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第86話 当たらない攻撃

 昼食後の散策中の街中で突如魔物が現れ、暴れ出していた。アイリス達はすぐさま駆けつけて魔物の迎撃を行うのだが、その魔物はいつもとは様子が違っていたのだった。


 水色で透けたような身体をしたゴーレムに得意の剣技を繰り出したジークだが、ゴーレムに対して手ごたえが全く感じられなかった。


「ジークの攻撃がゴーレムをすり抜けたみたいに見えたけど……」

「ボクもそう見えました」

「ぴぃぴぃ」


 その様子を見ていたアイリス達が口を開く。確かにジークの剣技は直撃コースだったのだが、ゴーレムの身体をすり抜けていたのだ。


「どういうことだよ、これ?!」


 すぐに振り返ったゴーレムからの振り抜きの攻撃がくる。わけがわからないが、とりあえずジークは攻撃を回避して距離を取る。力は強いが動きが緩慢な所はやはりゴーレムという魔物で間違いない。


「兄貴、ボクもいきます!」


 アイリスの前で見ていたキッドが大盾と対になっている剣を構えて走っていく。太刀筋はまだまだ練習が必要だが、切れ味は鍛冶師のマルムの保証付きだ。


「やああ!」


 キッドが思い切り剣を振り上げ、ゴーレムの左足を攻撃する。


―スカッ―


「ふぇ?」

「え?!」


 当のキッドも、それを見ていたアイリスも口から声が漏れた。剣はゴーレムの左足を通り抜けて地面にぶつかる。まるで水の中にあるかのように剣の刀身は左足の中に見えている。


「え?! え!? どういうことですか、これ!」


 何度か剣をそのまま振ってみるが、手ごたえがまるでなかった。


「まるで水を切ってるみたいですぅ!」

「キッド、上!」


 一生懸命に攻撃を当てようとして剣を振り回しているキッドの上からゴーレムの両腕を使った叩きつけの攻撃が繰り出される。


「!」


 真面目な表情になったキッドが大盾を上方向に構えると、攻撃の手ごたえと共に防御が成功する。


「うそ……こんなことって……」

「まじかよ」


 アイリスが口に手を当てながら驚きの言葉を発する。ジークもその光景を見て同様の反応をしていた。


 それもそのはずだ。何故なら()()()()()()()()()()()()のだが、()()()()()()()()()のだ。


「ど、どういうことですか? これ!」


 わけがわからずに防御をしながらキッドが狼狽えている。


「キッド、とりあえず一度距離を取って」

「わ、わかりました。お嬢っ!」


 大盾に思い切り力を入れて、ゴーレムの両手を弾き返す。態勢を崩した隙にキッドがアイリス達の所まで戻ってきた。ジークも合流する。


「何か不思議な感覚でしたぁ」


 キッドの尻尾がふるふると震えていた。手ごたえがなさ過ぎて逆に気味が悪いのだろう。


「なるほど、オレの攻撃もあんな感じで効いてないってわけか」

「兄貴、どうしましょう?」

「どうって言われてもな……オレもあんな魔物初めてだし」


 二人がこの後の行動を考えていると、アイリスが一歩前に踏み出す。


「私がやってみる!」


 左手に光の羽弓を構える。以前のカセドケプル防衛戦の最後に見せた四枚羽ではなく、普段と同じ二枚羽の弓だった。恐らく『聖獣の呼び声』の加護によって弓の形態が変わっていたのだろう。


「そうか、アイリスの神聖魔法ならいけるかもな!」

「お嬢、やっちゃってください!」

「うん、やってみるねっ」


 ゆっくりと距離を詰めてくる水色のゴーレムに向かって弓を構える。弦を引く動きと共に右手の花の紋章の輝きが光の矢を作り出し、目の前に迫る魔物に向かって射る。


「『ホーリーアロー』!」


―ズバァァ!―


 勢いよく光の矢が放たれる。液体のように透き通った水色のゴーレムの身体に矢が突き刺さった。


「ゴガアアア!!」


 アイリスの神聖魔法が明らかに効果を出している。刺さった所を抑えてゴーレムが苦しむ仕草をしている。


「! ぴぃ……っ」

「どうしたの、ピィちゃん」


 その様子をアイリスの肩に乗ってみていたピィが悲しそうな声をあげる。ジーク達は勢いずいたようで次の行動に移っていた。


「よし! 効いてるぜ!」

「魔法は効くってことですかね?」

「やってみるかっ」


 魔法は効くのではないか、という推測を元にジークがゴーレムに向かって水魔法を詠唱する。ジークの右手から紐状になった水が放たれる。動きを封じるのが目的だ。


「『水鞭(ウォーターウィップ)』!!」


―スカッ―


 水鞭はゴーレムを突き抜けていく。物理攻撃と同じような手ごたえを感じた。


「あれ? 効いてないのか?」

「ボクも行きますね!」


 今度はキッドが土魔法を詠唱する。右手に持った剣を地面に突き刺して効果を伝搬させる。


「『アースクエイク』!」


 突き刺した剣の先から地面に亀裂が広がり、ゴーレムの足元を崩し始める。


「ガアアア!」


 割れた地面に足をとられてゴーレムが倒れる。この魔法は効いているようだ。


「なんでオレの魔法は効かないのに、キッドの魔法は効いたんだ?」

「うーん……ボクのが範囲魔法だからでしょうかね?」

「まあ、いいか! アイリス、今だぜ!」


「うん、わかった!」


 自分の肩で悲しそうな声を出しているピィのことは気になったが、今がゴーレムを倒す絶好の機会なのも確かだ。追撃の光の矢を構えたアイリスが力を込めて射る。


「『ホーリーアロー』!!」


 先程よりも太くなった光の矢が起き上がろうとしたゴーレムの胴体のちょうど中心に命中する。


「ガアアア!!!」


「ぴぃ……」


 断末魔と共に光になってゴーレムが消えていく。だが魔物を倒した際に出る魔石の姿はどこにもなかったのだった。



数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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