奔走編 信仰都市②
セラフィナはこのまま本部に行くというので、あとで教会で運営するという宿屋で落ち合うことにしてエル・レオン・カイルはせっかくなので街を観光することにした。
少なくともセラフィナたちルチーア教の宗教家たちは、必要以上の財を持つことは戒律で禁止されているのでレオンの懸賞金目当てに近寄ってくるものはいないとのことらしい。
それなら大丈夫だろうということで、早々とシスターを脱ぎ捨てたレオンはいつもの服に戻り、街中を散策することにした。
「これが聖女ルチーアね。ふーん、なんか少しセラフィナに似てない?」
街の中心にある少女の銅像は、建国時代の聖女のものだ。
神の信託のもと、群衆のために立ち上がり当時この地を支配していた闇夜の帝国を倒したのだという。
「そうですね……聖女ルチーアは不思議な力……おそらく魔法を使うと言い伝えがあります。セラフィナ嬢も回復魔法なら使えるとのことですし何やら繋がりがあるのかもしれませんね」
「セラフィナは性格とかも聖女っぽいもんな。優しいし、料理もうまい」
野宿中の炊事を思い出したのか、カイルは腹減ったと呟いた。
セラフィナが加入するまでは道中は硬い保存食で空腹を誤魔化していたので、彼女の作る温かい料理はエルたちにとって至福の一皿となった。
「彼女のおかげで食材を、現地調達でなんとかすると言う選択肢ができるのは良いことですね」
「彼女を誘った私の目に狂いはないわね」
三人で過ごした初めての夜、謎の食材でスープを作り出し男二人にこの旅最大のダメージを与えたエルは己の人材発掘力に自信満々だ。
「エル様の料理も、刺激的でよかったですよ」
「……レオンおまえ吐いてたじゃん」
「うるさい、あれを食べて死ぬなら本望だ」
「なんで私の料理で、死ぬ覚悟を決めてるのよ」
「魔法って、あの炎とか雷とか出すやつよね」
「その理解であってます。他にも傷を癒す治癒魔法や人を呪う呪詛魔法があります。魔法使いは現代では貴重ですから実際に見る機会ははぼないと思いますが」
生まれた時点で魔力が備わっていて、その上で魔法を使う技能が不可欠だ。
この世に生を受けた時に魔力がない時点で魔法使いにはなれないし、エルのように魔力はあっても、それを具現化する術を扱うことができないことも珍しい話ではない。
魔法使いは原則として己の身内にしか魔法を伝授しない。身に宿る魔力は高確率で遺伝するので、親と子などの血縁関係でないと自らの操る魔法を教える事が難しいらしい。
魔法には個人差があり、同じ炎を出す魔法でも火力も勢いもバラバラだ。
己と相性の良い魔法を学ぶなら、遺伝によりほぼ同じ魔力を宿す親から習うのが一番効率が良いのだ。
「魔法使い……魔法が使えるってのはこの国じゃすごい価値があるもんな。王宮にも魔法使いは数人しかいないらしいぜ」
「昔この地にあったノクタリア帝国は魔法の一大帝国でもあり、魔法によって支配層が民を圧制していたらしいからな。帝国がなくなった後、魔法使いへの弾圧が始まった。その影響で、魔法使いの数も減った。魔法使いだと言い出さないものも中にはいるかもしれないが」
レオンはそう言うと、突然黙り目を細め周囲を伺った。
あたりにはエルたちのような観光客と、信仰都市に相応しい多種多様な宗教家がいるだけで、特に異変はない。
「何かいる?」
エルは小さな声で尋ねた。
カイルも警戒したのだろう、おしゃべりをやめて周囲を伺う。
「どうも殺気を隠せていない者がいるようです。誘い込もうと思うので少し離脱します、エル様はこちらで待機を。カイルはエル様のお側に」
レオンはそう言って、離れていく。
彼はこの短時間で彼なりの最適行動を考えたのだろう。
彼がエルたちから離れた瞬間、彼の後を追う影があることに、カイルは気づく。
「エル、レオンを追ってる奴がいる」
「……追いかける?」
「レオンはここにいろって言ってたぞ」
二人は視線を合わせる。
しばらく考えてから、お互い小さく頷いた。




