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奔走編 信仰都市①

 




「……本当に着ないといけないんですね」


「はい、お似合いになると思いますわ」



 修道院を出てから五日目、幸運にも追手の手はエルたち追いつくことはないまま旅路を順調に進めた一行はとある町のすぐ近くの廃屋にいた。


 エルとカイルは、街に入る城門を眺めている。


 エルの父の私兵の姿は見えないが、街の入り口には街の兵士が関門を張っており、街に入る人物をチェックしているようだ。



「信仰都市……か。セラフィナの教会の本部があるんだっけ?」


「はい。人目のある街に入るのは得策ではないと重々承知ですが……旅立つ以上はわたくしの所属を山の修道院から無所属にしておきたいのです」


「教会の制度は詳しくないけど、あなたがそうしたなら街に行きましょう。私も野宿ばかりはしんどいし。だからレオン、そのシスター服さっさと着なさい」


 セラフィナに相槌を打つと、エルは彼女の持つシスター服を指差して、やんわりと彼女の提案を拒絶するレオンを叱咤した。


「宗教家が多い街ですから、聖職者の服を着ていれば街の兵もきっと深く取り込んでは来ないと思いますわ」


 セラフィナは大きなサイズの修道服を持ちながら、やさしく微笑んだ。

 レオンはサイズが大きいとはいえ、女性の服を着ることにとても強い抵抗を感じている。

 勧めてくるのがカイルだったら間違いなく張り手が飛んでいただろう。



「プ……絶対似合うって……うん、レオン……顔良いからさ……ぷぷぷ」


 当のカイルは、当事者のレオンと目を合わせないようにそらしながら笑いを必死に耐えている。


「このガキ殴りてえ」


「わ、わるかった……マジトーンは怖いから……やめて、ぷぷぷ……」


「あー、念の為レオン。それ着たら次は化粧ね、セラフィナの化粧道具貸してもらえないかしら?レオンの顔、作ってくれないかな」


「はい、仰せのままに」


「エル様、化粧だけは勘弁してください!!!もう本当許してくださいシスター服着るんで」




 こうしてエル一行に二人目のシスターが加わった。


 セラフィナの言葉通り、明らかに大柄なシスターでも疑うものはいなかった。

 ルチーア教会には、バトルシスターやバトルモンクと呼ばれる戦闘に特化した聖職者がいるらしい。


「バトルシスターっていうのはあなたもなの?」


 純粋な好奇心でエルが尋ねると、セラフィナは「私なんてとてもとても」と首を振って否定する。

 おそらくとてつもない戦闘集団なのだろう。


「きっとレオン様もそちらの部隊の方だと判断されたと思います。それに教会は権力と相互不干渉が基本ですから、少し怪しいくらいでは職務質問されたりもしないと思いますわ」


「……そうすか」



 信仰都市と呼ばれたエルたちが訪れた街は、セラフィナと似たような服を着た聖職者がいたるところにいる。

 中にはエルたちの中で一番背の高いレオンより背が高く見えるシスターが歩いているところも見えたので、セラフィナの言う通りシスター服でベールを被ったレオンもそこまで街から浮いている感じはしなかった。


 至る所に信仰する神々や過去の聖人の像が建てられて、その周りには彼らの功績を称えた碑文がある。


 街に根付く宗教はひとつだけではないようで、セラフィナのような聖職者の姿をした者もいたら、遠く海の向こうの東方の国の衣装に袖を通し、馴染みのないお経を街の中で読むものもいる。

 さらには全身をサイケデリックな派手な柄の布に身を包んだ謎の集団もいて多種多様な世界観が街の中で広がっている。


 こんな近くに多数の宗教が存在して大丈夫なのかとエルは不思議に思ったがセラフィナ曰く、


「聖ルチーア様は博愛の聖女様ですから、他の宗教を見下したりはいたしません。東方の宗教の方々はルチーア様を多数いる神様のうちの一人と認めてくださっております。他の宗教の方々も聖ルチーア様を隣人として敬ってくださいます。わたくしたちにその精神がある限りは信仰都市で均衡が崩れることはございません」


 とのことらしい。


 レオンに言わせたらめんどくさい宗教勢力を一つの街に閉じ込めて王宮側が管理をしているとのことだった。

 王宮の手がまったく回ってないことはないらしく、信仰都市の中にはやはりレオンをはじめとした王都からの手配書がいくつか貼られている。


「レオンの報酬金、少し増えてるな。ロデリッツ公はあんたを追うことに本気出してきてるんじゃね?」


 カイルは、貼られていた手配書を一枚手に取った。

 こないだまでは金貨10枚だったはずが、20枚に倍増している。


 その金貨なら、一流の賞金稼ぎが動き出してもおかしくない。


「カイル、お前もエル様といる期間が長くなっていったらここに名前が載る可能性もあるぞ。用心しろよ」


「その時は一緒にシスター服を着て………いででででで」


 シスター服をからかおうとしたカイルの口をレオンは強く掴んで引っ張った。


「ふぉめん…ふぉめん……ふぇふぁふぉふぁいっふぇ」


「このクソガキ、お前そろそろ本当に説教されたいようだな」


「あなたたち、仲良しね」


 二人のやりとりを間近で見ながら、エルは呆れたように吐き捨てた。






「見ぃつけた、俺の金貨20枚」


 そのやりとりを、少し離れた距離から街の一角から眺める男が一人、咥えていた煙管の煙を吹き出して誰にも聞こえないように呟く。


 隣に、立てかけてあった杖を手にするとレオンの姿を見て、にんまりと唇を吊り上げ笑いながらひっそりと路地の奥に消えていった。





あやしい男があらわれた

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