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饗宴編【幕開け】エスメラルダ①

【祝】200話

いつもお読みいただきありがとうございます!

 




「や〜ん!!!めっちゃ可愛い!!!」


 辺境伯のタウンハウスに明朗快晴な声が響いた。


「お姉ちゃんすごい!こんな美人、僕初めてみた!!」


 姿見があるガラハッド夫人の部屋を借りて、セラフィナがパーティーに参加する為のドレスを着付けた。

 着ているのは華美になりすぎないという本人のリクエストを元にした上品な金糸の刺繍が施された純白のドレスだ。胸元に聖ルチーア教のモチーフのアクセサリーを付けて、彼女は聖職者なので白いドレスを着る権利があることを大々的にアピールする。


「主役を食べてしまうわね」


 後方で腕を組み、ドヤ顔をしてセラフィナを見るエルはすでに王宮のメイド服に身を包んでいた。彼女はこの姿で今宵のパーティーに紛れ込む気でいるらしい。


「王宮メイドの美少女コンテストがあったらエルちゃんがぶっちぎりで優勝やで!」


 ドレスと共にメイド服を持ってきたメイスは親指を上げてグーサインを向けた。

 称賛の言葉にエルは満足気に手を上げてそれに応える。


「ありがとうメイスさん。まったく……くだらないパーティーよりそっちを開催しなさいよ。王宮の奴らは気が利かないわね」


「エルのその謎に自信に溢れてるところ、僕本当に親友として誇らしいよ」


「………」


 セラフィナは一人、鏡を見て黙り込んでいる。


「大丈夫?気に入らない?どこか直そうか」


 そんな彼女に気づいたミルリーゼが首を傾げた。


「あ……いえ……」


「緊張しとる感じか?緊張ほぐしに酒でも飲むか?」


「メイス!!」


「冗談やん……ミルリーゼさま、怒らんといてや」


 セラフィナが戸惑いを浮かべている理由はエルには明白であった。


『髪型なんだけどね、ルチーア様の髪型にすることにしたから』


 ヘアメイクを施されてる最中にミルリーゼがとつぜん当初の予定と違うことを言い出して、教会のルチーア像をスケッチしたと思われるクロッキー帳を見せてきたのだ。

 セラフィナは自分を聖女と呼ばれることを異様に否定をするので同じ髪型にすることにも思うところがあるのだろう。

 しかし、学園時の授業で習った聖女ルチーアの肖像画のように金の髪をゆるく巻いたセラフィナの姿は、現代の聖女として紹介されても違和感がないくらいに普段の彼女の美貌に神々しさが加えられていた。


「アッシュ殿下にお会いする時に、少しでも不信感を持たれないようにする為にはその髪型は最適だと私も思うわ。セラフィナ……割り切ってもらえないかしら」


「聖女ではないわたくしの身でルチーア様と同じ髪型など、分不相応にもほどがあります」


「じゃあちょっと髪の毛はアップにしちゃおうか、お姉ちゃんが嫌なら仕方ない。それにパーティーに参加するなら下ろしてるより上げてた方が格式としては高いよね」


 ミルリーゼはそう言ってヘアセット用の用具が一式が入った木箱を手にすると、彼女の緩く巻いた髪を手際よく纏め始めた。


「我儘を言って誠に申し訳ございません」


「ええんやで、参加するセラフィナちゃんの意思がいちばん大切や!なぁエルちゃん」


「……そうね、それに髪を上げたら普段と印象が違ってなんだか特別感があってそれはそれで素敵よ。セラフィナ」


「ありがとうございますわ」


 普段あまり自己主張をしない彼女が、やんわりとだが拒否をしたのだ。よほど嫌なのだろう。

 エルはその意を汲んでやることにした。彼女はエルの代わりにカイルのパートナーを務め、アッシュに会って彼を治癒するという本日の主役級の働きを命じられているのだ。髪型くらい彼女の意見を通すべきだろう。


「ふんふんふん〜〜♪、お姉ちゃんの髪、ふわふわで触ってて気持ちいいね、それにとってもいい匂い〜♪あ、メイス髪飾りとって」


「はいよ〜、どれにする?」


「真珠のやつ!……フェイクパールだけど」


「………」


 エルは改めてドレスを見た。

 正直に言うと普段は平民相手に商売をしているブラン商会なので、セラフィナのドレスがどれほどのものかあまり良い予想はできなかった。

 だが、メイスが今日持ってきた彼女が仕立てたというドレスは予想以上に洗練した仕上がりであった。

 エルが令嬢時代に贔屓にしていた高級服飾店のドレスと比べても、大きな差はないだろう。

 辺境帰りの馬車から縫い始めたと言うメイスとミルリーゼが施した金色の刺繍は芸術作品のように見事であった。

 そしてそのドレスを身に纏う今日のセラフィナは、いつもの清廉な美貌に高貴さも加えられて伝説の聖女のように美しかった。


「(リリエッタ、あなたのパーティーにとても美しい花を贈ってあげるのよ。私に歯を剥き出しにして感謝しなさい)」


 エルは最終仕上げをしている三人から目を逸らして一人ほくそ笑んだ。

 リリエッタが本日座る席は本来なら学園を卒業したエスメラルダが座るべき席だったのだ、美しすぎるセラフィナはそれを強引に奪った彼女へのエルからの心からのお礼だ。


「(王妃様のやり方を私は知っているわ、ドレスから髪型まで全部決められて着せ替え人形のようにされているでしょうね。どんな姿になっているのか見るのが楽しみだわ)」


 エスメラルダは知っている。王妃はお気に入りには心から愛を込めた選りすぐりの品を贈るが、興味のない者、認める意のない者には嫌がらせのような品をわざと選ぶことを。本日のリリエッタのドレス姿もエルには興味深い事項であった。


「(リリエッタ、あなたがどれだけ王妃様に寵愛されたのか私がチェックしてあげる。もし、心から愛されているようなら私はあなたへの復讐は諦めて、負けを認めて辺境でおとなしくベティの教育係になるわ。でも、私から席を奪っておいて中途半端なようならあなたを絶対に許さない。私に喧嘩を売ったことを心の底から後悔させてあげる!)」


「エル〜、見て!どうかな!」


 親友の声がしたので振り返ると、先ほどの緩く巻いた髪をアップヘアにアレンジしたセラフィナが立っていた。髪を結った隣にいるミルリーゼはその出来栄えの確認を依頼するようにエルに視線を寄せる。

 そんなミルリーゼのヘアアレンジスキルも、自分から立候補しただけあってプロのものと遜色はなかった。

 セラフィナの意図を汲んで、本人の要望に即座に答えるあたりは彼女の髪結役としてはおそらく一番の適任者であったとも言えるだろう。


「いいんじゃない?真珠の髪飾りもとてもよく似合っているわ」


「ありがとうございますエル様、ミルリーゼ様、メイス様」


「後は仕上げに口紅塗ってメイクも完了やね!セラフィナちゃんは何色が良い?セラフィナちゃんのパーソナルカラーならおすすめはローズピンクかな」


「華美じゃない方がいいならコーラルピンクもおすすめだよ」


 清貧が故に物を選ぶのが不慣れな彼女に、ミルリーゼとメイスがそれぞれ彼女を思った色をセレクトする。どちらの色も今日のセラフィナの姿によく似合う色だとエルは感じた。


「………エル様」


「どうしたの?どっちも素敵で選べない?」


「わたくし、あなた様の色を塗りたいです」


「………!」


 セラフィナは真剣な眼差しで答えた。


「私の色……?、つまり令嬢時代に付けてた色ってことね」


 エルはセラフィナのリクエストを受け取ると、メイスの用意したメイクボックスの中を見る。

 たくさん用意されている口紅から、いくつか選んで手の甲に塗って色を確認し、その中からひとつを選んだ。


「私の付けていた色に近いのはコレね」


「おっ、ええやん!!」


 エルが選んだのは公爵令嬢エスメラルダがよく付けていた真紅の口紅であった。

 真っ赤に染まる情熱の色、鮮やかな赤い血潮の色。エルの中でひしひしと燃える復讐の炎と同じ色。


「うんうん、戦いに行く強いオンナってイメージ!!今日の僕たちにピッタリかも!」


「ドレスが白だから赤が映えるわ。セラフィナ、素晴らしいセンスよ、ご褒美に私が塗ってあげるわ」


「ありがとうございますエル様……最高の誉です」


 メイスはリップブラシをエルに手渡して、エルはそれを使いセラフィナの唇を丁寧に彩った。

 彩度の高い赤い口紅は穏やかな彼女のイメージと少し違うと内心思ったが、赤く唇を染めたセラフィナの姿は彼女に大人な誘惑的な印象が加わり、真紅の彩りを纏ったとびきり魅力的な女性に変貌した。


「こりゃ天下を狙えるね!!もういっそアルフォンス殿下、奪っちゃえ!」


「お嬢さん!!」


 無責任なことを言い出したミルリーゼをメイスは慌てて嗜めた。



エル陣営、一致団結なう。


エル様はたまに思い出したように悪役令嬢ムーブをします。

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― 新着の感想 ―
男爵令嬢(おまけで元平民)のくせして、自分を冤罪で追い落とす位の気合有るなら、当然王妃様に気に入られなければならないし、そうなってれば、寧ろ、評価して身を引いてやるか。
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