第97話 厄災の使徒の影
アイリス、ディーナに激昂しながら自らの本音を暴露したソレイユ。心を改めて自分の行いを省み、対話を試みるディーナだったがその途中で異変が起こる。突如、ソレイユから黒いモヤが漏れ出してきたのだった。
「ソレイユ、どうしたの?! きゃっ!」
近づこうとしていたディーナだったが、ソレイユから溢れ出す黒いモヤの勢いが増すと後方に吹き飛ばされてしまう。会場にいる観客たちは会場を出て行く者もいるが様子を伺っている者の方が多かった。
「この感じ……前もどこかで」
「アイリス、わかるのか?」
「うん……まさか」
「ぴぃ……!」
ディーナの更に後方で見守っているアイリスも異変が起きているソレイユを見ながら口を開く。黒いモヤから以前感じたものと同じ感覚を覚えたのだ。
「ディーナ……」
うな垂れた姿勢からソレイユの小さい声が漏れる。
「ソレイユ!」
「……どうして戻ってきたの? 私はまだ詩姫でいたいのに……」
「あたしはもう詩姫には戻らないわ。だって今はソレイユが精霊に愛されている。あなたは昔から努力してた。そうでしょ?」
「愛されてる? 私が? ううん……違うの……私は精霊に愛されてなんかいないの」
苦しそうに胸の辺りを両手で抑えながらソレイユが言葉を必死にひねり出すように紡ぐ。
「どういうこと?」
再びディーナがソレイユに近づこうとするが黒いモヤが増して中々近づくことが出来ないまま、会話が続く。
「……私、貴方が羨ましかった。妬ましかった……そんな時、あのヒトに会ったの」
「あのヒトって誰の事?」
「あのヒトは言ってた。『ソレ』があれば精霊達を私の思い通りに出来るって……っ!」
胸を更に強く押さえながら呟くソレイユ。すると黒いモヤが勢いよく、彼女の胸元の服を破りながら噴き出してきた。そこには黒い印が刻まれていた。
「あれって『刻印』じゃないか!?」
「そうですよ、間違いありません!」
ジークとキッドも彼女の胸元に刻まれたモノに心当たりがあり、声をあげる。もちろんアイリスにも覚えがある。忘れもしない、それは『厄災の使徒』の『刻印』だったのだ。
「あの『刻印』がソレイユの身体に……!」
「アイリス、あれって何なの?!」
険しくなるアイリスの表情に事態の深刻さを理解したディーナが尋ねる。
「あれは『厄災の使徒』という邪悪な存在が作り出した刻印なの。本来なら魔物に施されて自由に操るものだけど、それがソレイユの身体に刻まれてる……っ」
「それってカセドケプルで起きた『魔物達の大波』を引き起こしたっていう奴?!」
「ええ、そうよディーナ」
「そんなものが、どうしてあの子の身体に……っ」
「半年前……私は精霊の森であのヒトに会ったの……。あのヒトは言ったわ」
精霊の森である日ソレイユは『厄災の使徒』と出会ったこと語り出した。
―『我が力を受け入れれば、精霊達はお前の思い通りに動かせる。お前は詩姫になれる』―
「最初は半信半疑だったけど、身体に印を刻んでもらったら私が望めば精霊達が寄ってきてくれるようになってた……あのヒトは私の願いを叶えてくれたの。そして半年前、ディーナから精霊達が離れて行った時、私はその場で力を使ってみせた。そして……やっと私は夢にまで見た詩姫になれた……」
「ソレイユ……でも、そんなモノ早く取り除かなくちゃ!」
黒い霧が溢れる中心で目から光が消えたソレイユが言葉を続ける。
「いやよ……この刻印が無くなったら私また一人になっちゃう。ディーナが戻らなくてもきっと別な詩姫が現れる……私は居場所を失うのは嫌……そうだ……もっと印を刻んでもらえばいいのよ。そしたらもっと精霊達を私の思い通りに出来るはず」
「ソレイユ、駄目よ! しっかりして!」
「ディーナ、それ以上近づいたら危ないわ!」
アイリスがそれ以上近づこうとするディーナの手を握る。それでもディーナはソレイユに声をかけるのを止めなかった。
「私の邪魔をしないで……!」
―ブゥゥゥン―
ソレイユの刻印が漆黒を纏うと、彼女の周りに風と土の精霊が寄ってくる。そして刻印から溢れ出る黒いモヤが二つの精霊を包み込んだ。
「な、何が起きてるんでしょうか?!」
「嫌な感じがするぜ」
キッドがその様子を見て大きな声をあげる。ジークは事態が悪くなっている予感を覚え、腰の聖剣に自然に手をかけていた。
―キィィィィン―
「グゥゥゥ!」
「ギャウゥゥ!」
金属音と供に精霊達を包んでいた黒いモヤが晴れる。するとそこから緑と黄色の透けた身体を持った魔物が姿を現した。それは以前出現した謎の魔物であった。
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