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第93話 やり直すために

 アイリスと気持ちをぶつけることで大切な想いを思い出したディーナ。その顔は綺麗な涙で濡れていたのだった。アイリスは優しく微笑みながらハンカチを手渡してくれた。ピィはディーナの気持ちを理解してくれたようで、肩に乗って気持ちよくさえずっていた。


「ありがとう、アイリス。あたし、自分が気づかないうちにどんどん嫌なヒトになってたのね。ちょっと……いえ、かなり恥ずかしい」


 どんな顔をしていいかわからなくなったディーナが顔を両手で隠しながら言葉を紡ぐ。明らかに先ほどまでのディーナとは違い、悪いものが抜けたようなすっきりした雰囲気を漂わせていた。


「ううん、いいのよディーナ。私も偉そうに色々言っちゃってごめんね」


 ディーナは首を左右に振る。


「アイリスに会わなかったきっとずっとあのままだったと思うわ。それに聖女なんですもの、困ってるヒトがいたら声をかけてくれてもいいんだからね」


 殊勝な心掛けをしたとはいえ、彼女らしさは言葉からも溢れていた。


「ふふ、私困ってるヒトは放っておけない性格なの」

「そうだと思った」


 二人は嬉しそうに笑い合う。今回の件で更に仲が良くなったようだ。


「ふう、お茶もう一度用意するわね」

「うん、ありがとう」


 軽く息を吐いた後、彼女は立ち上がり再び紅茶をアイリスの前に出してくれた。そして今いる部屋をぐるっと見渡しながら口を開いた。


「さっき言ってた大きな部屋ってこの部屋のことなの。今は広くて泊まるヒトも少ないらしいんだけど……懐かしくてついティフィクスに戻ってきた時はこの部屋に泊っちゃうのよね」


「詩姫時代に使ってた部屋ってこと?」

「そ。当時はドレスや着替えでごちゃごちゃしてて、もらったプレゼントの山があったりね。はぁ、今思うと自分でも恥ずかしくなっちゃう。宿屋のヒトにも我がまま言ったりしてたんだもの」


「それじゃ、後でちゃんと謝らないとね」


 アイリスにそう言われてディーナがバツが悪そうに答える。


「わかってるわよ」

「よかった」


 そんなディーナにアイリスが微笑む。その微笑みには敵わないな、と思うディーナだった。二人は紅茶を口にしながらこれからのことを話し合っていた。


「とは言ってもいきなりあたしが姿を見せるっていうのもリスキーよね」

「確かにみんなすごく驚くと思う。ティフィクスは噂話が広がるのが早いもんね」

「妖精族は噂話が大好きだから」


 ディーナが軽くため息を吐いている。アイリスが口を開いた。


「んー……それじゃ、やっぱり順序的にはフォルトナ様に会って話をするところからかな?」


「アイリス、あなた結構直球よね」


「だって、考えているよりも行動したほうがいいじゃない? 何事もまず動いてみるっていうのが私の考えの一つかな」


 人差し指を顔の前に出しながら笑顔でアイリスが答える。今のディーナにはアイリスの笑顔が日の光並みに眩しく感じられた。それで折れたのか、溜め息を大きく吐いた後に口を開いた。


「わかったわ。フォルトナ様に会いにいく」

「よかった。きっとフォルトナ様も喜ぶと思うな」

「……一緒に来てくれる?」

「もちろん!」


 二人は早速フォルトナの邸宅に行く準備をすることにした。ディーナは再び仮面と認識阻害のローブを纏いアイリスと一緒に宿屋の一階へと降りていく。


 するとちょうど、時間を潰していたジークとキッドが宿屋に顔を出していた。


「お、話終わったみたいだな」

「結構お話してましたね」


「女の子同士の話は長いものなのよ。覚えておきなさい男子達」

「なんか最初に会った時より慣れ慣れしくなってないか?」

「いいじゃないですか。はきはきしてて」

「あら、話がわかるじゃない。あなた」


「ふふ、仲良く話せて良かったね」


 ジーク達と言葉を交わす彼女が以前よりも明るく、そしてとっつきやすくなったことにアイリスは喜んでいた。


「もう、いいから早く行くわよ」

「ふふ、わかったわ」

「行くってどこに?」


 ジークがアイリスの顔を見る。


「今からシャンティーがフォルトナ様に会いに行きたいんだって。だから一緒にいくって話になったの」


「なるほどな。なら、オレ達も着いていくよ」

「お供します!」


「あら、聖騎士様は気が利くのね。アイリスも隅におけないわね」

「べ、別にオレは普通のことをしてるだけだぜ?!」

「え? 何かいった?」


「……」


 ディーナはアイリスとジーク二人の反応を見た後、隣を歩くキッドに小さい声で話しかける。


「ねえ、あなた」

「キッドです」

「……キッド、あの二人っていつもあんななの?」

「……気づきましたか。はい、あんな感じです」


「行動力はあるくせに、そういうところは鈍いのね」


 ちょっと面白いことを知ったかのように彼女の口元はとても楽しそうに緩んでいたのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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