闇を狩るもの
人に仇成し、闇に蠢く妖。それらを狩る一族がいた。人は彼らを"オプスキュリテ・シャサール"と呼ぶ。
その一族に属するひとりの狩人に、今夜も依頼が舞い込んできた。なんでも、『人を喰う鬼』が夜な夜な出没するとのこと。
もちろん、彼ら怪異にも言い分はあるだろう。それをするに足る、理由があるはずだ。だが、悲しいかなこの世の中は人間が主体となる。人間を中心にまわっているのだ。
そんな支配者である人間に危害を加える存在は、駆除されなくてはならない。そして、彼らはそんな存在を駆除することによって、生計を立てている。
さて、件の人食い鬼が出るという現場に赴く。時間は丑三つ時。この時間は妖の活動が最も活発になる。相手が元気な分、駆除に手間取ることはあるが、何よりも普段はおぼろげな妖の姿が、はっきり見えるという利点がある。
街の中心からほどなく離れた工業地帯。街灯はまばらで薄暗く、人影もほとんどない。
警戒しながら進んでいると、前方から明らかにこの世のものではない、派手な服装のなにかが近付いてきた。頭に角が二本。白目が黒く、黒目が白い。間違いない、こいつが『人食い鬼』だ。
「貴様が人食い鬼だな」
「あ? 誰だテメェは。冴えねぇ顔しやがって。バカにしてんのか」
口が悪い鬼だ。やはりこいつが悪名高い人食いお
「おい。何を黙ってやがる。話しかけてきやがったくせにシカトとか、テメェの脳みそは考えるチカラを忘却しているのか。それとも記憶力がハナからないのか」
なんだこいつは。人の思考の途中で暴言を吐くなど、なんて失礼なやつだ。こんなやつは征伐し
「はぁ、やめだやめだ。テメェみたいな頭も顔も残念な人間と話してらんねぇや。まったく、人間ってのはなんでこう、どんくさいヤツしかいねぇんだか。ほらとっとと帰ぇんな」
「ま、待て。お前は人間を捕まえて、食っていたんだろう」
「なんで俺が、人間なんて食わなきゃいかんのだ。普通に売っている肉や野菜を購入して、料理して食っているわ。人間はどんくさいが、食文化だけは認めているんだ俺は」
そう言って、『人食い鬼』は去っていった。その場に残されたシャサールの男は、悔しそうに独りごちる。
「なんだあれは。まったく人を食った鬼だな。」