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5.王女side


「テレサ様、私は貴女様にお伝えしなければならない事がございます」


 伯爵夫人の口元が若干震えている事に気付きました。彼女らしくなく緊張しているようです。ダメですね。つい、気付いていしまう。お母様から「目ざとすぎる」と叱られたのを思い出します。これは聞いてはいけない。私にとって「悪いこと」なのだと理解しているからです。それでも聞かなければなりません。


「覚悟はできています。仰って……」


「リシャール王太子殿下が亡くなられました」


 覚悟を決めていたはずなのに……いざ言葉にされると頭が真っ白になっていました。王族として教育されていなければ今頃泣きわめき醜態をさらしていた事でしょう。


「国王夫妻が亡くなられた後に牢獄から出されたのですが……恐らく革命軍の手引きがあったと思われます。その後、革命軍に捕らえられた王太子殿下の遺体は公開処刑される為に民衆の前に連れ出されました。王太子殿下の御首が断頭台で落とされた後、すぐに胴体も……。王族の血を根絶やしにする為の策略だと聞き及んでおります」


「そう……弟は殺されたのですね」

 

「テレサ様!」

 

 伯爵夫人は言葉を選んでくださった。ですが、革命家たちとそれに熱狂した民衆の話は私も知っています。民衆の前に連れ出された弟がどんな目にあったかなど想像に難くありません。伯爵夫人がそこをあえて省いたのはきっと想像以上に残酷な現実があったからだと言う事は明白でした。私の心を傷付かせないために彼女は配慮してくれたのだと思います。現に伯爵夫人は泣けない私の代わりに泣いてくれているのですから。


 悲しいのに辛いのに……涙を流すことができないのです。


 王族は何があっても感情に左右されてはいけない。

 感情の赴くままに泣くことが許されないのです。


 リベルタ王国の王女は死にました。

 けれど、コムーネ王国の王太子妃になる公爵令嬢としては()()()()()のために涙を流す事など許されません。もし、心のまま復讐の為に生きれば……間違いなく国を不幸にしかねません。


 この国の王太子妃になり、未来の王妃になろうとしている私にはできません。



  

「伯爵夫人……ありがとうございます。教えてくださって……」

 

「テレサ様……」


 彼女は私の意思が固い事に気付いたようで、それ以上は何も言いませんでした。ですが、これではっきりと分かりました。私にはもう帰る場所は何処にも無いということを。



 伯爵夫人と別れ、王宮に到着する僅かの間に祖国が「リベルタ共和国」と名を変えることになったのです。


 平民を頂点にする新しい国。

 新しい為政者は革命を率いた若きリーダーだと知ったのは直ぐのこと。

 身分制度を取り払い、全国民が力を合わせて新しい国を作るのだと建国宣言をしたそうです。もっとも、彼らが独断で行った建国宣言に同調する国はおらず、国交断絶と同盟破棄が相次いだせいで異常な物価上昇がおきたと知る事になるのですが、それは随分後のことでした。共和国となった祖国は他国から足元を見られ、不平等条約だと分かった上での取引しか応じられなくなったと聞くのもまた、後のことでした。




 

 

 

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