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学園編③【リリィ視点①】

 



 あたしの名前はリリィ、又の名をリリエッタ・フローレンス。

 最近までは田舎町で暮らしていた極々平凡な女の子。でも、あたしって本当は貴族の子だったんだって。

 まぁ、田舎の孤児院の中であたしだけ妙に可愛かったのは否定できないかな。

 光に当たるとピンク色みたいに見える髪はお気に入りだしチャームポイントだと思う。


 あたしはちっちゃい頃に孤児院に預けられたからお母様の顔は知らないけど、きっとお母様もとびきりの美人なんだと思うの!

 あたしを探しにきたのは、王都に住むフローレンス男爵って貴族の家来の人なんだって。

 フローレンス男爵は昔、家でメイドをしてたお母様と結ばれてあたしを授かったけど、平民のお母様は男爵様と身分の差があって周囲に結婚を反対されたから私を連れて出て行ったって教えてくれた。


「リリィちゃん、私を父と呼んでいいんだよ、これからは貴族として……リリエッタ・フローレンスとして暮らそうね」


 男爵様、あ、お父様か!

 あたしを迎えたお父様は、私に『リリエッタ』という名前を贈ってくれたの。

 本当の貴族のお嬢様みたいでとっても素敵な名前よね。


 そしてお父様は優しくあたしを迎えてくれたけど、あたし勝手に孤児院の近くに住んでたご夫婦のお父さんみたいな若々しい人を想像してたから、思ってたよりおじさんでちょっとだけガッカリしたの(もちろんこれは内緒)

 お母様、いったい何歳の時にこのおじさんといい仲になったんだろう。


 おじさ……コホン、お父様は私に優しくて欲しいものはなんでも買ってくれたの。

 毎日のように新しいものを着れるくらいのたくさんの綺麗なお洋服や、孤児院にいた頃は誕生日と建国祭の日にしか食べられないあまーいお菓子、それにかわいいうさぎのぬいぐるみに、綺麗な絵が描かれた絵本。

 でも、すこしだけ絵本のプレゼントを受け取った時、あたしはガッカリしちゃった。


「お父様ありがとう、でもあたし文字わからないんだ……習いたいって言ったら許してくれる?」


 お父様はあたしのおねだりに最初はびっくりしてたけど、すぐに家庭教師の人を雇ってくれた。

 あたしは家庭教師は王子様みたいなハンサムな人がいいっておねだりを重ねたけどそれはダメだって。


 家庭教師にきたのは、地味な女の先生だった。

 14歳になっても簡単な文字もわかんないあたしにはじめはびっくりしてたけど、丁寧に文字を教えてくれた。


 その甲斐もあってか、あたしはすぐに文字が読めるようになってお父様がくれた絵本も読めるようになった。


 絵本の内容は王子様とお姫様の恋の話。

 可哀想なお姫様は、周りのひとの助けもあって王子様と結ばれて幸せになる御伽話。

 絵本の中には意地悪な継母や、性格の悪いいやがらせをしてくる悪女も出てくるの。

 そんな壁にも負けずに、前を向いてひたむきにがんばるお姫様はあたしの理想の女性となった。



「ねえお父様、あたしもお姫様になりたいな」


「なれるさ、私のかわいいリリエッタなら」


 お父様はシワの浮いた大きな手であたしの頭を撫でてくれて、あたしは夢を肯定してくれたことが本当にうれしくて喜んだっけ。





 それから何年後かのある日、お父様はとびきりのお土産を持ってきてくれた。

 お仕事で忙しいお父様は不在のことが多いから、あたしがお父様の顔を見たのは何ヶ月ぶりだったっけ。


「リリエッタ、王立学園に通えるぞ」


「おーりつがくえん?」


 そこは選ばれた貴族の中でも、選ばれた家の子が通う学校なんだって。


 貴族はみんな偉いと思ってたけど、貴族の中にも爵位っていう階級があってお父様の爵位は貴族の中では下の方なのを知ったのは文字を覚えてすぐのことだった。

 男爵位は王宮のパーティは基本的に大々的にやるやつ以外は呼ばれないから、あたしが憧れの王子様のいる王宮に行くことはお父様の家にきてから数年経っても一度もなかった。


 あたしが何回、屋敷の窓から見える立派なお城を眺めたかなんて覚えていないけど、新春を祝うパーティも、マナーがなんとかって家庭教師の先生が言ったから貴重なチャンスにお父様は連れてってくれなかったし!

 だから王立学園には、アルフォンス王子様が通っているって聞いて、あたしの胸はドキドキした。

 会ったことないのに恋を知ったようにときめいた。


 偶然学園の席が空いたから、あたしが通えるようにってお父様が手を回してくれたんだって、もう本当に感謝だよお父様!





 あたしは新しい勉強道具と可愛い制服で、早速学園に通うことにしたの。

 学園の中は男子も女子もいたけれど、教室は教科ごとに別れていて、あたしの通う教室は淑女科と呼ばれるクラスで、当たり前だけど教室の中には女子生徒しかいなかった。


「今日から通うことになったリリエッタ・フローレンスです!リリィって呼ばれています!どうぞよろしくお願いします!」


 そう言って頭を下げてから顔を上げる。

 うん、貴族の女の子たちって田舎町にはいないようなタイプ。

 みんな髪のてっぺんから爪の先までキラキラにしててとっても綺麗。


 あたし、この子たちに紛れて大丈夫かな?浮かないかな……?

 そんな心配をよそに、あたしは先生に指された席につこうとしたの。



 そしたら聞こえたんだ…


 すれ違いざまに女の子の冷たい声でぼそっと……




「嫌だわ、土くさい」






 うん。ダメだった。あたしは数年前まで田舎町で畑を耕してたんだもん、田舎娘は貴族の学校にいちゃダメみたい。


 あたしを土臭いってバカにした女、クラリスは休み時間にわざと私の後ろの席に取り巻きの女(ベスって呼ばれてる)と座るとずっとクスクス笑ってるの。


 腹が立つよりもあたしは居た堪れなくて悲しくて、気づいたら泣きそうになってた。



「お父様にお手紙をかかなきゃ、田舎くさい女が転校してきたから空気が澱んで大変ですって」


「クラリス様お可哀想、私も大切なものが盗まれないか心配だわ。平民は貧しいから私たちの私物だって手に入れるのは大変ですものね」


「……っ!」


 なんでなんでなんで、何もしてないのに。


 あたしは居た堪れなくなって、でもどこに行っていいかわからなくて机で小さくなって縮こまった。


 授業は難しくて退屈だったけど、こんな嫌がらせを受けるよりは何倍もマシだった!

 はやく授業が始まるように神様にお願いしてたら、多分神様じゃない人から救いの声がかかったの。


「あなたたち、そんな大きな声で自らの品位を下げるお話をして恥ずかしくないのですか?私、聞いているだけで恥ずかしくてたまらないの」


「エ、エスメラルダ様……」


 透き通った声にあたしが振り向くと、金髪のものすごい綺麗な女の人がいた。あ、制服着てるから同級生なんだけど、本当にすっごい綺麗な人。

 絵本から出てきたお姫様みたいな人!


「理解はできて?」


 エスメラルダ様って呼ばれたその子はニッコリと、すっごい上品に微笑んでくれたの。

 あたしはその姿に胸を打たれて、なんかエスメラルダ様の圧倒的な貴族オーラの前にはクラリスもベスもすっごく小物に思えて、こんなのに萎縮してた自分がバカみたいって思えてきたわ。


 でもね、クラリスもベスもしつこかった。

 流石に堂々と教室で嫌味を言ってくることは減ったけど、エスメラルダ様がいない時は懲りずにチクチク嫌がらせをしてきたし、あたしの私物に泥まみれにされていたこともあった。


「学園で土遊びしたの?さすが田舎者ですわね」って、泥だらけの教科書を見てボーゼンとしてたあたしにむかってクラリスが笑ってきた時は、ぶん殴ってやろうかと思ったの。


 でもね、あたしは知ってる。

 クラリスの家の爵位はあたしの家よりうんと高い、ベスの家もちょっと高い。


『学園の中ではみんな平等』なんて校則があるけど、そんなの大嘘だ。

 学園のカーストはそのまま爵位が反映されるし、廊下のど真ん中を腕を振って歩けるのは王族と公爵家の人間だけ。

 あたしはいつだって廊下の隅を誰かにぶつからないように気をつけて歩いていたんだ。

 あたしがクラリスを殴ったら、たぶん大変なことになるの。

 だからグッと堪えて、クラリスたちが早くどこかにいなくなれって心の中の神様にお祈りするしかないんだ……。


 ぼろぼろにされた教科書を抱えて、あたしは気づいたら裏庭の隅で泣いていた。

 あたしははじめて授業をサボっちゃったんだ。

 ポロポロと溢れる涙は止まらないから、制服で拭うしかない。

 お気に入りのお花の刺繍のハンカチは少し前から行方不明になってるんだもの。



 その時、あたしの視界に白いハンカチが映った。


「……ふぇ?」


 差し出された白いハンカチを思わず受け取ると、あたしの前にはいつのまにかひとりの女の子が立っていた。


「大丈夫?あなたが心配で探したの。私はソフィア。あなたと同じクラスなのだけど」


「あっ……うん、ありがとう」


 清潔な白いハンカチを受け取りながらあたしは考える。

 サラサラのストレートな暗めの焦茶色の髪、長いまつ毛で美人だけど、本当にごめん正直覚えてない。

 ちょっと地味な感じだから印象に残っていないってのが正直な感想だった。


「その反応、覚えてないんだね」


 かなしいなあって、ソフィアは残念そうに笑った。

 私を心配してわざわざ授業を抜け出してきてくれたのにあたしは申し訳なくなって手を合わせた。


「ごめん……あたし、まだ学校に慣れてないの!なんでもするから、ゆるして!」


「いいよ、じゃあ友達になってくれたら許してあげる」


「えっ」


 その言葉にあたしは頭を上げた。

 にっこりと微笑むソフィアはあたしに手を差し出したの。


「私、ああいうイジメきらいなの、だから私と友達になってよリリィさん。私があなたを守るよ」


 夕日をバックに笑うソフィア、逆光のせいで顔が見えなかったけど差し出された手をとったらとても温かったの。


 エスメラルダ様も私を助けてくれたけど、手を差し伸べてくれたのはこの学園に来てソフィアが初めてだったからあたしはこの手を信じようって決めたんだ。





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