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学園編①

 





「エスメラルダ・ロデリッツ、おまえとの婚約は破棄させてもらう」


 アステリア王国、王立学園。

 生徒総会で学園に通う全教師生徒が集められた最中に、その断罪劇は始まった。


 初めは生徒会役員による、毎月の恒例行事となった挨拶に始まり教師陣による講話が続いて、予定通りの進行が滞りなく進んだが生徒会長でありこの国の第一王子、アルフォンス・エーデル・アステリアの挨拶が始まった途端、段上には数人の男子生徒とロゼブラウンの髪を愛らしくアップにした少女が姿を表した。


「おっしゃってる言葉の意味がわかりません」


 アルフォンスに名を告げられた少女、エスメラルダ・ロデリッツは堂々とした振る舞いで呼びかけに答える。


 彼女の前に立っていた生徒達は、波打ち際のようにさぁっと左右に分かれて、エスメラルダは周囲から孤立をする。

 まるでここしばらくの間の彼女の学園生活を証明するようであった。


「エスメラルダ、きみはここにいるリリエッタ・フローレンス男爵令嬢に嫉妬をして嫌がらせや暴力行為を繰り返した」


「そのような事は一切しておりません」


「嘘ですエスメラルダ様っ!あたし知ってるんです、あたしの机にゴミを入れたり、制服を汚したりした犯人はエスメラルダ様だって……それにこないだ私が階段から落ちた時、エスメラルダ様が後ろで落とすところを見たって証言がたくさんあるんです……!」


「ああ、可哀想に……リリィ怖かったね」



 あぁ、何を馬鹿なことをほざいているんだろう。


 公爵令嬢に相応しい微笑みを浮かべながら、エスメラルダは目前で繰り広げられている予定調和すぎるやり取りに、心の中で舌打ちをした。



「アルフォンス様、私、見ました!エスメラルダ様がリリィさんの教科書を持っているところ」


 場の空気を読んだのか、突然エスメラルダを囲って敵意を放つ生徒たちの中から、誰かが声を上げた。


「わ、私も見ました、リリィさんにふたりきりできつく詰め寄るところ!」


 また別の一人が声を上げる。

 なので、エスメラルダは記憶の淵を探ることにした。


 確かに誰かが捨てたリリエッタの教科書を拾った記憶はある。

 目立たないように校庭の隅に放置されていたのを親切心で拾って彼女の机に戻してやったのだ。


 そして、貴族の学び舎に平民出身の男爵家の養女という身分でやってきて、淑女としての最低限のマナーもわからない彼女をそっと嗜めた記憶もある。

 婚約者でもない男女が腕を組んで歩くのはおかしいとかその程度の内容だが、若干の誇張はされてはいるが嘘ではない。


「私も見ましたわ、リリィさんが階段から落ちた日、たまたま隣の校舎で窓の外を見ていたら旧校舎でエスメラルダ様が後ろから彼女を突き落とすところを」


 次々と上がる証言に重ねられた新たなる証言、其れは明らかに嘘であった。


 エスメラルダは声の主の馬鹿面を見てやろうと振り返ると、同級生の女子のなかではリーダー格である令嬢のクラリスと取り巻きのベスがこちらを嘲るような目を向けながら偽証事実の証言をしていた。


「私はそのようなことはしておりません。クラリス様、撤回を」


「まぁ怖い、またそうやって権力をチラつかせてに私たちを脅迫するおつもりなのね」


 エスメラルダの発言を逆手に取って嘲り笑う、クラリスの醜い姿にさすがにエスメラルダは目眩を覚える。


「そのように感じたのでしたら、それに関しては謝罪しますが、そちらの発言も勘違いであると撤回を求めます」


 なんとか気力で耐えて、震えた声で希った。

 撤回を望み通りに行われるなど微塵とも思ってはいない。


「おそろしいわ、勇気を持って進言したクラリス様が嘘をついているということになさりたいのね」


 クラリスの近くにいた、おそらく彼女も取り巻きであろう女子生徒たちが次々とエスメラルダが不利になるような発言を繰り返す。


 もはや群衆による糾弾会は、いつどのタイミングで暴徒になった生徒たちから手が出てもおかしくないところまでヒートアップしている。


 エスメラルダはどう切り上げようかと、できるだけ冷静に頭を切り替えながら模索する。



「エスメラルダ様っ!あたしたち、もうやられてばかりではないんです!負けませんから!」


 アルフォンスの腕に手を回して、リリエッタは嘘泣きの涙を目に溜めて舌ったらずに語った。


 冷静な目で見たら、煽っているようにしか見えない。


 だが王太子の熱烈な宣言で始まった、嘘だらけの断罪劇の最中には、火に油を注ぐように空間の熱意は更に高まった。


「他にも、あなたがリリエッタ嬢に脅迫を送った証拠の手紙やあなたの机からリリエッタ嬢の無くした私物が出ていますけど、これは確定的な証拠じゃないですか?エスメラルダ嬢」


 筆跡鑑定もなしでなぜ私が書いたと言い切れる。私の字はそんなに汚くない。


「最低だなエスメラルダ!リリィちゃんはいつも影でコッソリと泣いているんだぞ!てめえの汚い仕打ちのせいで!」


 コッソリと泣いているのなら、なぜおまえが知っているんだ。


「可憐なリリィに嫉妬して手を汚すだなんて、なんて野蛮なんだ、そんな女が国母になるだなんて恐ろしい」


 そんな品位もマナーもない小娘になぜ私が嫉妬せねばならんのだ。 




 アルフォンスに並ぶ、取り巻きの男子生徒が口々にエスメラルダを罵った。

 宰相の息子テオドール、騎士団長の息子マクシミリアン、王太子の従兄弟で筆頭公爵家のヴィンセントである。


 彼らはアルフォンスと共に過ごし、彼がカラスを白と言ったら皆口を揃えて白だという程のいい腰巾着おともだち共だ。


「どの証言も、心当たりがありません」


 エスメラルダは冷たく吐き捨てると壇上の王子、そして婚約者だった男の腕で弱々しい演技を続けるリリエッタを見た。


 そのままテオドール、マクシミリオン、ヴィンセントの己が正義と信じて疑わない醜い顔を睨む。


「ここまで言われてもしらを切るつもりなのね」


「エメラルドの姫と呼ばれた過去の栄光もまやかしだったなんて残念だわ」


「私たちは騙されたのよ。とんでもない女狐に」


 この学園にリリエッタが来るまでは、高嶺の花であったエスメラルダを褒め称えた同級生たちは、いまや親の仇を見るかのように口汚しく罵っている。


 エスメラルダは耳に入るノイズでしかない発言を全て切り捨てながら、壇上の憎々しい顔をもう一度見据え、その奥の舞台の袖からこちらを楽しそうに愉悦の表情を浮かべ微笑んでいる、一人の少女を見据えた。





 ソフィア・オベロン


 リリィの友人であり、あまり目立たないひかえめで地味な印象の少女だ。

 外見だけは華やかなリリィの隣で引き立て役に落ち着いている彼女の普段とあまりに違いすぎる微笑みに何かを感じ、エスメラルダは彼女の感情を探った。


「(ソフィア……この状況をあなたは望んだってことなの?)」


 直接問いかけてやりたいが、今のエスメラルダにその望みを叶うことは不可能だ。


「理解できないようなのでもう一度告げる、この私、アルフォンス・エーデル・アステリアとエスメラルダ・ロデリッツとの婚約は破棄をする!、そしてこの学園からすみやかに出ていけ!実家に帰り、お前が起こした騒動の沙汰が下るのを待つが良い!」


 アルフォンスが俳優のような演技かかった口調で言い切ると、いつのまにかエスメラルダの私物が纏められたカバンを持った王宮の兵士がエスメラルダのそばに立っていた。


 抵抗する選択肢もあったが、これ以上事を荒立てるのは正解ではないと感じたエスメラルダは大人しく荷物を受け取る。


「わかりました、ですがアルフォンス様、その選択をいつの日か後悔なさらぬよう」


 静かに告げると、冷たい目でひと睨みをして踵を返した。

 エスメラルダの冷たい背中に、群衆達の無情な声が当たる。


「女狐を倒したぞ!」


「これでリリエッタさんとアルフォンス様が結ばれるのね」


「ざまぁみろ!傲慢令嬢!」



 低脳な悪口に、いちいち怒るのも馬鹿らしいと聞き捨て、エスメラルダはつかつかとヒールを鳴らして学園の講堂を去っていく、せめてもの精一杯の反抗に大きな音を立ててドアを閉めた。



「……ゆるさない」


 アルフォンス、

 リリエッタ、

 王太子の能無しの腰巾着、

 この愚かな断罪劇を楽しむ同級生共、


 そして、幕の裏でほくそ笑むソフィア。


 エスメラルダは怒りを何重にも反芻しながら、ツカツカと歩みを進めた。


「絶対に許さない」


 学園の門に停まっていたロデリッツの紋章が刻まれた馬車に乗り込む。


 馬車を運転するのは、エスメラルダが幼い頃からロデリッツ家に仕えている老執事であった。


「お嬢様、旦那様が邸宅でお待ちです」


「わかったわ、馬車を出して」


 彼女を乗せた馬車は、エスメラルダの指示を聞くと王都の道を走り出した。


 エスメラルダは馬車で目を閉じて、これからやってくるであろう騒動を思い頭を抱えるのであった。







はじめまして、ささきいろと申します。

悪役令嬢系の作品が大好きで私も書いてみたくて登録しました。


王道展開の中に自分色を出していきたいと思います。

何もかも初めての初心者ですが、どうぞよろしくお願いします。

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