第77話 妖精族の長フォルトナ
妖精の都ティフィクスについたアイリス達は、族長の娘であり六使のフォードルとは姉妹関係にあたるテールに案内され族長の邸宅へ案内されることになった。一応騒ぎが大きくならないようにヒト目を避けるルートを通ってくれていた。
テールを中心に数名の護衛と共に進んでいくとちらりと見える大通りにはお洒落な服や装飾品が並ぶお店が沢山見えた。妖精族はもちろん、他の氏族の冒険者などの姿も多くみられる。人間族は今の所アイリス以外いないようだ。
「とっても活気があるんですね。素敵なお店も沢山ありそう」
「ぴぃぴぃ」
アイリスが周りを見渡しながら楽しそうにしていた。肩にのっているピィも良い反応をしてくれていた。その様子を見ながらテールが言葉をかける。
「後ほど街の中も自由に散策していただけるように致しますので」
「お気遣いありがとうございます」
ジーク達もアイリスの後ろを歩きながら周りを見渡していた。
「兄貴、お洒落なお店が沢山ありますね」
「そうだな。妖精族はこういうの好きだしな」
「食べ物屋さんもあるんですかねぇ」
「あー、あるかもなぁ」
「ふふ、二人ったら」
実に男の子っぽい会話をしている。ジークもキッドも特に服装などを気にする性格ではないのだろう。それがわかる雰囲気が出ていて思わずアイリスが微笑む。
街の中央付近に大きな建物が見える。周囲には沢山のヒトが集まっているようだった。
「あれって何ですか?」
「ああ、あれですか。今、『詩姫』が精霊達を癒すコンサートを開いているんです」
「そうなんですね」
コンサートを待っているヒトだかりの声が大きく、遠くを歩いているアイリス達にも内容が聞こえてきた。
「今日のチケットとれたんだぜ」
「えーいいなぁ。オレも行きたかった」
「今の詩姫の詩はディーナと違ってていいよな」
「んーオレはディーナの方がよかったけどな」
「あの性悪詩姫のどこがいいんだよ」
テールにも聞こえていたようだが、特に反応はせずにこちらに向かって話しかけてきた。
「さあ、先を急ぎましょうか」
テールの案内で族長の邸宅へと辿りつく。建物の中にはいると長い廊下が続いていた。そこを進んでいき一番奥にある族長の部屋の扉が開いた。
中に入ると、部屋の奥の長椅子に紫色の髪が綺麗な妖精族の女性が腰かけていた。フォードルやテールと似ていることから彼女が族長なのがすぐにわかった。
端に待機している使いの者が腰かける椅子を用意してくれた。
「今代の聖女様、聖騎士様、そしてお供の方。ようこそ、ティフィクスへ。私が族長のフォルトナです。以後お見知りおきを」
「初めましてフォルトナ様。聖女見習いのアイリスです」
「ご挨拶ありがとうございます、アイリス様。先日は私の娘でもある六使のフォードルにお力を貸していただき感謝しております」
「いえいえ、私は自分の出来ることをしただけですから。こちらこそフォードルさんにはお世話になりました」
「そう言って頂けるとありがたいです」
次いでジークが挨拶をする。
「聖騎士のジークです。ご無沙汰しております」
ジークは狼族の族長の息子ということもあり、フォルトナとは面識があるようだ。相手もジークを知っている口調で話しかけてきた。
「これはこれは狼族のご長男様が聖騎士様というのは本当だったのですね」
「さすが兄貴、顔が広いですねっ」
「いちいちうるさいんだよ、お前は。恥ずかしいだろ」
キッドが褒めるといつものジークの感じに戻る。
尻尾はゆっくり左右に揺れている。
「ふふ、聖女様と聖騎士様のお噂はフライハイトでは有名ですからね」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、アイリス様。おそらくはスペルビア王国の者達よりもフライハイトの者達のほうが敏感でしょうね。それほど我々魔族の中から聖騎士が選ばれたということは特別な意味を持つのです」
「街を歩かれる際は呼び止められることも多くなるでしょうね。特に妖精族は噂が大好きですから」
口元に手を添えながらフォルトナが微笑む。
「お二人に何かあればお供のボクがどうにかしますから大丈夫です!」
「頼りにしてるね、キッド」
「はい! お任せください」
「聖女様も聖騎士様も良いお供の方を持ったようで何よりです」
族長の間で話が弾んでいた。会話をする中でフォルトナのヒト柄も良いようにアイリスには思えた。そこでアイリスが気になっていることを尋ねる。この旅で一番大切なことだ。
「フォルトナ様、『聖女の試練』について聞いてもいいですか?」
「……そうですね。聖女様達には一番重要なことですものね」
アイリスが試練について尋ねると、予想をしていたようにフォルトナが呟く。先ほどまでの明るい様子が少しずつ暗くなるのが伝わってきた。
「フォルトナ様、どうかしたんですか?」
アイリスが心配になって声を掛けると、俯き気味だったフォルトナが顔をあげて重い口を開いた。
「申し訳ありません、アイリス様。実は『妖精の試練』を受けて頂くことは出来ないのです」
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