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第79話 妖精族の詩姫

 フォルトナから試練が受けられない原因は祭壇の扉が開かないことだと説明を受けるアイリス達。どうやら『精霊』達の調子が悪いことが原因らしい。


 そして詩姫の交代について話を聞いていた時、アイリス達の元に詩姫のソレイユが現れたのだった。


 ソレイユの周りを飛んでいる赤、青、緑、黄色の球体が『精霊』だと後から知ることになる。


「アイリス様、この者が新しい詩姫のソレイユです」


「もう、フォルトナ様。『新しい』っていう言い方はやめてくださいって言ってるじゃないですかぁ。私は皆に認められた正当な詩姫なんですから」


「ごめんなさいね。気を付けるわね」

「約束ですからねっ」


 ソレイユの活発さに少々押され気味のアイリス達だった。


「その周りを飛んでるのは何なんですか?」

「あら、『精霊』を見るのが初めてなんですね」

「ああ、それが『精霊』なんですか!」


 キッドがソレイユの周りを飛んでいる球体のことを尋ねると、それこそが『精霊』だという答えが返ってきた。アイリスはこのタイミングで挨拶をすることにした。


「初めまして、聖女見習いのアイリスです」

「聖騎士見習いのジークです」

「お供のキッドです」

「ぴぃ」


「あら、見習いだなんて言わなくてもいいじゃないですか。カセドケプル防衛戦のお話は伺っています。とてもご活躍されたそうじゃないですか。もう立派な聖女様と聖騎士様って言ってもいいと思いますよ」


「いえ、私達はまだまだ半人前ですから」

「えー聖女様は律儀なんですね。もっと自信を持っていいと私は思いますよ」


 はきはきとソレイユが話す。少々、元気がありすぎる所もあるが明るく非の打ちどころがない印象をアイリス達は受けた。


「あ、そうだ! ちょうど今コンサートの休憩時間なんですよ。そうしたら衛兵の方から聖女様と聖騎士様達がフォルトナ様の所に行ったっていうからとんできちゃったんです」



「そうだったんですか。忙しいのに来てもらってごめんなさい」

「いいんですよ、聖女様。私ずっと今代の聖女様に会いたかったんですもん」

「そうなんですか?」


「もちろんですよー! だって世界の『大いなる意思』に選ばれて試練を受けるために人間領と魔族領をまたにかけて旅をするなんてとってもすごいことですもの。私尊敬しちゃいます」


 アイリスの手を両手で握りながらソレイユがはきはきと話をしている。ふと何かを思いついたのか、目を輝かせて口を開いた。


「あ、そうだ! よかったらコンサートを聞きに来てもらえませんか? 私聖女様達が聞いているって思ったらきっと頑張れちゃうと思うんです」


「でも私達、試練の話をしていて……」

「えーいいじゃないですか。ちょっとくらい。ね、フォルトナ様」


 顔を膨らませながらソレイユがフォルトナに直談判する。少し考える素振りをした後フォルトナは口を開いた。


「そうですね、それもよいかもしれません。祭壇の扉は今すぐにはどうにもできませんので、アイリス様達にはこちらで何らかの対策をさせていただくまでの間逗留して頂くことになりますからね。是非、妖精族の詩姫の詩を聞いてきてください」


「やったぁ! それじゃ聖女様いきましょっ。目立つと困るでしょうから、特別席をご用意しますね!」


「え、あ、はい。ありがとうございます」

「なんか勢いがすごいな」

「キッド、お前ああいうのがタイプなのか?」

「タイプってなんですか?」

「どうかしたの? ジーク」


「あ、いやなんでもない。招待してくれるっていうんだから早くついていこうぜ」


 警護の者がついたソレイユに半ば強引に引っ張られながらアイリス達は街の中央にあるコンサート会場に招待された。


 会場の中は薄暗く、特等席として案内された席は会場の上部に位置しているためステージ全体を見ることが出来る絶景だった。


 そろそろ休憩時間が終わるということで、お客さん達がざわめく。よく見ると色々な氏族のヒト達がいるのがわかった。それだけ人気ということなのだろう。


「みんなー! 待たせてごめんねー!」


 風魔法を応用した棒型の拡声器によって声が会場の後ろまでよく届いていた。


「ソレイユちゃーん!」

「待ってたよ! 新しい曲聞かせてー!」

「やっぱり詩姫はソレイユちゃんだよな!」


 会場から大きな声援がステージのソレイユに向かって贈られる。


「ありがとー! それじゃ、聞いてください。『きらめく太陽』!」


 大きな伴奏と共に音楽が聞こえてくる。力強く、心臓の音と重なるようなテンポ。そして明るいソレイユが唄う詩が会場中に響き渡る。


 会場が熱気に包まれると、ソレイユの周りに精霊達が集まってくる。精霊に右手を添えるようにしながらソレイユは明るく笑顔で唄っていた。


「さすが詩姫だよな、精霊があんなに寄ってくるなんて」

「でも、なんで祭壇の扉を開けてくれないんでしょうね、兄貴」

「オレもわかんねえよ」


 二人がそんな会話をしているとアイリスがステージで唄っているソレイユを見つめていた。


「どうした? アイリス」

「え、うん。何かソレイユさんが気になっちゃって」

「可愛いからですか?」


 ジークに続いてキッドもアイリスに声をかける」


「もちろん素敵なんだけど……それだけじゃないっていうか」

「ぴぃ」


 そんなことを思いながらもアイリス達はソレイユのコンサートを最後まで聞いていたのだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。

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