奔走編 信仰都市⑦
「私を捕まえるだなんて素晴らしいわ、あなたの名前を教えてくださる?」
エルは悔しさと惨めさで気が狂いそうになるのを耐えた。
なんとか突破口を探ろうと、真っ直ぐに魔法使いを見据える。
「ずいぶんと謙虚になったねェ……お嬢様、お褒めに肖り光栄です。オジさんのことはそうですね『オズ』とでも読んでください」
男は演技かかったように、大袈裟な礼をすると、絵本の中に出てくる有名な魔法使いの名前を名乗る。
絶対に偽名だとエルは確信した。
「オズ……あなたの目的はなに?」
「何って金貨ですよお嬢様。あんたの身柄とレオン・ヴァルターには公爵様から金貨が出るんだわ。オジさんこの世でお金が一番好きなの。お金があれば他はなーんもいらないの」
あ、でもお酒と綺麗なお姉ちゃんは欲しいかな、なんてニンマリと笑うとオズは拘束されて動けないまま地べたに座り込むエルを満足気に見下した。
「慎ましいお嬢様に入れ知恵してやるよ。あんたは公爵家に帰ったらそのかわいい顔に涙のひとつでも浮かべながらこう言いな『私はどこにも行きたくなかった。あの男が私を脅して連れ去った。本当はもっと早くに帰りたかった』」
つまる話、レオンに罪を全て着せろということだ。
エルは歯を食いしばって屈辱に耐えた。
「そんなこと……」
「あんたのお抱えの剣士は、王都に着いたら刑場行きは免れないが、あんたはまだここから可哀想な被害者にもなれる。公爵令嬢はそれが許される立場なんだ。使えるモンはなんでも使うのが賢い生き方ってやつなんじゃないかねェ」
ふぅっとキセルの煙を吐いて、男は真面目な顔をして述べた。
「できないわ……」
「じゃあ男と一緒に処刑場まで仲良くしてな。おまえさんはどうなるかは知らんが、助かる方法があってもこれは嫌、あれも嫌ってわがまま放題。そんなんだからこんなことになるじゃないのかい?公爵令嬢エスメラルダ様?」
オズは冷たい口調でそういうと座り込んだままのエルの胸ぐらを掴んでニンマリと笑う。
反論の言葉を探しても、いまのエルには見つからなかった。
「………っ」
ポロリとエルの翠玉のような瞳から涙が溢れた。
ついに耐えられなくなったのか、エルは大粒の涙をポロポロとこぼし、俯く。
「ヤベ、泣かせちゃった……ごめんねオジさんこわかった?」
「っ……っぐ、ひっぐ」
俯くエル。
拘束こそ解かなかったが、オズと名乗る男はエルを立たせると、服についた汚れを払ってくれた。
「ほら〜!オジさん、ちゃんと公爵家についたら口裏あわせてあげるから、レオン・ヴァルターが殴ってたことにしよう!エルちゃんは怖くて逆らえなかった、そうだね。そういうことにしよう!」
「……オズ」
「んー?仲直りする?お嬢様、短い間だけどオジさんがレオンの分まで守ってあげるよ?オジさんもレオン・ヴァルターに負けず劣らずわりとイケオジじゃない?」
「………よ」
エルは俯きながら口を開く。
聞き取れなかったオズが再度尋ねようとした瞬間、エルの膝蹴りが油断した男の股間を強打した!
「舐めるんじゃないわよ!!!レオンはあんたより何倍もハンサムで素敵よ!!!!」
「◯×△◎※☆ーー!?!?」
男は股間強打を喰らった途端その場にうずくまった。
一瞬意識が飛んだせいか氷結の拘束魔法は消え、エルはその隙に男の杖を没収した。
「う………そ、れはナシでしょお嬢様……」
「うるさいわね。でもあなた、いろいろと勉強になったわ」
悶絶しながら力なく倒れるオズ。
エルはその身体の上に座って、奪い取った杖の先で男の震える頭を叩いた。
「……ねえオズ、私と契約しない?」
エルはうさんくさい魔法使いを勧誘した




