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第78話 閉ざされた祭壇

 妖精の都ティフィクスに到着したアイリス達は族長のフォルトナに会うことが出来た。柔らかな印象を持つフォルトナとも会話が弾んだころ、アイリスはこの巡礼の旅の重要な目的である『氏族の試練』について尋ねることにした。


 だがフォルトナから返ってきた言葉は意外なものだった。


「申し訳ありません、アイリス様。実は『妖精の試練』を受けて頂くことは出来ないのです」


「え……?」

「ええ!?」

「えええ?!」

「ぴぃ?」


 アイリス、ジーク、キッド、そしてピィが声を上げる。それもそのはず。ここに来た目的である『試練』が受けられないというのだから仕方ない反応だ。


「どうしてか、説明してもらえますか?」


 アイリスは落ち着いて言葉をかける。


「厳密には『今すぐには受けられない』ということなのです」

「ど、どういうことですかっ?!」


 キッドは動揺が隠しきれないようで、おどおどとした様子で声をあげる。ジークは兄貴という立場上、落ち着いた反応をしようと頑張っていた。尻尾は逆立って何度も右往左往していた。


「それについては直接見て頂くほうがよろしいでしょう。ご案内致します」


 族長の間を出て、長い廊下を歩いていく。フォルトナは警護の衛兵を数名つれて、アイリス達を案内する。族長の邸宅は思ったよりも広い作りをしており、歴史を感じさせる絵画や調度品も多く飾られていた。


 最もアイリス達が驚いたのは目的の場所に行くまでに三度警備の衛兵のチェックが入ったことだった。


「すごい警備ですね」

「はい。これから向かうのは先代聖女様との約束でもある『氏族の試練』に関わる場所だからです」


 それだけ先代聖女アーニャとの間で交わした約束の重さをひしひしとアイリスは感じていた。近づくにつれて心臓が大きな音を立て始めていた。


 大きな扉の前までくるとそこを警備している衛兵達にフォルトナが頷く。すると扉が開かれ、大きな建物が姿を現した。建物の屋根は円形で周りは水路に囲まれており、そこまでの道は一本だけ伸びていた。


「こちらへどうぞいらしてください」


 先にフォルトナが建物への扉の前に歩いていく。アイリス達もゆっくりとついていき、その扉の前に辿り着く。その扉は見るからに特殊な作りをしていた。


「扉に取っ手がないですね……押したり引いたりするわけでもなさそう」

「はい。その通りです、アイリス様」

「この先には何があるんですか?」


「『試練の祭壇』がこの扉の先にあります。そこでアイリス様には『妖精の試練』を受けて頂くことになります」


「ここまで警備は多かったけど、普通にこれたし何で試練が受けられないんですか?」


 周りを見渡しながらジークがフォルトナに尋ねる。ここまでの警備は万全だった。それなのに試練が受けらえないというのはおかしな話だとジークは考えていた。


「本来この扉は『精霊』達の加護によって守られ、開錠も彼らがしてくれるのです。ですが、この半年の間この扉は閉じたままなのです」


「中に入れないってことですか?」


「その通りです。『妖精の試練』を受けて頂くにはこの祭壇の扉が開かなければなりません。アイリス様達にはご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」


「フォルトナ様、頭をあげてください」

「ぴぃぴぃ」


 明るい笑顔でアイリスがフォルトナに言葉をかける。何か事情があるのだとわかったからだ。


「何か理由があるんですよね」

「はい、そうなのです」


 顔をあげたフォルトナが祭壇の建物の周りを見渡す。辺りは静まり返っている。流れる水路の音だけが耳にはいってくる場所だ。


「以前はここには多くの『精霊』達が集まっていました」


「今は何もいませんね」


 キッドも周りを見渡すが『精霊』と思われる者の姿は見えなかった。フォルトナは話を続ける。


「このところ精霊達の調子が悪いのです。本来なら『精霊』達が私達妖精族に与えてくれる魔法の恩恵も少なくなってきているのが現在のティフィクスの状況です。一般の者達もうすうすは気づいているでしょう」


「何か原因があるんですか?」


 アイリスが尋ねると、フォルトナは一度目を閉じて少しの間が空く。目を開くと言葉を紡ぐ。


「実は半年前、精霊達に詩を捧げる催事がありました。どうやらそこで『詩姫』が精霊達の怒りをかってしまったというのです」


「『詩姫』についてはあまり詳しくないので説明してもらえますか?」


「はい。『詩姫』とは精霊達に愛され、詩を愛する者のことを指します。そして妖精族からたった一人だけが選ばれるのです。詩姫の詩は精霊達の心を癒し、その感謝の気持ちとして精霊達は恩恵を私達に与えてくれます」


「なるほど、そうだったんですね」


 フォルトナの説明でアイリスは『詩姫』の存在が妖精族にとってとても大切なものだというのが理解出来た。そこでキッドが口を開いた。


「詩姫さんが怒りをかったっていってましたけど、何かしちゃったんですか?」


「お恥ずかしいことですが、以前の詩姫は少々素行に問題がありまして……」


アイリスはフォルトナの以前、という言葉が気になった。


「今は違うヒトが詩姫をしているんですか?」


「はい、その通りです。精霊達の怒りをかってしまった際に妖精族の皆から多くの苦情が入ったことと、その場に新たな詩姫の素質を持つものが現れたことで詩姫の交代が一族の会議によって決まったのです」


「ジークが言ってたのはこのことだったのね」

「ああ、そうみたいだな」

「以前の詩姫さんは性悪とか言われてましたもんね」


「……それは」

「フォルトナ様!」


 アイリス達の反応を見てフォルトナが何かを口にしようとした時だった。明るい声がかけられたのだ。


 振り返ると黄色の髪を携え、綺麗な服を身にまとった女の子がこちらに歩いてきていた。見た目からピクシーというのがわかる。


 周りには赤、青、緑、茶色の球体が飛んでいるのが見える。


「フォルトナ様、この方達が今代の聖女様と聖騎士様なんですねっ」

「はしゃぐ気持ちもわかりますが、まずはご挨拶をしなければね」

「はい、気を付けますっ」


 反省したような素振りと表情をその少女はみせる。そしてアイリス達の方を見ながら口を開いた。


「初めまして、聖女様、聖騎士様。私が『詩姫』のソレイユと申します。以後お見知りおきを」


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。

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