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こうして僕は万引き犯になった  作者: 逆無寛彦
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「入院」

 元々アル中になってからすぐに嘔吐を繰り返すようになっていたが、その出来事以来、飲酒量も嘔吐する回数も増加していった。吐瀉物には胃液も混じっているため、その胃液が食道を傷付けて、やがて吐瀉物に血が混じるようになる。だが嘔吐に血が混じっているのも毎度の事になり、こういう物だと精神的に慣れてきてしまってくる。しかしある時、今までにないほど耐え難い苦痛を感じる泡や血が混じった嘔吐をしたため、僕は病院嫌いなのだがそうも言っていられないと思い、緊急で医師に検査してもらった所、向精神薬などの薬も肝臓で分解されるのだが、そういった薬物によって受けている負担を表す数値が病院でも例がないほどの異常値を示しており、三日後には死んでいると医者に言われ、すぐに緊急入院する事が決まった。酒と薬の組み合わせはもの凄く肝臓に悪いらしい。

 重傷者用の観察室1という個室で入院する事になったのだが、隣がナースステーションで、カーテンが引かれてはいるが大きめの窓ガラスが間にはまっており、そこから夜中も光が入ってきたり、なにやら看護士同士で話が盛り上がったらしく彼女達の笑い声が聞こえてきたりして、正直寝にくかった。加えて、症状の急変をすぐに察知するためなのだろうけれど監視カメラまで天井に付いていて、今も視られているのかなと思うと少し恥ずかしかった。

 トイレで鍵を掛け忘れたらしい使用中の老人の個室を空けたり、車いすを使用している患者用トイレで逆に今度は僕が鍵を掛け忘れて、使用中に女性の看護士に開けられたり、一般用のトイレに行けるようになった後も、トイレの個室を空けると流していない大と遭遇するなどのトラブルにも何度か見舞われた。

 しかし男性の看護士も女性の看護士も、医者達も皆とても真摯に、そして親切に接してくれた。治療の方はステロイドパルスなる物が行われた。弱りに弱った肝臓には何が効くかハッキリ分からないという事だったが、良い意味で医師の予想を裏切る効果を発揮し、肝臓の経過は順調だった。しかしステロイドパルスという治療法は強力であるが故にリスクがあり、結果的に膵臓炎を引き起こした。

 胃に食物があると膵臓が働くらしいので、膵臓に負担をかけぬように絶食状態を余儀なくされ、口に出来るのは水だけ。ビタミンなどの栄養は24時間体制で点滴で取っていたが、所詮は点滴である。耐え難い空腹に見舞われ、母親に頼んで持参して貰った飲食店のチラシにある料理の写真を凝視する時間が増えた。

 そんな日々がしばらく続いた後、リハビリを看護士に勧められ、仕方ないかと始めたのだが、1階から11階までの階段を上り下りさせられたのは本当に大変だった。普通は、今日は朝食を食べてないから力が出ない、とかあると思うのだが、こっちは10日以上絶食しているのである。本気で大変だった。しかも毎日だ。最上階の12階まで上がった際には、担当者が窓際から外を眺めて「鯉のぼりがあれば、その家に男の子が居るとすぐに分かりますよね」とか言ってきていたが、疲れ切った僕には、鯉のぼりとかそんなの今どうでも良い、とにかく静かに休ませてくれ、という感じだった。

 とは言え無事に、1月後には退院する事が出来た。残念ながら、その後も酒と薬を止める事は出来なかったが。


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