114、姐さん
あれから半年がたった。
斎藤は、歳三と剣術の技術を高めていた。
カンカンと木刀がぶつかる音。
今日の剣術で負けた方は、始姐が作ったタルトだ。
それを聞いた歳三と斎藤は本気を出す。
食べたくないからだ。
ジェラルドに教えてもらいながら作られた、フルーツタルト。
見た目がもう何か、物凄くヤバいフルーツタルトが生成された。
語彙力が無いから凄くヤバいしか言えない。
ドロドロになったままのカスタードクリームにノコギリの様に切って形が崩れた果物。
方や、店に並ぶ程の美味しそうにキラキラ輝いてるフルーツタルト
「何で、「何もしなくて良い。椅子に座っているだけで良い。」と言う意味が分かりました。」
打ち合いながら話す斎藤と歳三。
「ああ、やっと分かったか!」
やっと分かったのだ。
斎藤が、始姐の料理がヤバすぎるのを。
料理を作っていた始姐の姿を思い出す。
タルト生地なら固くなっているのが普通なのに、まるで蒟蒻の様にプルプルと弾力が有る。
カスタードクリームは何故か緑色。
フルーツはぐちゃぐちゃになっている。
艶出しのナパージュは何故か黄色。
ジェラルドに「何で作らせた!」と視線を送ったが、ジェラルドは、首を横に振り「僕に言わないで下さい!! 止める事何か出来るわけ無いでしょ!」と視線を返す。
始姐の事に関して視線で語り合う事の出来るジェラルドと歳三。
「副長。試合中に余所見は行けませんよ?」
横に払い退けて歳三と斎藤の木刀が中に舞い床に落ちた。
カランカランと落ちて歳三と斎藤はそのままの状態で止まる。
「勝敗は決まらなかったね。」
始姐が扉の処で立っていた。
「始姐!」
「シロエ!」
「姐さん!」
始姐の微笑みが、悪魔の微笑みに見える。
アイテムボックスから良く冷えたストレートの紅茶を出しマグカップに注ぎジェラルド、歳三、斎藤に渡した。
喉が、カラカラなのでジェラルド、歳三、斎藤は、グイッと喉を鳴らしながら飲んだ。
その間にアイテムボックスからちゃぶ台を出してその上に始姐が作ったフルーツタルトを出した。
見た目、最悪。味、最悪なフルーツタルト。
そのフルーツタルトがお皿の上で揺れてる。
「「うっ!!」」
歳三と斎藤の顔がひきつり、2人は視線を合わせてアイコンタクトを取り、小さく頷いた。
((逃げよう。))
その様子を見てたジェラルドは、笑顔で「逃げるな」と視線を送る。
歳三、斎藤には、まるで悪魔の笑顔に見える。
((ひっ!!))
さらにジェラルドは笑顔で、「全員で食べれば怖く有りません。胃薬も有ります。元気ハツラツ君も有ります。」と視線だけで語り合うジェラルドと歳三。
思い出した様に歳三が聞く。
「ア、アイゼンは?」
「アイゼンなら今日は、・・・いません。」
歳三にジェラルドが、間を作り答える。
「何で?」
地獄に落とされた様な顔をする歳三にジェラルドが一言
「さぁ?」
と答えた。
「ジェラルドも歳三も何こそこそ話てんの? 皆、席に着いて食べよう」
タルトを切ってお皿に乗せる。固まってない緑色のカスタードクリームがドロドロと出て来る。
「さっ、一口でガブリと食べて」
悪魔の声が聞こえた。
「ジェ、ジェラルドから食べ・・・何で?」
始姐のフルーツタルトからジェラルドに視線を移して衝撃な処を見る。
始姐とジェラルドが、ジェラルドご作ったフルーツタルトを食べていたからだ。
「ん~、美味しい。」
「はいっ!」
(良かった。)
何処かほっとしてるジェラルドに「そりゃそうだろう」と思う歳三と斎藤の前には、始姐のフルーツタルトが存在をアピールしてる。
プルプル揺れるフルーツタルトを掴み、一口食べて咀嚼して、吐き出した。
「「ヴオェ」」
咄嗟に始姐の目を隠すジェラルド。
口直しに紅茶を飲むが、
「「グホッ」」
吐く程の不味さが広がる口の中に紅茶が更に不味さを後押しさせる。
「始姐お願いが有ります。目を瞑ったまま回れ右をして、家で冷たい紅茶を作って下さい。」
「ジェラルド?」
「お願い致します」
必死のジェラルドのお願いに始姐は渋々従った。
帰った始姐を確認して、ちゃっと始姐が作ったフルーツタルトを庭に穴を開けて埋めるジェラルドと歳三と斎藤。
ジェラルドと歳三と斎藤はちゃぶ台を中心に真剣に考える。「始姐の料理は不味いので、どうか作らないで下さい」と伝えるかどうかを。
誰もが無言になる。
視線で「ジェラルドが伝える?」、「歳三が伝える?」、「嫌々、斎藤でしょ?」と語り合う。
「それよりも、どうして、シロエの料理はあんなに不味いんだ?」
歳三が、疑問をジェラルドにぶつける。
「僕が、拾われた時に作ってくれたお粥は、美味しいですが、それ以外が駄目で、その駄目さが磨きがかかってるんです」
遠くを見るジェラルド。
「粥ほ旨いのですか?」
斎藤がジェラルドに聞いてくる。
「はい。お粥だけ、美味しいです」
力説するジェラルドにため息がついつい歳三から出た。
「台所に立たせないようにしよう」
歳三が言う。
「紅茶担当にしよう」
斎藤が言う。
「紅茶も一人分でパックされているから美味しく作っていますが、それがなければ、ポットに茶葉を来れでもかと言う程名一杯に入れますよ。始姐は」
ジェラルドが言う。
「姐さん」
斎藤が目に手を当てて顔を上げた。
両手を組んで額を乗せる歳三。
紅茶を飲むジェラルド。
結局、どうやって、キッチンに立たせないか案が全く出ない3人だった。