シュキが交叉する
『こほうぎこなた』でお馴染みのフリードリヒ・ハラヘルム・タダノバカがお贈りする素晴らしき剣戟の世界!
夜叉とは何であるか?
よく知らないが、罪月照夜は夜叉であった。
黒い着物に身を包み、異世界ドルゲガルゾで毎夜、人を斬っている。
背中に差した刀の名は『キルゾキルゾ』。幾人もの血を吸って来た。
華奢な四肢を着物からさらけ出し、闇をヒタヒタと歩く彼女の姿は傍目には美少女。しかしその正体は鬼少女である。
月の巨大な目玉のような夜のことであった。
ゴジョ大橋を照夜が渡り始めた時のことである。向かいから横笛を吹きながら、緑と白の艶やかな着物に身を包んだ何者かがやって来た。
隙がない。ただゆっくりと笛を吹きながら歩いて来るだけに見えて、照夜にはわかっていた。この女、只者ではない、と。
「何者か」
照夜が声を投げると、相手は笛を吹くのをやめ、静かに笑う。
「今晩は」
礼儀正しく挨拶したその涼やかな声が闇に響き渡る。
「何者か知らんが、貴様の腰に差したその刀、相当な業物と見た」
「ホホホ」
女は笑った。
「もしや……貴女が噂の『刀狩り』……。夜叉の罪月照夜様ですのね?」
「いかにも」
照夜が背中の愛刀『キルゾキルゾ』に手をかける。
「わしはこれまで999本の刀を集めた。貴様ので記念すべき千本目じゃ」
「ホホホ。わたくしの愛刀『ドドミドリ』が欲しいのかえ?」
「『ドドミドリ』じゃと!?」
照夜の目が見瞠かれる。
「聞いたこともないが、欲しい! なんか欲しい! 奪わせてもらうぞ!」
「ホホホ! 奪えるものならば……どうぞ」
女が腰の『ドドミドリ』に手をかけた。
「奪ってご覧なさいましっ!」
シュキ! 照夜が『キルゾキルゾ』を鞘から抜く。
シュキ! 女が『ドドミドリ』を腰からヌラリと抜いた。
「貴様……、刀をヌラリと抜くとはやはり只者ではないな!?」
「間違えたのです」
女は刀を鞘に収め直すと、今度は正しくスラリと抜いた。
「参りますわよ!」
キィン!
二人の刀が交わる。
キン! キン!
返す刀も合わさり、激しく金属音を鳴らす。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
カン! キン! がしっ! ダンッ!
バシュッ! ひらり! だだーっ! ばんっ!
がしっ、とうっ! ひらり。すたっ。ダダダダ……ざしゅっ! おうっ! てやーっ! キン!
ガキッ! オトナッ! ジジジジ……、ババッ! しゅわーん……。どかどかっ!
オラオラオラオラオラオラオラオラ!
ババババババババババババババババババババババババババババババババババババ!
バッ! シュバッ! シュバイツァーっ! シュベルト! シューマン! シューマイ! ニクシューマイ!
ギョーザ! ギョーザ! ギョーザ! ギョーザ! ギョーザ! ギョーザ! ギョーザ! ギョーザ!
ドカァッ!!! ううっ……。やるな! そちらこそ! ジリジリ……。
バッ! うわあああーーっ!
ドギャッ! ころすーーーーっ!!!
どーんっ!
キエーーーっ!!!
ダンッ!!
ズバッ!!!
バタンッ!
しーん……。
「勝った!」
高く拳を振り上げ、どっちかが声を上げた。
「ところで私はどっち!?」
「お前は……」
負けたほうは橋の上に伏して、最期の言葉を遺した。
「……ぶっ! ぐふうっ! ……どっちなんだ……」
巨大な目玉みたいな月が何も言わず二人を見下ろしていた。
お……怒らないで!(汗)