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7.侯爵side

 その日、王太子が国内有数の公爵家の令嬢と婚礼をあげた。

 王太子妃になる令嬢は優秀な人物だと評判だったこともあり民衆から祝福され大盛況の内に終わった。

 

「飲み過ぎると体に毒だぞ?」


「父上……」


「……お前から『父上』と呼ばれる日が来るとはな。なにやら薄ら寒い」


「なんだよ……昔は言葉遣いを直せと煩かったじゃねぇか」


「まぁ……な、礼儀正しくなるとそれはそれで不気味だ」


「どっちだよ!」


 息子は再びグラスを口にするとグイッと傾けた。先程まで飲んでいたワインとは違う果実酒の芳しい香りがふわりと漂う。テーブル上には空になった瓶が何本も並んでいた。息子はだいぶ飲んでいるようだ。飲まずにはいられないのだろう。今日、息子の想い人が結婚したのだ。無理もない。……テレジア王女は恐らく息子の初恋だろう。玩具を欲しがるように言い放っていたが本当は一目惚れだったはずだ。


「縁がなかったんだ」


「あ?」


「お前と彼女のことだ。出会った時に、既にお前は妻子ある身だった。どちらにしても婚姻はできなかっただろう。いや、その前に、本来なら一生会う事もなかった方だ」


「…………」


 息子は無言で酒を注ぎ足す。グラスを持つ手が微かに震えているように思えた。


「膨大な手間をかけてこぎつけた婚姻だ。我々の計画の邪魔だけはするなよ」


「分かってるさ」


 本当に分かっているのか怪しいが、ここで大人しくやけ酒飲んでいる分には分別がある証拠だろう。幼い頃から才気煥発な上に負けん気が人一倍強かった息子は早い段階から反抗期だった。もっともそれ自体は特に問題視していなかった。スパルタ教育の弊害か、親に反抗すらできない他の子供を多く見てきたせいだろうか。息子に反抗期があったこと事態を喜ばしいものとして捉えていた。この国の貴族の義務として、早くに妻を宛がい子をなした息子には比較的自由にさせていた。


 三年の月日は息子を変えた。


 およそ貴族らしからぬ言葉遣いは改められ、仕事に勤しむ姿はかつてないほどだった。貴族達の裏を読み、利用し、若くして宰相補佐の地位を手に入れた。それが何のための物なのか分からないほど耄碌はしていない。我が息子ながら諦めが悪いと諫めるべきか感心するべきか判断に迷う。

 

 


「計画の勝算はあるのかよ」


「分からんな。だが、この国に彼女がいる限り勝算はある」


「国際社会が認めちまったら元も子もなくなるんじゃねぇか?」


「ふっ。お前も甘いな。承認された処で正統性はこちらにあるんだ。どうにでも挽回できる。……だが、まあ……それも五十年までだろうがな」


「五十年?」


「ああ、リベルタ王国の嘗ての姿……いや、王族の姿を見知った者が亡くなれば厳しくなる」


 私は自分のグラスに酒を注ぐと一気に飲み干した。喉を通る熱い液体が体内を熱くさせていく感覚に浸っていると、息子が私からグラスを奪い取った。自分で注ごうとするが手を振り払うと私のグラスに注ぐ。そして無言のまま二人でグラスを傾けた。



 勝か、負けるか……それは誰にも分からない。

 だが、すでに賽は投げられた。

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