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奔走編 魔法使い①

 



「契約……っすか?」


 エルはこれまで指に嵌めていた指輪をオズと名乗る魔法使いの前に落とした。

 豪華な金剛石と、細部の飾りが美しい誰がみても高価そうな指輪だ。



「あげる。金貨20枚で買える品では無いと思うわ。アステリア王家に代々受け継がれる婚約指輪よ」


 本来なら今のエルが持っていることは許されない品だ。だが婚約破棄騒動の際、返さないままでいた。

 父が血眼でエルたちを追いかけている理由の一つはこれのせいでもあるのかもしれない。


「!?!?、えっマジ……くれるの?オジさんに?お嬢様太っ腹すぎない……やだー、惚れちゃう」


「あなたは本当に話し方とか腹立つけど、その魔法の腕は確かね。だから、私側につきなさい。その指輪は契約金としてあなたにあげるわ。煮るなり焼くなり好きにしなさい」


 それはエルが、アルフォンスと婚約をした日に受け取った品であった。

 将来の彼女の指に収まるように作られた指輪は、婚約したばかりの幼いエルには大きすぎて、指にしっくりくる大きさに彼女の身体が成長した時の指輪をはめた時の胸の高鳴りを思い出したら、エルの胸は少し痛んだ。


 その後はずっとつけたままで放置していたが、今のエルにはそのへんの石ころよりも価値の無い品物だ。


「お嬢様、心より尽くします」


「よろしい。ではレオンとカイルを回収しなさい。そして聖ルチーア教会の宿に私を案内しなさい」


「はい、喜んでお嬢様」


 オズは指輪を受け取るとそそくさと懐にしまい入れ態度をそれまでの180°変えて媚び諂った。

 その目の奥に、野心の輝きが残っていることは重々承知な上でエルは彼を仲間に引き入れた。








「………ということで、私たちと同行することになったオズよ」


 宿屋の一室にで、呆然とする仲間の前でエルは先程の魔法使いを紹介した。




 広場で爆睡していたカイルを拾い、路地裏で爆発に巻き込まれた際の火傷や無数の切り傷で満身創痍のレオンを救出して、エルはオズと名乗る魔法使いを連れセラフィナの手配した宿屋に辿り着いた。


「我が身はあなた様の為、心よりお仕えします愛しのお嬢様」


「………」


「………」


「えっと、レオン様の傷を治療しましょうか?」


 状況が飲み込めない三人と、成果に満足したエル、気持ち悪いくらいにすり寄るオズ。


 場の空気は混沌を極めていた。


「そうね、レオン。セラフィナの治癒魔法を受けなさい」


「………はい」


 レオンの目は、エルの隣にいる魔法使いに釘付けであった。

 セラフィナが治癒魔法を唱えてはいるが、警戒の目はオズから離れることはなかった。

 何がどうしてそうなった。彼の頭の中はそんな言葉しか浮かばないのだ。


「エル、どういうことだよ!?なんでお前を狙った魔法使いのおっさんが仲間になるんだよ!?」


 やっと思考が追いついたのかカイルは問いただす。

 至極真っ当な問いかけだ。


「だって強いんだもの」


「強いからでーす」


「この戦力がお金で買えるなら安いわ」


「安い安い」


「いちいち話し方がムカつくんだよこのおっさん!!!」


 カイルの叫びに、レオンは無言で同意をした。





「えっと、オズ様とおっしゃるのですね。では旅の仲間としてよろしくお願い致します……ってことでよろしいのですよねエル様」


「そうよ。オズ、彼女はセラフィナ。シスターよ」


 敵意を隠さない男性陣二人に対して、オズと敵対することのなかったセラフィナはオズのテンションに若干の戸惑いを感じつつもまだ比較的温厚な対応であった。


 美しい女性が好きとエルの前で隠しもせずに言ったオズは、目の前に現れた可憐なシスターに目に見えて鼻の下を伸ばす。


「セラフィナちゃん?、へーセラフィナちゃんって言うんだかわいいね。彼氏はいる?よかったら今夜デートしない?」


「えっ……」


 あきらかに周りにいなかったタイプなのだろう。

 オズに声をかけられたセラフィナは固まってしまった。




「エル様………正気ですか」


「正気よ。彼は強いわ。敵にしたら厄介だけど、味方にしたらとても強みになる」


 オズの意識がセラフィナに向かっているうちに、レオンはこっそりと耳打ちした。

 ふたりきりで始まった旅路に気づいたら三人の仲間が増えている。


 未熟だが正義感あふれるカイルや、敬虔な信徒でありエルに献身的なセラフィナが加わることにレオンは不満はなかった。


 だがオズは別だ。


 明らかにこれまでの仲間とは、人間としての種類が違うのだ。


「お金と割り切れる分、逆に信じられるのだけどレオンは違うの?傭兵を雇ったって割り切って頂戴」


「そうですか……申し訳ございませんが、私はまだあの男を信用できません」


「それでいいわ。あなたの心まで支配しようとは私は思わないもの」


 部屋の真ん中で、セラフィナに抱きつこうとしたオズをカイルが止めている。

 煩わしくなったエルは低い声で命ずることにした。




「セラフィナ、裏拳を許可するわ」




 次の瞬間、鈍い殴打音が宿屋の一室に響いた。


胡散臭い魔法使いが仲間になった。

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