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奔走編 魔狼④

 




「……私は許可なく夜の山に入ることを禁止にしたが、それを破り魔狼を倒した。おまえが言った事に間違いはないね」


 エルが修道院に戻ってゆっくりと身体を休めていると、セラフィナとは違うシスターが部屋に来て応接室に呼び出された。


 身支度を整えてから応接室に向かうと室内にはセラフィナと司祭、そして机の上には昨夜倒した魔狼の牙と、紙が一枚。

 嫌な予感がして近寄って紙を見ると、エルたちのことが書かれた手配書であった。


「セラフィナ……ジュリエット殿、いえエスメラルダ様とお呼びしよう……これは一体どういう事ですかな?」


 司祭に正体がバレた。

 その事実を察した途端、エルの肝が冷えた。

 逃走するべきか悩むが荷物は部屋に置いたままだ。

 扉の前には先ほどのシスターが立って退路を塞いでいる。


「はい司祭様、どうにか狼を追い払おうと一人で山に入ったわたくしをジュリエット…いえエスメラルダ様たちが追いかけて救いの手を差し伸べてくださったのです」


 なんとお優しい方なのでしょうと、演技ではなく心からそう思っているように手を組んだセラフィナは司祭の問いかけに答えた。


「………」


 司祭は黙ってセラフィナの言葉を聞き入れる。

 彼はセラフィナのことをどこまで知っているのだろうか。


 レオンにかけられたロデリッツ家からの報酬は金貨10枚。平民なら一年は働かずに暮らしていくことも可能かもしれない。

 魔狼討伐を依頼した冒険者に、金がないと言っていた司祭だ、その金貨があればこの修道院にとってもありがたいのではないか。


「(そこの椅子で司祭を殴れば逃げられる?セラフィナに倒して貰えば可能か……いや彼女が上司を殴れるか。最悪の場合、彼女を置いて逃げた方が良いのかしら)」


 エルは冷静に状況を整理した。





「魔狼を倒したのは、『駆け落ちしてきた令嬢ジュリエットと恋人のロミオ、そして護衛のマキューシオ』つまり、そういうことなのだね。セラフィナ」


 長い沈黙を破ったのは司祭であった。

 手配書を手にすると、ビリビリと破り捨てて部屋の隅の屑籠へ捨てたのだ。


「……よろしいのですか司祭様」


「ジュリエット殿、麓の街に見知らぬどこかの私兵が今朝到着したようです。どうか、修道院の裏の道からお逃げくだされ」


 驚いたエルに司祭は聖職者に相応しい、慈愛の満ちた目で示した。


 見知らぬ私兵はおそらくエルの父の手先だろう。追っ手の足は、すぐ近くまでやってきているのだ。


「司祭様、シスターセラフィナはエスメラルダ様に追従しようと思います」


「セラフィナ……わかったおまえがそうしたいならそのように。聖職者として正しい行いをしなさい」


 セラフィナは司祭の老人に、親愛のハグを交わすと司祭のシワだらけの手が彼女の背中を優しくなでた。


「セラフィナ……いいの?」


 追従ということは、ついてきてくれるというらしい。

 エルはそれを望んでいたが、本当に叶うとは思わなかった。


 敬虔な神の信徒である彼女に、この復讐の旅路を歩ませることへの罪悪感もあった。


「かまいませんエスメラルダ様、わたくしはあなた様のお力に……そして、心を照らす光になりたいのです」


 セラフィナはエルに近づくとエルの手をとった。暖かな温もりが、触れただけでエルを覆う心の闇がほんの少し救われるような気がした。


「……ありがとう」


 声が震えて、目頭から熱いものが込み上げそうなのを上を向いて耐えた。

 セラフィナの慈愛が、今のエルには眩しすぎた。


「エスメラルダ様、未熟な娘ですがどうかよろしくおねがいいたします。なにぶんのその……少し力加減が苦手なところがありますが、悪い娘ではないことは私が保証いたします。どうか手足としてお使いください」


「改めましてエスメラルダ様、このセラフィナ・リュミエール、神とあなた様のために心身ともに尽くしますわ。不束者ですがよろしくおねがいいたします」




 その後、修道院を去ることを同僚のシスターや孤児院の子供達に告げ、泣き出した子供を慰めたり、シスターたちから激励をされながらセラフィナは身を寄せる修道院をエルと共に後にした。






 修道院の門で、エルの姿を待っていたレオンはエルの隣にシスターが一人、旅支度をしてついてきたことに気づいて眩しそうに目を細めた。


『もう二度と誰も信じない』


 と、エスメラルダが死んだ夜にこの世の全てを呪う勢いでそう言い切った彼女が自らの意思で仲間にしたのである。


 きっとなんらかの意図があるのだろう、彼女の忠実な駒である自分はエルの意思に従うだけだ。




「待たせたわ、それじゃ……行こうか」


「おー、改めてよろしくな」


 門に寄りかかってエルたちを待っていたカイルは、セラフィナの姿を見えたので親しげに挨拶をした。


「よろしくお願いしますカイル様、レオン様」


「裏道から逃げろとのことよ。お父様の兵士が、麓の町まできてるみたい」


「わかりました。では参りましょうか」


 レオンは行き先を見据えながら、歩き出した。

 追手がすぐ近くまできている、修道院でのしばしの休息期間は彼らに心身の回復と、心強い仲間を与えた。



つよつよシスターのセラフィナが仲間になった。

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