第82話 妖精街の散策
会食会を終えたアイリス達は自分達の部屋に戻り、休息をとることになった。次の日以降は自由に過ごして構わないとフォルトナに言われ、街の散策をすることにしたのだった。
拠点となったフォルトナの邸宅の玄関の前で待ち合わせをしたアイリス達。アイリスも昨夜のドレス姿ではなく、見習い聖女としての服装に戻っていた。
「ごめんね、二人とも。待たせちゃった?」
「いや、オレ達も今来た所だぜ」
「ですです!」
ジークもキッドもそれぞれ機嫌がいいようで各自尻尾を左右にゆっくりと揺らしてアイリスを迎えてくれた。合流した三人は会話をしながら邸宅の階段を下りていく。
「ぴぃぴぃ!」
「ピィちゃんも元気いっぱいみたいね。昨日キッドから聞いた時は元気がないって言ってたから心配だったんだけど」
昨夜の会食会の席では食欲がないようだと、キッドからアイリスに話があったようだ。今はアイリスの肩の上で飛び跳ねる仕草をしているところを見ると元気な様子だ。
「今朝もご飯食べてたもんな、ピィのやつ」
「ですね、もりもり食べてましたね」
「ふふ、それならキッドも沢山食べてたわよね」
「はは、そうでした」
楽しそうに笑いながらアイリス達は街へと繰り出すのだった。ティフィクスの街並みは幻想的で、お洒落な外観が特徴的だった。妖精族の都というだけあって、妖精族が多く空を飛んでいる姿も多くみられた。
「すごい綺麗なところね、ここは」
「確かに、ウルフォードと比べると派手さがあるよなぁ」
「お洒落なお店も沢山ありますよね」
「ぴぃぴぃ」
三人は色々な所を見上げたり、見回しながら街を散策していた。ところが色々な場所で聖女様、聖騎士様と声をかけられ囲まれることになった。妖精族の噂の拡散力は大きく、フォルトナの邸宅に逗留していることも知られていたのだ。
以前聞いていたとおり、スペルビア王国よりもフライハイトの方が人間族は目立つというのは本当のようだ。珍しい人間族の少女が、狼族の少年と歩いているのだから目立つな、というほうが無理な話だ。
「はいはい、皆さん握手は一列にならんでくださいね! あ、そこ割り込みしちゃ駄目ですよー!」
「す、すごいヒトだかりだね」
「んー、フライハイトを旅する時はもう少し目立たないようにしたいけど難しいだろうなぁ」
キッドがたびたび出来るヒトの波を整理してくれながら、握手などに応じるアイリスとジークは今後の身の振り方を考えさせられるのだった。
すると、次第に声をかけるヒト達の数が目に見えて減ってきたことにアイリス達は気づく。
「何だか話しかけられる機会が減ってきた感じがするね」
「確かに、みんなこっちは見るけど話しかけてこなくなったな」
「いいじゃないですか。これでゆっくり街を見て周れますよっ」
後から聞いた話によると警護担当のテールが街のヒト達にアイリス達の邪魔にならないようにと注意喚起を行っていたそうな。噂の使い方も色々あるものだ。
「わぁ、綺麗な装飾品がいっぱいだね。ピィちゃん」
「ぴぃぴぃ!」
立ち並ぶお店の商品などを見ながらアイリスがはしゃいでいた。その姿を後ろから歩くジークとキッドが見守っている。
「お嬢も女の子ですよね、やっぱり」
「そうだな。こういう時間も作ってやらないといけないよな」
「それを言うなら兄貴だって羽を伸ばした方がいいんじゃないですか?」
ジークの顔を見上げながら、キッドが口を開く。尻尾がぴこぴこと揺れていた。
「オレはアイリスの聖騎士だからな。そんな浮ついていられないっての」
「ふふ、そんなこといって兄貴はお嬢から目が離せないだけなんじゃないですかぁ?」
この後尻尾をぴんと立たせたジークに顔をつねられるキッドの姿があったそうな。そんなことをしながら街を散策しているとそろそろお昼ご飯の時間を迎えた。
「ジークとキッドは何か食べたいものある?」
振り返りながら笑顔でアイリスが尋ねる。
「肉料理」
「ふふ、ジークってば本当に肉料理が大好きなんだから」
「好きなんだから仕方ないだろ」
照れ隠しをするように顔を背けるジーク。尻尾はぶんぶんと振れていた。それを見てアイリスがまた微笑む。
「あ、お嬢、兄貴! あそこにいい感じの料理屋さんがありますよ!」
そんな二人を見ながら、色々な所をみて周っていたキッドが丁度いいお店を見つけてくれていた。
「お、じゃあそこにしようぜ。な、アイリス」
「うん、そうね。ありがとう、キッド」
「へへ、お安い御用です」
「ぴぃぴぃ」
そう言いながらアイリス達はそのお店に入ることにしたのだった。
「りんごの料理あるといいな」
「ありがとう、ジーク。私の好きなもの、覚えていてくれて」
「あ、当たり前だろ……っ」
店内に入って席に腰を下ろしながらジークがアイリスに言葉をかける。その様子を見ながらジークの顔がりんごみたいだな、と思うキッドであった。
「それじゃ、メニューを見て注文を決めましょうか」
「そうだな」
「ですね!」
メニュー表を取って、アイリスはジーク達に手渡す。その時店内に目を向けると、見たことのある者の姿が目に入ってきた。
「あれって……」
全身薄い灰色のローブを纏い、深々とフードで頭を覆っているがチラリとピンク色の髪がはみ出して見える。そして忘れもしない、舞踏会にでもつけていくような銀色の仮面が垣間見えたのだった。
「シャンティー?」
アイリスの呟いた一言に肩をびくっとさせながら相手がこちらに目を向ける。
「あ、アイリス?! う……嘘でしょ……」
相手もまたアイリスに向かって一言呟いたのだった。
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