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第83話 シャンティーとの再会

 ティフィクスの街を散策していた一行。その途中でお昼ご飯を食べる為に立ち寄った料理店でアイリスは以前カセドケプルの夜に出会った仮面をつけた妖精族の女性シャンティーとの再会を果たすのだった。


 仮面で目は見えないが口元だけでも、驚きの表情を浮かべていた。そんな彼女の元にアイリスがテーブルから立ち上がって駆け寄っていく。再会が嬉しいようで、満面の無垢な笑顔だった。


「やっぱりシャンティーよね? また会えるなんて嬉しいな」


「あ、アイリス……私のこと『覚えている』の?」


「当たり前じゃない。カセドケプルの夜に会って以来よね」


 アイリスの言葉を聞いて、顔を逸らしつつシャンティーは頭を抱えながら呟く。


「噓でしょ……?! 私の『力』が効いていないなんて……記憶は消したはずなのに。もしかして聖女の加護の力ってこと?!」


「どうしたの?」


 フード越しに頭を抱えているシャンティーを心配してアイリスが顔を覗かせる。


「な、なんでもないわよ……はぁ」


 もう仕方ない、という感じで溜め息を漏らす。


「あなた、ティフィクスに来てたのね」

「うん、みんなと一緒にね」


 そう言いながらアイリスが向こうのテーブルに座っているジークとキッド達を見る。


「なんだ、アイリス知り合いなのか?」

「お嬢のお友達さんですか?」

「ぴぃぴぃ」



「狼族……なるほどあれが聖騎士なのね。それに竜人族の……家来?」

「キッドは私達のお供をしてくれてるのよ」

「ふぅん、仲が良さそうですこと」


 口を尖らせてそっぽを向きながらシャンティーが呟いた。それを気にせずにアイリスが声を掛ける。


「そうだ、シャンティー。お昼ご飯はまだ?」

「ええ、今さっきこのお店に入ったばかりだから」

「だったら、私達と一緒に食べましょう?」


 丁度良かったという風に手を合わせてアイリスが瞳を輝かせる。その眩しさに面を喰らったようにシャンティーが顔を背けながら口を開く。


「え……いいわよ。あたし一人で食べるから」

「そんなこと言わないで、ね?」


 再び満面の笑顔で迫られたシャンティーには返す言葉がすぐには見つからなかった。


「はぁ……あなたって本当に変わってるわよね。強引さも相当なものだわ。あたしの負けよ」

「ありがとうっ。嬉しいな」


 快く承諾してくれた彼女の手を引いてアイリスはジーク達が待つテーブルに引っ張っていく。ちょうど四人掛けのテーブルだったこともあり、対面にはジークとキッド。アイリスの隣にシャンティーが座る形に収まった。


「とりあえず、宜しく」

「カセドケプルで知り合ったシャンティーよ」

「一度会っただけでしょ、あたし達」


 明るく隣に座る彼女をジーク達に紹介する。


「ジークだ、宜しくな」

「お嬢と兄貴のお供のキッドです。宜しくシャンティーさん」

「こんな小さい子にお嬢とか兄貴とか言わせてるの? あなた達……」


 この中では一番年上だと思われるシャンティーが若干引いているが、キッドがすぐに弁解してくれた。


「ボクがお二人を尊敬して呼ばせてもらってるんですよぉ」

「あなたも相当変わってるわね」

「へへ、よく言われますぅ」

「アイリスもそうだけど、褒めてないから」


 対面しながら無垢な笑顔でこちらを見ているキッドにシャンティーが呟く。だが、アイリス同様誉め言葉のように受け取られてまたもや溜め息が出ていた。


「ぴぃぴぃ!」


 その時キッドの肩に止まっていたピィがシャンティーの肩に飛び乗ってきた。彼女の顔のあたりに自分の頬を擦り付けている。


「か、可愛いじゃないの……あら、この仔『聖獣』なのね」


 一瞬口元が緩むのを抑えたシャンティーがピィの正体に気づいた。


「すごい、シャンティー。ピィちゃんのことわかるのね」

「ぴぃぴぃ」

「! ……そりゃ聖女様と一緒にいる獣なんだから聖獣だって誰でもわかるわよ」


「そんなことないわ。ピィちゃんを一目みて聖獣って扱ってくれるヒト、そうはいなかったもの」


 アイリスがピィの頭を撫でながら嬉しそうに話す。


「確かに、そうかもな」

「ボクも最初は気づきませんでしたもん」

「お前の場合は知らないことが多すぎるからだろ」

「へへ、そうでした」


 ジークやキッドもアイリスの言葉に反応して口を開く。


「そんなみんな揃って褒めすぎよ。ちょっとした『勘』みたいなものよ」


 ピィの話題で盛り上がった所でキッドのお腹の虫が大きく鳴いた。


「あ、すいません。お腹空いちゃいました」

「そろそろ注文しよっか」

「そうだな。オレも腹減ってきちゃったぜ」


 キッドが顔を赤めながら申し訳なさそうに話す。笑いながらアイリスがメニュー表を開く。


「ここの料理は何でも美味しいわよ」

「シャンティー、ここ来たことあるの?」

「昔からよく来てるお店なの」

「そうなんだ」


 メニューを見ているアイリスの横からシャンティーが言葉をかける。常連だという彼女にアイリスがおすすめを尋ねてきた。


「肉料理でお勧めとかある?」

「それならステーキね。ティフィクスの森でとれた木の実のソースが絶品よ」

「それじゃ、オレはそれに決めた!」

「ボクも一緒のがいいです!」


 ジークとキッドは即決でお勧めの肉料理を選ぶ。アイリスはまだメニュー表とにらめっこをしていた。そこにシャンティーが声を掛ける。


「……アイリスは何が好きなの?」

「私はりんごが大好きなの」

「それなら特製のアップルパイがおすすめね」

「ありがとう、シャンティー。それじゃ、私それにするね!」


 どういたしまして、と呟きながら彼女はそっぽを向いていた。だが、口元は緩んでいるように見えた。お店のヒトを呼び、アイリスが皆の分の注文をする。


「そうだ、シャンティーは何にするの?」

「あたしもあなたと一緒のでいいわ」


 笑顔でアイリスが彼女の分も注文する。しばらくすると出来立ての美味しそうな匂いを漂わせた料理がテーブルに運ばれてきたのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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