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こうして僕は万引き犯になった  作者: 逆無寛彦
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「統合失調症」

「統合失調症」

 当時はマンションの一階に僕ら一家は住んでいたのだが、僕が自室に入るたびに、二階から床を叩くような音が聞こえてくるように感じ始めた。二階から子供が走り回るような音自体は以前から実際にあったのだが、僕が自室に入るたびに毎回・・などという事は勿論気のせいだ。しかし当時の僕は、こうも僕が自室に入るたびに音がするという事は偶然とは考えにくい、二階の住人は一階にカメラでも仕掛けて僕の行動を監視しているに違いないと思い込み始めた。カメラを仕掛けて僕に嫌がらせの音を出しているのだと。常識的に考えて有り得ない話であるが、その様な妄想に取り付かれ、僕は二階の住人に対抗すべく自室の天井部分を殴って音を出すという迷惑行為を始めてしまった。

 両親は、触らぬ神にたたりなし、という感じで放置気味だったが、実際には統合失調症なる心の病気に罹っていたのである。天井に穴が空こうと僕は殴るのを止めなかった。僕はカメラで二階の住人がこちらを監視していると盲信していたので、天井に向けて挑発的に中指を立てたりした事も何度もある。実に滑稽な行為だが、当時の僕は大真面目にその様な事を行っていた。

 僕は二階の住人の行為を証拠に残すべく、二階から聞こえた音を録音しようと考えた。証拠さえあれば親も警察も信じるだろうと。しかし二階からの音を十分に録音したと思い録音停止ボタンを押し、再生してみると無音であり戸惑った。しかし、それでも僕は妄想から抜け出す事が出来なかった。録音できなかったのは何かの間違いに違いない、そうか、証拠を押さえられないように録音不可の特別な音を出しているのか、そこまでやるとは、という風に。

 更に、当時はウォーキングするのが日課だったが、特定の場所に来ると例の音が聞こえるようになった。そこで二階の住人は僕がウォーキングする時間帯などを調べて、僕が通ったら音を出して嫌がらせをしているのだと思い始めるようになった。

 数ヶ月、そんな状態が続いた。段々と僕は我慢の限界を感じ始め、二階の住人のポストに、こっちは拳で音を出して対抗しているのに機械で音を出すのはズルだから止めるんだ、覚悟はあるのかという内容の文章を書いた紙を入れてしまった。

 覚悟はあるのか、というのは警察に監視したり嫌がらせしたりしている事を通報される覚悟はあるのかという意味のつもりで書いた言葉だったのだが、常識的にはその様な解釈は当然されない。その結果、マンションから出ていかないとその紙を警察に出すと大家に言われて、引っ越す事になった。精神科医の先生には、自分が立てている音が二階に迷惑になっていないかを気にするあまり、二階の人が一階からの音への仕返しで自分に向けて音を出していると思い込むに至ったのだろうという事であった。

 その当時は自分の行為は正しいものだと思い込んでいたし、退去を求められてもしばらくは妄想が解けなかった。周囲の人間は分かってくれない、誰も真実に気付いていない、という風に。結果的に、二階の方々には申し開きの出来ない迷惑を掛けてしまった。・・勿論、家族にも迷惑は掛けたが、前述してきたように家族関係に猛烈に問題があったため、彼等には正直あまり悪いとは思わなかった。


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