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饗宴編 お兄様の生存戦略

【祝】100話


王宮回です。今後タイトルがお兄様の◯◯◯◯になっているものは全て王宮が舞台のエドワルド視点の不穏めなお話です。


(饗宴編 とある貴族の生存戦略の続話です)



 




 エドワルドが定期的に会議に参加するようになって月日が流れた。

 ロデリッツ公の策略通り、物静かで容姿の良いエドワルドをカトリーナ王妃は気に入り末席に座ろうとする彼に自分の近くの席を薦めるようになった。


 王妃が示したその席は“寵愛”を意味する席だった。


 それまで、その席に座ることを許されていたデュラン公は苦虫を噛み潰した顔をして、エドワルドを睨みながら席をずれる。


「では、本日の議題は商業ギルドへの課税の増額についてだ」


 本日の議題も金の話である。


 ここにいる貴族達は、少しでも金があるところからむしり取ることしか考えていないのかとエドワルドは内心、不快に思った。

 むしり取った税金の大半は、ここの公爵どもの懐に消えるのだ。その課税に有意義な意味などない。


「ロデリッツ公子、きみの意見をききたい。おとなしく人形のように座って話を聞いているだけでは参加した意味はないのだよ」


 意地悪くデュラン公が問いかけた。


「税を上げる意味が見出せません。現状の課税額で十分かと」


 エドワルドは心の底を悟らせないように、表情を変えずに答えた。


「これだから若造は甘くて困る、話を聞いていなかったのかな?新しい次期王妃のために離宮の建設の財源にするのだ。その為の増税だぞ?それともロデリッツ公子は、新しい婚約者候補のリリエッタ嬢のために離宮を建てることに反対の気持ちでもあるのかね」


「やめたまえデュラン公、婚約破棄されたエスメラルダ嬢はロデリッツ公子の妹君だ」


 年若い公爵の攻撃を、皮肉に笑いながらアルバート公が場をおさめる。

 そのどちらの公爵の目も、エドワルドを嘲笑っていた。


「……そのようなことは毛頭ございません」


 エドワルドは表情を変えずに静かに否定した。

 建設規模に対して増税額から増える税金が不釣り合いにも感じたが、おそらくコメントしたところでこの者たちには意味がないと察して言及を諦めた。


 もう、このようなやりとりは慣れてしまったのだ。


 デュラン公は王妃様のお気に入りの座を奪ったエドワルドをあからさまに恨んでいるし、家への富の流れを遮るロデリッツ公の息子をアルバート公もけして面白く思ってはいないだろう。


「では、増額は予定通りに」


 残る一家、クレイモア公は王妃の太鼓持ちだ。

 王妃の望む答えを瞬時に察して、全てを肯定する。


「……おまえたち、若いものをそういじめるな。エドワルド、先達の意見を聞いてしっかりと励め。私はおまえのことをきちんと見ている。お前は決して、父親のように楯突いたりしないと信じておるぞ」


 己の望むままの会議の流れに進んだことで、気をよくしたカトリーナは赤く塗った唇を釣り上げて微笑んだ。


「………ありがとうございます、慈悲深き王妃に感謝します」


 エドワルドは隣にいる王妃に礼を述べた。

 心の中で、この居心地の悪い場所に無理やり連れてこられていた病身のアッシュを想う。

 体調が悪いという彼が本日の会議に不在であることを、心の底で喜んだ。





「エドワルド、少し時間はあるか?茶の席設ける、私の相手をしろ」


 不毛な会議を終え、帰宅の準備をするエドワルドにカトリーナが声をかける。

 王妃様のお気に入りに同伴をしろと命じたのだ。


「……光栄です、カトリーナ様」


「ふん、私が声をかけても媚びた笑みを浮かべぬところが尚のこと気に入った。ついてこいエドワルド」


 王妃は機嫌が良さそうに微笑むと、他の公爵の視線を集まる中、エドワルドを連れて颯爽と部屋を出た。


「……忌々しい、古狐め」


 その背中を睨みながら、ここにはいない厳格な公爵の影を見たクレイモア公が唸る。


「ロード、あんな新参に負けるなど筆頭公爵家の名が廃るぞ。ロデリッツの小娘を王妃の座から追い落とし筆頭がロデリッツに移ることを阻止させたというのに……我々の努力を水に流さないでいただきたい」


 アルバート公が寵愛の座を落とされたデュラン公を叱責する。

 ロードと愛称で呼ばれたのは筆頭公爵家のデュラン公爵だが、この場の地位はアルバート公爵の方が高いようであった。


「申し訳ございません……アルバート公」


「ふん。お前のような『若造』など、私の手一つで、いつでも潰せることを頭に入れろ。息子ともども苦い毒は飲みたくないだろう?」


「………ご忠告、感謝いたします」


 デュラン公の端正な顔が真っ青になった。

 自分より年配の公爵の圧に屈して、身をすくませてがたがたと震えさせる。

 彼の脳裏には、満たされた毒杯とそれを煽る自分と愛する息子の姿が映った。


「アルバート公、デュラン公が怯えておられます。エドワルド公子ほどでなくともデュラン公もまだ若い方、うまくゆかぬこともあるでしょう……」


 その顔を見たクレイモア公がほくそ笑んだ。


 この場で一番権力のあるアルバート公に媚びたのだ。

 権力者に媚びる能力だけは、この国で彼が一番上手いかもしれない。


「クレイモア公、貴殿も息子を差し出したら王妃の寵愛をもらえるかもしれんぞ」


「はは、ご冗談を。私の息子はこの場に居座れるほど面の皮は厚くないのですよ」


「では、面の皮の厚い公子殿にはそろそろきついお灸をすえるとしよう。なに、礼儀を知らん若者を嗜めるのも年長者の勤めだ」


 アルバート公は、妹とエドワルドが去った報告を忌々しく眺めながら静かに笑んだ。


 クレイモア公は「おやおや」と静かに相槌を打ち、黙り込んだデュラン公は真っ青な顔をしたまま静かに項垂れた。


頑張れ!お父さん!!

頑張れ!中間管理職!!


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