第85話 正体不明の魔物
シャンティーと別れたアイリス達はお昼ご飯を食べ終わると、会計を済ませてお店を後にした。残りの時間は街を再び散策して、フォルトナの邸宅に戻ることにしたのだった。
「あそこのお店の料理美味かったな」
「そうですね。おすすめの料理美味しかったですね」
「……」
「ぴぃ」
シャンティーのことが気になっているアイリスの表情は暗かった。ピィも心配して鳴いている。
「元気出せよ、アイリス。また会って話しようって言われただろ?」
「うん、そうだね」
「なら、その時を楽しみにしてようぜ」
自然な感じでジークがアイリスを励ましていた。ジークの言葉に少し元気をもらったアイリスは両手で軽く頬を叩いて自分に喝を入れる。
「ありがとう、ジーク。また近々、シャンティーの所にいってみるね」
「ああ、その方がいいさ」
「よかった。お嬢、少し元気が戻ったみたいですね」
「二人とも、心配かけてごめんね」
「ぴぃぴぃ」
ジークもキッドも気にするな、という表情を浮かべていた。肩に乗っているピィもアイリスが元気になったことで明るく鳴きだす。
「それじゃ、時間もまだあるし散策の続きをしましょうか」
「ああ、そうだな」
「そうしましょう!」
気を取り直したアイリスはいつもの笑顔を浮かべて歩き出した。前を歩く様子を見ながら小さい声でジークとキッドが話をしていた。
「兄貴、お嬢元気になってよかったですね」
「本当だな。それにしてもあのシャンティーって奴、変な仮面付けてたな」
「コートも羽織ってましたし……あれ? 確かローブも被ってましたよね?」
「ん? ああ……んー、確かそうだった気がするなぁ」
「なんか……頭ぼーっとしますね」
何故か料理屋で出会ったシャンティーのことを思い出そうとすると、二人とも記憶に霧がかかったような感覚を受けていた。さっきまで同じテーブルで対面して言葉を交わしていたはずなのだが。
「二人とも、どうかした?」
「ぴぃ?」
遅れて歩いている二人にアイリスが振り向いて声をかける。肩にのっているピィも同じように首を傾げてみてくる。あの様子ではアイリスは何ともないようだ。
「何でもないさ」
「今行きますー!」
頭と尻尾を何度か左右に振った後、二人がアイリスの両隣に並ぶように歩みを早めた。三人は仲良く歩きながらこれから散策する先を決めるために地図がある通りへと歩いていく。
「きゃああ!」
そんな時、これから向かう通りの方からガラスの割れる音と大きな悲鳴が聞こえてきたのだった。
「今の悲鳴だよな?!」
「ですねっ」
「行ってみましょう!」
「ぴぃぴぃ!」
アイリス達が急いで声が聞こえた通りへと出る。そこには逃げ惑うヒト達と建物を壊している魔物の姿があった。その魔物は身体が大きく、今までにあったことのない魔物だった。しかも体色は水色でやや身体が透けているようにも見える。
「ジーク、あの魔物見たことある?」
「あれって洞窟とか遺跡とかにいるっていうゴーレムだと思うけど、ゴーレムって確か岩の色をしてるって聞いたことあるんだよな」
「どうみても身体は水色ですし、向こう見えちゃってますね。確かに身体の作りは岩っぽいですけど」
「とりあえず、これ以上被害が出ないようにしよう!」
アイリスの掛け声でジークとキッドも頷いて戦闘態勢を取る。ゴーレムと思われる魔物の前で構えるとあちらもアイリス達を認識したようで大きな右手を振り下ろしてきた。
「ゴオオオ!」
「心眼を使わなくても、余裕ですね!」
アイリスとジークが回避の行動をとる中、キッドは前に一歩踏み出すと大盾『ヴァリアント』を構えて相手が繰り出した右腕の攻撃を受け止める。
「おっと、力は結構強いですねっ」
想定していた力よりも強かったのか、キッドが右足を後ろに引いて耐える。そのまま大盾を押し出して水色のゴーレムの攻撃を弾き返した。
「キッド、流石ね!」
「それほどでもありますー」
「なら、これで決めるとするか!」
アイリスの声援に調子が乗ったキッドが応える中、腰に下げた聖剣『マーナガルム』を右手で抜きながらジークが走っていく。
今度は両腕での攻撃を繰り出そうとしているのが見えている。その攻撃をさらりと避けるとゴーレムの真上に跳躍してお得意の剣技を繰り出す。
「『狼咬斬』!!」
空中から斜め下へと剣を振りかざしてジークが着地する。だが、様子がおかしい。
「……あれ?」
ジークの両耳がぴこぴこ揺れていた。頭を傾げながら自分が握っている剣を見つめている。振り返ると水色のゴーレムがこちらを振り返る途中だった。相手はびくともしていない様子だ。
「オレ、確かに『斬った』はずなのに……手ごたえが……ない?」
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