第94話 フォルトナとディーナ
アイリスとの対話で自らの行いを反省し、心を改めたディーナは母替わりでもある族長のフォルトナに会うことを決めた。ジークやキッドには予め、二人で話したことを歩きながら説明した。
「まさかお前が噂の前詩姫だったとはなぁ」
「聖騎士って言ってもまだ子供ね。目上には敬語を使うべきなんじゃなくて?」
「む、そんなに違わないように見えるけど」
フォルトナの邸宅へ向かう路地を歩きながらジークとディーナが歩きながら言葉を交わしていた。
「あたしはこれでも二十歳なんだけど」
「げ、本当に年上だった」
「えー、でも見えませんね」
「お前はオレやアイリスよりも年下だろ、キッド」
両耳を動かしながら、目を細めるジークの尻尾が勢いよく揺れる。
「あら、あなたよりもキッドの方が聞き分けいい感じよね」
「悪かったな、聞き分け悪くて」
「もう、二人とも仲良くね」
アイリスがやりとりを見て笑みを浮かべながら柔らかく注意する。
「ふん。まあ、仲良くしてあげてもいいわよジーク」
「はん、こっちのセリフだぜ」
お互いそっぽを向きながら呟く。キッドはアイリスと並んで二人の後ろをついていっていた。
「なんだかんだ、息あってますね二人とも」
「そうね。仲良くしてくれると私も嬉しいな」
「ぴぃぴぃ」
そんなことを話しているうちにフォルトナの邸宅に到着した。ローブを纏っているディーナがフードを深めに被り直す。
「ディーナ、大丈夫?」
「大丈夫よ、アイリス。ちょ、ちょっと久しぶりで緊張してるだけよ」
邸宅を見つめるディーナは懐かしむ表情を浮かべていた。。アイリスもそれがわかっているが、気を使って言わないことにした。
「それじゃ、行きましょうか」
「おう」
「はい」
「わ、わかったわよ」
そう言うと先に門番の衛兵にアイリスだけが話かけて中に入る。いくら認識阻害があるとはいえ、見ず知らずの者を聖女や聖騎士の連れと言って中に入れてもらえるほど警備は甘くはない。
ならば、先にフォルトナに事情を説明して通して許可を貰うのが一番だとアイリスは考えたのだ。廊下の奥にある部屋に向かうとフォルトナの姿があった。
「フォルトナ様、ちょっといいですか?」
「聖女様、何か御用でしたか? 確か街に出かけたと伺っていましたが」
「実はフォルトナ様に会いたいっていうヒトがいるんです」
「聖女様のお知り合いですか?」
はい、とアイリスが答える。
「私の友人でもあり、フォルトナ様もよく知っているヒトです」
「あら、ソレイユではないですよね。あの子は今日もコンサートのはずですし……」
「素敵なローブを持たせてくれてありがとう、っていう言伝を預かってます」
「!」
その一言でフォルトナはアイリスが自分に合わせたい人物が誰なのかわかったようだ。はっと表情が変わる。
「……そうですか。やはり運命というものはあるのですね。聖女様と縁を結んでいたなんて。いいでしょう、聖女様のご友人を招く許可を出しておきます」
「ありがとうございます、フォルトナ様っ」
フォルトナからの伝言を預かった衛兵が門へと向かう。しばらくすると、ジークとキッド達と共にローブを纏った者がフォルトナの部屋へとやってきた。
「あなたがここに戻る日を心待ちにしていましたよ」
軽く口の傍に手を添えながらフォルトナが声を掛ける。その声は震えているようだった。その声に応えるように近くまで歩いていくとディーナは顔を覆っていたフードを脱いで見せる。
「ご無沙汰しております。フォルトナ様……いえ、お母様」
「半年前とは表情が違いますね。旅をする中で、見つけたのですね。大切な想いを」
「はい。あたしの友人のアイリスのおかげです」
フォルトナは優しくディーナを抱きしめる。二人の目には涙が浮かんでいた。それをアイリス達はしばしの間見守っていたのだった。
「よかったね、ディーナ」
「よがっだですでぇ」
「キッド、お前まで何泣いてるんだよ」
「だって、感動的なシーンじゃないですがぁ」
アイリスもほっと胸を撫でおろしていた。キッドは感動のあまり貰い泣きをしていた。
「もう、よしてよ。恥ずかしいじゃない」
落ち着いたディーナがこちらを見て恥かしそうな表情を浮かべていた。
「事の経緯はディーナから聞かせてもらいました。聖女様、妖精族の族長としてではなく一人の母親として改めてお礼を言わせてください」
「そんな。気にしないでください、フォルトナ様。私は友達のディーナを放っておけなかっただけですから」
そんなそんな、とアイリスは手振りで反応してみせる。それを見ていたジークが口を開く。
「アイリスは困ってるやつは放っておけない性格だからな」
「そこがお嬢の素敵な所ですもんね」
「ぴぃぴぃ」
「もう、みんなったらっ」
アイリスも照れたようで、耳を赤くしながら言葉をかけていた。そんな様子を扉の隙間から見ていた者がいた。
「……ディーナ……」
「どうしたの……ソレイユ。そんな所で」
「……っ!」
フォルトナの娘で一族の手伝いをしているイシュカが声を掛けると、ソレイユは黙ってその場から走っていなくなってしまったのだった。
数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。
評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです




