第91話 ディーナの本音
今までシャンティーと名乗っていた妖精族の女の子の正体はなんと、以前の詩姫のディーナだった。アイリスと過去の自分の話をしている最中、身に着けていた仮面とローブを脱ぎ捨てたのだ。
「半年ぶりかしら。素顔のままで誰かと話をするなんて」
肩の重荷がとれたように座り直して、髪をかきあげる素振りをする。アイリスは不思議そうに尋ねた。
「でもどうして、シャンティーって私に名乗ったの?」
「あの時は適当に答えたのよ。本当ならあの時、あたしの詩の力で記憶を消したはずだったのに……あなた覚えてるもんだから驚いちゃったわよ。流石聖女の加護ってやつなんでしょうね。おまけに『ローブ』の効果もないだなんて」
あきれた表情を浮かべながらベッドの上に放り投げた仮面とローブを彼女が見る。
「ローブにも何か仕掛けがあったの?」
「……あのローブにはフォルトナ様の風魔法の効果が付いてるのよ。認識阻害のね。普通なら私を認識するのも難しいし、話をしたとしても時間が経つと忘れちゃう。でもあなたには効かなかったようだし、多分残りの二人にも効果は薄そうね」
ディーナの説明でようやくアイリスは色々なことに納得する。
常連だというお店で誰もディーナに声をかけなかったのも、そもそもディーナとして認識されていなかったからだということだ。更に今朝、彼女のことを話していた時のジークとキッドの記憶がぼやけていることにも合点がいったのだ。
「そうだったんだ。でもよかった」
「何がよかったのよ」
手を合わせてアイリスが微笑む。気味が悪そうにディーナが尋ねると言葉が返ってくる。
「だって、そのおかげでディーナのこと忘れないで済んだんだもの。そうじゃなきゃ、今こうやって会って話すことだって出来なかったってことでしょ?」
「! ……ま、まあ、そういうことね」
軽く目線を逸らしながら彼女が呟く。それを見てまたアイリスが微笑む。しばらくして、話が再開される。
「とりあえず、そういうことなわけ」
「うん」
「ぴぃ」
「と、いうわけでアイリス! あなたにお願いがあるの」
テーブルに乗り出すようにしてディーナが口を開く。
「お願いって?」
「聖女であるあなたから、フォルトナ様に口添えして欲しいのよっ。あたしがもう一度、詩姫に戻れるように!」
何かを企むような悪い表情でディーナが言葉を続ける。
「今代の聖女からのお願いなら族長のフォルトナ様だって考え直さずにはおけないでしょ? それに妖精族のお偉方も黙らせられるし」
「ディーナ、ちょっとまって」
アイリスが呟くが、興奮気味になってきた彼女の言葉は止まらない。
「そもそも、今まで私が頑張ってきたから精霊達だって喜んでいたしコンサートに来たみんなも楽しんでいたのよ?! それをたまたま精霊達が離れていったからって詩姫の素質が無くなっただのお偉方から言われて、あたしの居場所だった詩姫の座はソレイユが奪っていったのよ……そんなのありえないじゃない」
「ディーナ」
「聖女のあなたならわかってくれるでしょ、アイリス! あたしは生まれた時から精霊達に愛されてた。特別な力があったのよ。今だってあなたの聖獣があたしに寄り添ってくれてるってことは、あたしはまだ終わってないってことでしょ?! だからあたしは、もう一度詩姫に舞い戻ってやるんだから。だからあなたには協力して欲しいの、ね? いいでしょ?」
そこまで勢いよく言うと、ディーナはアイリスに問いかけてきた。だが、先程まで微笑んでいたアイリスは俯いていた。肩にのっているピィもディーナの方を見てはいない。
「……」
「アイリス? どうかしたの?」
その時、キッとアイリスがディーナの方を見つめて口を開く。同時にピィも怒ったような顔をしていた。
「私、あなたの力にはなれない」
「ぴぃぴぃ!」
アイリスの言葉が意外だったのか、ディーナは状況がよく把握できていないように呟く。
「どういうことよ、それ……」
「今言った通りよ。ディーナ、私はあなたに協力は出来ない」
「ぴぃ」
「な、なんでよ?! 聖女ならそれくらいしてくれたっていいでしょ?!」
ムキになったように更にディーナは前のめりになって言葉をぶつける。アイリスは少し悲しそうな表情をしながら口を開いた。
「私はあなたのこと、全部知ってるわけじゃない。でもね、あなたが間違ってることだけはわかるの。ピィちゃんもそうだと思ってるはずよ」
「ぴぃぴぃ!」
激昂しているディーナとは真逆でアイリスは動じることもなく、静かに言葉を紡いでいた。肩に乗っているピィもアイリスの言葉に賛成しているように鳴いていたのだった。
数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。
評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。




