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饗宴編 強情の結末③

 





 カイルの予想通りガラハッド夫人の用意したランチを食べてから一行は修練所に戻りエルとレオンの王宮行きをめぐる争いの続きを観戦した。


 カイルは審判で、セラフィナは双方を見守り体勢だ。万が一、怪我が発生したらいつでも治癒魔法を使えるように備えている。


「おじさんがレオンで僕がエルね、銀貨10枚!」


 そしてオズとミルリーゼは二人の勝負を賭博にしてそれぞれの持ち金を賭けていた。


「ミルリーゼちゃんマジで言ってんの?正直無理だって、そこで銀貨10枚はドブに捨ててるからせめて銅貨にしな……」


「馬鹿野郎!親友の勝利に賭けて何が悪い!」


「ありがとうミルリーゼ、気持ちは嬉しいわ。でも親友なら人の勝負で勝手にギャンブルをしないでもらえるかしら……レオン、この人たちの掛け金を没収して」


「はい」


 エルは冷たい目でもっともな正論を言い、レオンは彼女の指示に迅速に従った。


「えーんお金返せ〜、なけなしのお金〜〜」


「ミルリーゼちゃんマジで金銭感覚狂ってるからちょっと落ち着いた方が良いよ。こんなこと言いたくないけどおたくの商会大丈夫なの?」


 しくしくと大袈裟に顔に手を当てて泣き喚くミルリーゼにオズは冷静にコメントした。

 一つ屋根の下で共同生活を送るにあたり、いろいろとミルリーゼの生活態度や金銭感覚に、お世辞にもお行儀が良いとはいえないオズでさえ思うところがあるらしい。


「これが終わったらミルリーゼはガラハッド邸に越してきなさい。私があなたの生活を管理するわ」


「やだ!メイスもいるんだよ!メイスをおじさんと一緒にしたくない!!」


「あ……メイスさん……もう!なら私があなたのところに住み込もうかしら」


 エルはミルリーゼの言葉から純粋に受け取り若い女性のメイスの心配をした。

 弟のロッドもいるとはいえ、未婚女性を一つ屋根の下で他人の男と同棲させるのはやはり倫理的におかしいと思うのは普通のことだろう。


 しかし、ミルリーゼはメイスの猜疑心が秘密主義のオズに必要以上の深入りを試みた昨日の暴挙を見ているのでどちらかと言ったらそちらの心配をしている。


 オズは二人の会話を見て、何も言わずに無言を貫いた。余計な口を挟むべきではないと、彼の謎多き人生経験が察しているのだろう。


「あと目を離したら多分メイスが街中のお酒を飲み尽くしちゃうし」


「………」


 ミルリーゼの続く言葉に、オズが二日酔いを悪化させたのか口を覆って顔を青くした。




「で、いつ決闘始めるんだ?」


 カイルはわいわいと話し始めた三人に尋ねる。

 彼が声をかけなければこのやりとりは続くと思われた。

 日暮れまでまだ時間はあるとはいえ、流石にそろそろ再開した方が良いのは明らかだ。


「今からやるところよ!と、とにかくミルリーゼ!あなたの生活態度については親友として近々チェックするから心しておくように!さぁ、やるわよレオン!」


「……このままミルリーゼ嬢とのやりとりで今日は流れるのかと思いました」


 突然話を振られたレオンは、呆れた顔をして答えた。再開すると言い出してからここまでに結構な時間が経っている。

 彼の想定した段取りとかなり差異があるのだ。


「エル様は真剣な戦いの前に親友のミルリーゼ様との交流で心をリラックスされたのですわ」


 そっとセラフィナが微笑んだ。

 尊そうにエルとミルリーゼを見比べて、双方に慈愛の眼差しを送っている。


「でましたね全肯定」


 レオンは相変わらずのシスターに渋い顔をしている。


 彼女とは和解をしたつもりだが、やはり何をやってもエルに関してポジティブに受け取る言動はすぐには変わらないらしい。




「……なぁエル」


「なぁに?」


「おまえとミルリーゼは親友なんだろ?」


 カイルがセラフィナの話を聞いて問いかけた。


「そうよ」


「そうだよ!」


 エルもミルリーゼもアイコンタクトをとった後、カイルの言葉に同時に頷いた。


「でもおまえセラフィナを“いちばんの友達”って言ってなかったか?」


「あ、馬鹿!」


 カイルの純粋な質問を続けるが、トラブルを生みそうな彼のセンシティブな質問にレオンは慌てる。


「ええ、セラフィナは私のいちばんの友達よ」


「……光栄です、エル様」


 尋ねられた本人は不思議そうにしている、質問の意図が理解できないらしい。

 同様にただただセラフィナは嬉しそうにしている。


「ちなみにセラフィナさんは僕の憧れのお姉様だよ!」


「そうなのですか」


「そうだよ、強くて美人なお姉ちゃんは僕の理想!」


「まぁ!とっても嬉しいですわミルリーゼ様」


 エルの前でミルリーゼは甘えた声でセラフィナに抱きついた。

 エルは満足気に二人の抱擁を見ている。


「つまりそういうことよ!理解はできたかしらカイル」


「そ、そうなのか」


「何故これでうまくいくんだ……」


「女心は複雑だから、レオンもカイルも深く突っ込んじゃダメだぜ……仲がいいことには違いがないんだからさ」


 納得したようなカイルと、納得できないレオンを横目にオズは年長者らしくうまくその場をまとめた。






仲がいいことはいいことだ。

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