彼女について-3
それから僕と「海」は顔を合わせる度、互いに色々な話をするようになった。
彼女は僕の一つ年下だった。
なんとなく感じてはいた通り両親は『お偉いさん』の中でも更に上の方に位置する立場らしい。
溢れ出る気品は、彼女の両親が与えたものだったのだと納得した。
彼女は自分について話終わると、地上の暮らしについて話した。
地上の暮らしは豊かに見えて、その豊かな暮らしをできているのは彼女の家よりも更に上の、ほんの一握りの人々のみらしい。
海中には当たり前にあるテレビを含めた娯楽などは地上では殆どが失われてしまったと言っていた。
そしてその殆ども、全てその一握りが独占しているようだった。
当時そういったものを生み出した発明者や開発者はもれなく海に沈んだのだから、よく考えれば当然だったけど。
それが終わると次は僕の話を聞きたがった。
海の中の話をすると、予想通り彼女は羨ましがった。
「海の中の方がよっぽど自由ですね」なんて言っていた。
彼女は昔から体が弱く、友人と呼べる友人があまりいないらしかった。
「こんなにたくさんお友達と喋ったのはいつぶりでしょうか」と、嬉しそうな顔を見せた。
お友達、という言葉に少しだけ心が痛んだ。
彼女は時々、会話に一定以上の間が空くと「そういえば」とか「あの」とか、何かを言いたそうにしては、その度に口を噤んだ。
僕もなんとなくその内容には察しがついたが、毎回それを気付いてないように振る舞った。
彼女の口から、他の『庶民』の話を聞くのが嫌だったから。
それに僕自身、彼女が聞きたがっているであろう事柄に対する回答を持ち合わせていなかったからだ。
最初はそれを聞きたいがため、僕に話しかけたのかとも考えたことはあった。
それでも数週間という時間を共にするうち、彼女もこの時間を楽しんでくれているように見えたので、それは考えないようにした。
僕も彼女と話すこの時間が、彼女のことが大好きだった。
きっと彼女も同じ気持ちを抱いているのだろうと、根拠のない自信もあった。
時が経つに連れ、彼女は時折海水に近づいてくることがあった。
「危ないですから」と僕が制止すると、その度に彼女は困ったような照れ臭いような、そんな笑顔を浮かべた。
一生縮まることのないこの距離も、彼女が笑ってくれればなんてことはなかった。なんて。
そんな僕の考えはとても甘いもので、結果的に彼女を苦しめることになるのだけれど。




