143、ただの隠居の集まりさ
遠くから聞こえる銃声。
俺は、口元に笑みを浮かべながら廊下を走っていた。道中、顔を出した盗賊の頭部が中に舞う。
「さすが姐さん。切れ味のいい鬼神丸国重だ。」
T字路に差し掛かった時に右から身体の線の細い男がスーツを着て出て来た。
「女、やりたい放題ですね。まぁ、今頃あの子供も病人も天に召されてるでしょう。貴女もそちらにお連れして差し上げましょう。お代は安くしときますよ?」
ケタケタ笑うスーツの男に斎藤は鼻で笑った。
「フン・・・」
「何が可笑しいのですか?」
「姐さんが簡単にはくたばるはずが無い。今頃は、新しい獲物を探してるよ?」
斎藤の話していたことは本当だった。
始姐は、魔法をかけた沖田を心配して後を追いかけている。
床に落ちている血の後。
始姐は部屋の中を視界に入るわずかな一瞬で確認して虫の息の者やまだ生きてる者を片っ端からマスケット銃で頭を撃ち抜いている。
「何処に行ったのかな?」
タタタっと軽やかな足音を立てて始姐は、沖田の残してる道筋を辿る。
「あ~いたいた。沖田、大丈夫?」
肩で息をしている沖田に始姐は、弾んだ声をかけた。
そんな訳ない。
大丈夫じゃない。
口から血が出てる沖田。
それでも始姐は嬉しそうに笑い言う。
「持って20分か、案外短いね。改良の余地有りと………じゃ、沖田はお家に帰るよ?」
「僕は……まだ……戦える………」
「どうやって?」
後ろに手を組んで始姐は言う。身体を傾けて沖田の顔を覗く。
「僕は……まだ……立てる………」
「立てるねぇ?立つのにやっとの身体で?」
「うるさ………い………」
「ハイハイ。帰るよ。」
倒れた沖田を担ぎ上げ来た道を戻ろうとして始姐は辞めた。
見る人によれば始姐の笑顔は悪魔の様に見えただろう。
「ニィ」と笑う顔は新しい玩具を見つけた様に不適に笑い駆け出した。
来る者、逃げる者、隠れる者全てに平等な死を与える。
まるで地獄が口を開けて走ってくる。
女、子供、男も盗賊も脅えたままで額から弾丸を受けて後頭部が熟したメロンの様に弾けてる。
◇◇◇
「良く切れる剣だね。君が死んだら、私が使ってやろう。」
「断る!」
スーツ男に左腕を浅く斬られ斎藤の腕から血が飛ぶ。
勝ち誇った笑いをするスーツの男はナイフで斎藤の首を斬り着けようとして、慌てて身を翻した。
「!!」
始姐が放った弾丸を避けたのだ。
そして始姐は大きく振りかぶって斎藤に沖田を投げ寄越したのだ。
「げうぷっ」
腹に直撃して後ろにひっくり返る斎藤。
『イテテテ。おい!総司!大丈夫か?』
斎藤は倒れてる沖田の身体を揺すった。
スーツの男は、沖田が飛んで来た暗闇を睨んで浅い息を繰り返す。
全身の毛が逆立ち、冷や汗が流れる。
「フーフー」
スーツの男は斎藤にも沖田にも目もくれない。
「お前か?私の大事な子に傷を着けたのは?」
身体に重苦しく響く声。
「ハーハー」
冷や汗が止まらない。恐怖に呑み込まれる。
「聞いているんだ。お前が私の大事な子に傷を着けたのか?」
耳元に囁く声に腕で振り払う。
「うわぁぁぁ」
パァァァン!!
叫び声と重なる様に銃声が木霊した。
スーツの男の右肩が吹き飛び血がドクドクと流れて床に腕が落ちてる。
「お前が私の大事な子に傷を着けたのか?」
重くのし掛かる言葉。
スーツの男はガチガチと歯を鳴らす。
「もう、いいや」
その言葉と共に一斉に銃声がなり、スーツの男の身体は蜂の巣になる。
「お前達は、………何者………だ………?」
「ただの隠居の集まりさ」
こめかみにマスケット銃を近付けて引き金を引いた。
パァァァン!!
「どうだった?鬼神丸国重の切れ味?」
「さ、最高だ!」
さっきまでの始姐を取り囲む何とも言えない空気は消えて、今は、ジェラルドや歳三、斎藤、丞とたわいもない話をするいつもののほほんとした始姐に戻っていた。