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彼女について-1

彼女と出会ったのは僕が科学者になってすぐ。

 その日は前日までの嵐が去った後で、行動範囲を広げてみようと思った矢先のことだった。

 

 海と地の境目。いつか見た教科書で砂浜と説明された場所に少女はいた。

 日傘を立てて座る彼女が船に気づき一瞬目が合うが、その刹那に目を逸らされた。

 そんな彼女と裏腹に、僕は初めて生で見るその黒髪と、テレビの中でも見たことのないような綺麗な顔に意識を奪われた。

 年は僕と同じか、それよりも下だろうか。

 

 僕の視線を知ってか知らずか、彼女は少し怯えたように言った。

 「か、活動家の方ですか」その声で僕はやっと正気を取り戻した。

 話しかけられたということに驚き、その内容は僕の頭の中まで届かない。

 だからきっと「あ、え?」なんて間の抜けた返事をしたと思う。

 その返事を肯定と受け取ったのか、彼女はすぐに逃げるように去っていった。

 なぜ逃げられたのかがわかっていなかった僕は、その場で数分間茫然としていた。

 活動拠点に戻って書いた報告書には『特筆すべき事項なし』と書き込んだ。

 


 ――科学者に「『お偉いさん』と話してはいけない」という規則はない。

 いや、むしろ「お互いに嫌いあっている」と言う根本の共通認識があったことが

 そんな規則が必要だという考えに至らせなかったのだと思う。

 きっと先人達は、『お偉いさん』が『庶民』に話しかけてくる想定すらしていなかった。

 だがそんな規則がなくとも確かに。僕らが交わることにメリットはない。

 それくらい、この世界は二つに分かれていた。

 だからこそ僕も、報告書に何も書かなかったわけなのだけれど。

 ならば何故、彼女は僕に話しかけてきたのか。と考える。

 その思考は同時に彼女の顔や声を思い出させ、その日それが僕の頭を離れることはなかった。

 


 数日が経ち、前に会った場所とは少し離れた砂浜で、同じ少女を見かけた。

 夢にまで出てきた彼女を見つけ、少し浮かれていたのだと思う。

 前日みたいに逃げられないよう、船を降りて静かに近づいてから声を掛けた。

 「こんにちは」

 「ひっ」と言って彼女は涙と浮かべた。

 「――前の、――活動家の」彼女のその言葉でやっと誤解されていることに気づいた。


 「驚かせてすみません」と言って荷物の中から資格書を取り出して、彼女に見せた。

 恐る恐る僕に近づいて、それを確認した彼女は「か、科学者さん……すみません失礼なことを」と頭を下げた。

 話に聞いていた『庶民』を嫌う『お偉いさん』と、目の前のこの少女の行動が結び付かず、僕も釣られて頭を下げた。

 そこからは少し安心してくれたようで、ある話をしてくれた。

 

 彼女は昔、海の中で住む『庶民』に命を助けられたことがあるんだと言っていた。

 だから海の中で住む僕らに対し、他の『お偉いさん』のような嫌悪感は抱いていないんだと。

 

 詳しいことを彼女は言わなかったが、僕はあの時見たテレビを思い出していた。

 あいにく彼女の話を聞いても僕が「だったら僕らはきっと仲良くできる」なんて思うことはなかったし、彼女もそんなことは言わなかった。

 彼女が話すその間、僕らはどちらともなく一定の距離を取っていた。

 僕らのちょうど真ん中には、水分を含んだ砂がくっきりと線を引いていた。

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