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第96話 ソレイユの本音

 ディーナとフォルトナが話をしているのを目撃したソレイユを追ってアイリス達はコンサートが行われている会場に辿り着く。そこでは観客のヤジに過敏に反応して声をあげる彼女の姿があった。


 舞台の天井からの光がソレイユの顔に影を落とす。


「どうしたの、ソレイユ?! 私はあなたを笑いに来たんじゃないわっ」


 静けさに包まれた会場にアイリスの声が響き渡る。先ほどまで応援していた者もヤジを飛ばしたものも今は静かに舞台と客席とで交わされる言葉に耳を傾けるしかなかった。


「そうやっていい子ぶって……貴方はいいわよね。『大いなる意思』に選ばれた聖女様ですものね!」


「あいつ、一体どうしちまったんだ?!」

「ヒトが変わったみたいですね」

「ぴぃ……っ」


「!」


 ソレイユの豹変ぶりにジークやキッドが驚きの声をあげる。アイリスの肩に乗っているピィはどこか警戒しているようにも見える。ローブを纏ったままのディーナも様子を伺うしかない状態だ。


「ソレイユ……」


「私はね、アイリス。本当は貴方のこと大っ嫌いだったの! せっかく聖女に選ばれたのに、自分はそんなことないみたいな言い方して……っ」


「聞いて、ソレイユ。私は……っ」


「うるさい!! 貴方は考えたことがある?! 今の貴方のいる位置に、立場に、どれだけのヒトが立ちたかったのか……なりたかったのかを!! 考えたこともないんでしょ!? 特別な力を持ってることが当然のように考えてる貴方にはね!」


 アイリスの言葉は全く彼女に届いていないようだ。一度開いたソレイユの口は閉まることを知らないかのように言葉をぶつけ続ける。


「詩姫だってそうよ! 精霊に愛された者だけがなれる、特別なモノなのよ! それを偽善者の顔をしながら詩姫の座を奪おうとする貴方の醜悪さには正直恐れ入ったわよ!!」


「そんな……私はソレイユから詩姫の座を奪おうなんて思ってないわ」


 アイリスの言葉に身体を大きく震わせながらソレイユが口を大きく開く。


「まだそんな綺麗ごとを言うのね……! それじゃぁ、そのローブを羽織って貴方の隣にいるディーナは何なのよ!!!」


 彼女のその言葉に静かだった会場内が再びざわつく。


「おい、聞いたか今の?」

「ああ、ディーナって言ったぞ」

「聖女様の隣に立ってる奴が?!」


 アイリスが心配そうに隣に立つディーナを見る。


「ディーナ……」

「いいのよ、アイリス。多分あの子がああいう風になったのはあたしのせいだから……」


 そう言いながらディーナが纏っていたローブを静かに脱ぐ。認識阻害が完全になくなった観客たちがどよめく。


「本物だ! 本物のディーナだ!」

「帰ってきてたのか?!」

「今更どの面下げて戻ってきたんだ!?」


「うるさい!!」


―キィィィィン―


 どよめいた観客たちの声は拡声器の反響した大きな音でかき消される。音がした方向にはディーナを睨みつけるソレイユの姿があった。


「貴方も貴方よ……本当、一体どんな顔をして私の前に姿を見せたわけ?! ねえ、ディーナ!?」


「……」


「わかってるわよ……最初からアイリスとグルだったんでしょ?! 上手く口添えしてもらってフォルトナ様と和解してあわよくば詩姫に戻ろうと思ってたんでしょ!!」


「ええ……確かにそう思ってた。けど、もうその気持ちはないわ」


 まるで少し前の自分を見ているかのように、悲しそうな表情を浮かべながらソレイユに言葉をかける。


「何よ……今更そんないい子ちゃんぶってどういうつもりよ!」


「そうね……確かにあたしはいい子ちゃんじゃない。我がままばかり、言って色んなヒトを困らせてた。ソレイユ、貴方もね」


 一歩引いて物を言っているような冷静なディーナの態度が頭に来たのか、更にソレイユは激昂して見せる。


「どの口が言ってるの!? そんなことを今更みんなの前で口にして! 謝って済むとでも思ってるわけ!?!?」


 静かに聞いている観客たちの視線がディーナに刺さるように向けられる。一瞬心臓が凍り付くような感覚を覚える。だが、取り戻した大切な想いがディーナを振るい立たせる。


「謝って済むなんて思ってない……それだけのことをあたしはしちゃったんだから。そのことはこれから先、ずっと背負っていかなきゃいけないと思ってるわ」


「な……何よ……ディーナのくせにそんなこと急に言い出して……」


ディーナの気持ちが伝わっているのか、次第にソレイユも落ち着きを取り戻しつつあった。


「ソレイユ、あたし達もう一度ちゃんと話をしましょう……?」

「ディーナ……」


―ザザザザッ!―


 その時だった。ソレイユの持っている小型拡声器から異音が鳴りだしたのだ。大声で反響した先ほどまでの音とは全く違う大きな音が会場に響き渡る。


「なんだ、この音!?」

「音もだけど……何か気持ちが悪い感じがする……!」

「お嬢、兄貴見てください! ソレイユさんから黒いモヤみたいなモノが出てます!」

「ぴぃ……!」


 キッドが指を刺した先には胸を押さえているソレイユの姿があった。その身体からは確かにどす黒い煙が溢れ出してきていた。アイリスとピィも何かを感じている様子だ。


「ぐ……! うぅ……!」

「ソレイユ!?」


 苦しみだしたソレイユにディーナが近づきながら声を掛けるのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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