遇で所属することが可能である。

 その代わり、自由は一切奪われる。

 貴重な魔法使いはそれほどの価値があるからだ。


「ないでーす、オジさんは自由を愛するフリーの魔法使いでーす」


 煙を吐きながらオズは答えた。

 嘘をついているような様子はない。


「おっさん、レオンを怒らせると怖いぜ……もうちょっと真面目に」


 青筋が立って、あきらかに怒りが見え隠れするレオンにビビったのかカイルは新入りの魔法使いにそっと助け舟を流した。


「心配してくれるのか少年、大丈夫さオジさんこのお兄さんより強いから」


「………」


 レオンは取り繕って微笑を浮かべていたが、目に見えてわかるくらいに盛大にキレていた。

 そのヤバ目なオーラは、オズ以外の部屋にいる者の背筋を冷やす。


「まぁそう言うことでよろしく頼むよ、治癒魔法はできんが、攻撃に結界、呪詛もできる。お嬢様以外にも何がお困りごとがあったらお安くしとくぜ」


 オズは楽しそうに笑うと、改めて挨拶をした。


「レオンだ。エル様に変なちょっかいをかけたら殺す、以上」


 ドス黒いオーラを隠さないまま、レオンは短く挨拶をする。


「カイル……っす。えっと、おっさんの魔法すごかったから今度いろいろ見せて欲しいっす」


 いろいろなことに恐縮しながら、カイルはレオンに続いた。


「セラフィナと申します。聖ルチーア教会のシスターをしております。治癒の魔法が得意です。何がお力になれることがございましたらお申し付けください」


 セラフィナは、オズ相手にも丁寧だ。

 すでに裏拳を腹に叩き込んだことは一旦リセットして、セラフィナは丁寧に礼をした。


「私はエル。あなたの力に惚れ込んだのは本当よ。あなたの力が私の旅には必要なの、だから裏切らないでね」


「俺の働きが、お嬢様の投資に釣り合いがとれたと判断するまでは味方だぜ。安心しな」


 オズは底の見えない感情を見せた。

 野心の渦巻く瞳は、薄っぺらな言葉だけでは隠すことはできない。




「ところで呪詛って言ったじゃない?人を呪うことができるの?」


「あぁできるさ、本格的なやつはいろいろと下準備が必要だけど簡単なのならすぐできる。早速やるかい?」


「そうね、じゃあお願いしようかな」


 まるでコーヒーを淹れるかのような口ぶりにエルは拍子抜けするが、できると言い切るのならやってもらうことにする。


「じゃ、手を貸してくれ。お嬢様の魔力の記憶を辿るからあんたは呪いたいやつの姿を思い浮かべてくれ」


「わかったわ」


 オズに手を伸ばすと、無数の派手な宝石の指輪とそれをつけるにはささくれが目立つ、特に手入れのされていない大人の手がエルに触れた。


「(私が呪いたいのは……)」


 目を閉じて、思い浮かんだのはリリエッタだった。


 エルを冤罪に陥れた少女だ。


 普通にしていれば愛らしい春に咲く花のような少女だが、笑顔の裏でエルを陥れた実行犯。

 資格なきままにこの国の王妃の座に座ろうとする大罪人。


 あの、したったらずな甘い声、媚を売る目。

 わざとらしい口調にコチラを侮る馬鹿にしたような目。


 思い出す全ての要素が憎らしい。



「………かけたぜ、死んだりするような派手なやつじゃないが今頃ちょっと嫌な目に遭ってるはずだ」


「本当なの……っていうか、指を絡ませないでよ。魔力共鳴なら手を触れるだけで十分でしょ」


「チッ……知ってたのか」


 名残惜しそうにオズは手を離した。


「まぁなんだ、これくらいならサービスで毎日やってもいいぜ。いつでも言ってくれよ」


「復讐は苦しんでる顔を見ないとつまらないから、呪詛はしばらくはお願いすることはなさそう」


 ソファに座ると息をついた。

 オズの膨大な量の魔力に触れたせいか、すこし頭がくらくらとした。









 一方同時刻、王城にて


「きゃあっ!!」


 パキンとヒビが入り、熱々のお茶を飲んでいたリリエッタの上に割れたカップが飛び散った。


「なっ、何!?熱い!」


「リリィ!大丈夫かい!?誰か拭くものを持ってこい!!」


 慌てた様子のアルフォンスがメイドに指示をした。


 その様子を通りかかった王妃が見つけて、眉を寄せて去っていく。


「……あんな娘に、王家の特注のカップを使わせるだなんて……なんと愚かな」


 そう冷たく吐き捨てた言葉はリリエッタの耳にも、ばっちりと届いていた。


「もう、さいってー……」


 怒りと悔しさにリリエッタは小さく呟くと、人知れず涙を滲ませた。




最初の復讐。


五人目の仲間を加えて、エルの旅はまだまだ続く。


エル様の人材発掘・採用スキルは高めです。

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