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奔走編 旅立ち②

 



 街で偶然出会ったカイルの話を聞いて、エルは驚いた。

 何と彼もエルと同じ日に学園を辞めて出て行ったらしい。

 理由を聞いたらアルフォンスと喧嘩したからだと、あっけらかんとした顔でカイルは答えた。


「親父もカンカンでさ、実家でのんびりしようって遠路はるばる辺境まで帰ったらオレの顔を見るなり『出ていけ!』って怒鳴られてさ、売り言葉に買い言葉で出て行ってやるよって大喧嘩して家出してんだ。なぁエスメラルダ、あんたらはどこか行くアテあるのか?」


「そうね、私は私に屈辱を味合わせた奴の身体中の皮を剥いで塩を塗りたくってやる予定だわ」


「アルフォンスにか?」


「少なくともアルフォンスとリリィとソフィアにはやる予定」


 塩も用意してあるの、とエルが顎で示すとレオンは荷物から塩の詰まった袋をカイルにみせた。


「……その現場オレもちょっと怖いけど見てみたい!オレもあんたらについていっていいか?」


「お断りするわ。私はもう誰も信じないって決めたの。あなたも私にかまわないで自由に生きなさい」


 カイルの問いをエルは冷たく却下した。


「……そっちの兄さんは?」


「私はエル様の忠実な駒なので」


 カイルの視線に、レオンは恭しく礼をすると勝ち誇ったような目で一瞬だけ笑った。


「…………あ、そうっすか」


 その取り合う隙もない様子にカイルは何かを言いかけたが、諦めて飲み込み「それじゃ」とその場で別れることにした。






「エル様」


 市場通りを少し進み、カイルの赤髪が見えなくなるのを確認してからエルはレオンと路地に入る。

 人がいないのを確認してから、レオンは小さな声で打ち明けた。


「カイル・ガラハッド。エル様と同学年の騎士科に所属していた生徒です。実家は北方の辺境領。とある情報によるとエル様が誹謗された事件の後、アルフォンス殿下のやり方やリリエッタ嬢の言動等を大勢の前でやや荒めに指摘して退学処分を受けた様です」


「多分、アルフォンスは心が狭いからカイルとカイルの実家に何らかの罰を与えようとしたんじゃない?」


「ガラハッド辺境伯の人となりは王都でも有名です。私も傭兵時代の魔物討伐の仕事で遠目でみたことがありますが、人としても武人としてもとても尊敬に値する方でした」


「まぁ素敵なお父様だこと」


 皮肉混じりに伯爵の評価を聞いて、自分の父親の人となりを思い出したエルは口を曲げた。

 朧げな記憶だが、父とガラハッド卿の仲はあまり良くなかったことを思い出した。


「これは推測ですが、辺境伯の性格ならあの青年の行動を大っぴらに褒めたりはしないでしょうが頭ごなしに叱ったりはなさらぬでしょう」


「えぇそうね。きっと実家にいたら迷惑がかかると考えて彼は家を出ているのだと思うわ。……そんな素敵な人、私の復讐に巻き込むなんて嫌よ」


「私はエル様の意思に従います」


 カイルの去った方角を名残惜しそうに眺めながらエルはそう決心した。


 もしカイルが、この旅路について来てくれるならなんて都合のいい想像はそそくさと捨てることにした。

 エルは実家に追われている身なのだ。

 レオンだけではなく、ほぼ他人のカイルまで巻き込むのはエルの良心が許せなかった。





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