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饗宴編 合コンをしよう!②

 









「じゃあ次は趣味やね!また年齢順で言って行こう!ではガレスはん!」


「えっ……自分は、う」


「う?」


 話を振られたガレスは咄嗟に何かを答えかけるが何故か途中で言葉を詰まらせた。

 僅かに震えている体が何かを言おうとして必死に堪えているように見えたので隣に座るレオンは首を傾げる。





「……………うどん打ち」





 ガレスはしばしの沈黙の後に、目を逸らしながら率直に答えた。


「あの……ガレス殿、うどんって何ですか?」


 うどんの意味が理解できないレオンは素直に質問をした。

 博識なレオンでも聞いたことのない単語に、その表情は戸惑いが浮かんでいる。


「わたくし信仰都市の東方の宗教施設で見たことがありますわ、極東の島国のお料理ですよねガレス様」


「ええー!?なんでいきなり異国料理がでたん!?あっもしかしてボケ?拾ってやれなくてすまんかったわガレスはん、あんためっちゃおもろいなー!」


 セラフィナの言葉にケラケラと笑いながらメイスは楽しそうに先ほどマスターから贈られた酒を煽る。予想外のボケは彼女のツボだったらしい。


「馬じゃないんですね」


 この中で唯一、ガレスの狂った馬オタクっぷりを知っているセラフィナは悪意のない瞳で尋ねた。


「馬?」


 今度はレオンは疑問の目で首を傾げながらセラフィナを見る。


「坊ちゃんに今夜は馬関連の発言を禁止にされていまして」


「なるほど〜」


「?????」


「では次はレオン様ですわ」


 セラフィナは一人納得が行った様子で頷くと、まだ残っているワイングラスに口をつけてから場を仕切り直した。


「(酒が入っているから皆勢いとノリだけで会話をしているのか?ガレス殿もあまり酒に強い感じはしないし、もしかしたらすでに酔っているのかもしれない。ここは深く突っ込まない方が良い気がする)」


「レオンくーん、あんたの趣味は?」


 レオンは酒の進みがいちばん遅いガレスを見ながらそう考察した。もし彼もセラフィナと同等に酔いやすいのなら無理に進めたりはしない方が良いと考えたのでそのまま彼のペースを守らせることにする。


 今のところ、ガレスは受け答えも比較的まともだしメイスのように変に絡んでこないあたり信頼はできる人物だ。


「……正直趣味と言われてもこれと言ってない。昔は休みの日は友人と街をぶらついたり、観劇を見たりはしていたが最近は休みの日はだいたい横になっている気がする」


 レオンは普段は睡眠時間は短く、数時間死んだように熟睡することで急激に体力を回復する睡眠方法を編み出すくらいだが、ガラハッドの地はレオンにゆっくりと寝床で横になる余裕を与えてくれたのだ。


 睡眠欲は人間の三大欲求だ。ベッドで横になることを覚えてしまったレオンの身体が次の旅でどうなってしまうか考えると少し恐ろしい。


「(辺境を出る日が決まったら、出発前から元の睡眠方法に戻さないとだな)」


「なんやーレオンくん、だいぶお疲れなんやね。大丈夫か?温泉入るとええで!疲れもイチコロ!」


「メイスさんは温泉が好きなのですか?」


「大好きや!天国やもん!辺境に来てから毎日入っとるよ、この街の公共浴場はほんまにありがたいわ。本当に無料でええの?」


 メイスが言っているのはガラハッドの街に数カ所存在する、公共の温泉施設のことだろう。


 ガラハッド辺境伯が、近隣の火山群から引いた温泉を街の人間が入れるようにと開放しているのだ。


「はい、温泉や入浴は様々な身体的な効能をもたらすとともに衛生状態の向上にも効果があります。体を洗い身を清めることで疫病の発生を防ぐ役割もあるとのことです。お湯は無限に出るのでどうぞお気兼ねなくお入りください」


「天国……ウチ一生ここにいたい!肉も野菜も安いし、新しい店は綺麗だし、ミルリーゼさまもいるしウチが王都に帰る理由がないな!もう一生辺境で暮らそうかな」


「ふふふ、メイス様はミルリーゼ様が本当にお好きなのですね」


 辺境の街の素晴らしい生活環境に感銘を覚えたメイスは力強く力説した。


「ミルリーゼさまもセラフィナちゃんも好きやで!」


「まぁ、ありがとうございます〜」


「………」


 きゃっきゃと花を浮かべながら仲良く会話をする女性陣を、少し戸惑った目でガレスが見ている。


「ガレス殿、若い女性はああいって軽く“好き”とか言いますが、そこまで深い愛があるわけではないので深く考えなくて大丈夫ですよ」


 レオンがそっと嗜めた。口ぶりから初心なガレスに比べてだいぶレオンの方が女性に関しての知識がある様子だ。


「そうなのですね……勉強になります」


「なんやー!レオンくん、ウチは愛があるで!愛がいちばん!ミルリーゼさま愛しとる!!」


「ミルリーゼ様への純真な愛、素晴らしいですわメイス様〜」


「………酔っ払い」


 レオンはダル絡みをしてくるメイスに内心ため息をつくと、酒のグラスを煽った。

 空になったのであまり会話に加わりたくないと割り切っているレオンは二杯目を頼むことにする。




「わたくしの趣味は筋肉のトレーニングです」


「あぁ………」


「さすがですセラフィナ様」


「えっ!?何やセラフィナちゃん、さっきから聞いてたらウチを立てようとしてくれてんの?ええんよ!普通に答えて?そういう気遣いは無用やで!?本当は何が好きな食べ物で何を趣味にしてるん?」


 唐突に暴露されるセラフィナの趣味。

 彼女の鉄拳を知っているレオンとガレスは納得をしたが彼女を清廉なシスターだと思っているメイスは戸惑った。


 もしかしたらこの優しいシスターは、メイスをよく見せようとあえておかしな回答をしているのではないかと思ったのだろう。


「メイス嬢、セラフィナ嬢は嘘をつきません。真実です」


「ええーーー!?まじで筋トレしとるん?」


「してますよ〜、触りますか〜?腹筋」


「………」


 セラフィナはメイスの手を取ると、ボタンを開けて服の隙間から手を突っ込ませる。

 その大胆な様子をみたガレスはあわてて目を逸らした。彼はどこまでも初心で誠実なのだ。


「うわ、バキバキや!!」


 手の感触にメイスは驚き大きな声を上げる。


「セラフィナ嬢、人の目もあるのでやめてください!!あなた結構酔っていますね!?」


「酔ってませんよ〜レオン様も触りますか〜?」


「絶対に触りません。聖職者が無闇に異性に身を触れさせようとしないでください」


 レオンは低い声で嗜めた。

 周囲の客がさりげなく服をめくりあげようとするセラフィナに注目するので、必死に視線をばらけさせようと手で追い払う。


「セラフィナちゃん、顔真っ赤になっとるよ?本当は酔っちゃった?」


「ふふふふふ〜」


「すみません水をください、セラフィナ嬢もう酒はやめてください。ガレス殿も無理しないで」


「すみませんレオン殿」


 恥じらいか良いかわからないが、ガレスの顔も赤くなっていた。

 この男が女性慣れしていないのがよくわかる。自分からはあまりメイスに話しかけないし、メイスとセラフィナが楽しそうに話しているのを穏やかな目で見ているだけなのだ。


「(まぁ、妙に女慣れして胡散臭くて軽い男よりは何倍もマシだが)」


 レオンの脳裏には、昨日密入国疑惑を持ちかけたまま帰ってこない魔法使いの男の顔が浮かんだ。

 大酒飲みでベビースモーカーで女好きなオズに比べたら、酒に弱く煙草も吸わず、女性に不慣れで初心なガレスの誠実さはなんという清涼感に溢れた存在だろう。




「えっと合コンの定番質問は後なんやっけ」


「これ合コンだったんですか」


「合コンちゃうの?合コンって言っても実際は楽しく酒を飲みましょうの会やけどな。じゃあ定番の質問でええ?……好みのタイプは?」


 メイスは楽しそうに新しい質問をした。


「エル様です」


「エル様です」


「………う、……生き物が好きな女性ですかね」



 三人は即答した。

 だが、酒場の白熱灯の下に妙な空気が漂い始めた。


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