第76話 妖精たちの領域
カセドケプルを後にしたアイリス達は五氏族の試練を受けるために氏族連合『フライハイト』の領域を進んでいた。最初に向かう先はカセドケプルから一番近い『妖精の都ティフィクス』に話し合いの結果決まっていた。
「そういえば、キッド。ローグさんと二人きりで何を話してたの? あ、内緒なら内緒で構わないからね」
「ぴぃぴぃ」
「いえ、大丈夫です。ただボクの家について聞かれただけですよ。お父さんの名前とか」
「なんだ、それだけかよ。真剣な顔してたからもっと大変な話だと思ってたのにな」
「あ、でも誰かにボクの家のことを聞かれたらローグさんの知り合いってことにしておいて欲しいって言われました」
「大事なこと言われてるんじゃないかよ!」
「それじゃ、私達も気を付けておきましょうね」
「はい!」
尻尾をフリフリさせながら敬礼のような仕草をキッドがする。最初に会った時からキッドはどこか妙に世間知らずな所があるように思われた。今度時間があるときに色々聞いてみたいとアイリスとジークは話していたところだった。
少しずつ辺りの森に濃い霧がかかってくる。アイリス達は地図を片手に森の中を進みながら今回の目的地であるティフィクスについてジークから話を聞いていた。
「妖精の詩姫?」
「なんですか、それ?」
アイリスとキッドが不思議そうな顔をしていた。軽くため息を吐きながらジークが話を続ける。
「アイリスはいいとして、キッドお前本当に何もしらないんだな」
「いやぁ、ずっと家の中にいたので」
「まあ、いいか。妖精族には『詩姫』っていうのがいて、魔法と大きな関係を持つ『精霊』達と詩をもって心を通わせる存在なんだとさ」
「なんか、お嬢みたいですね」
「うん、確かに聖女とちょっと似てるかもね」
『うた』という言葉を聞いて、アイリスはカセドケプルでの不思議な一夜のことを思い出していた。そこにジークが口を開く。
「絶対聖女のほうが上だとオレは思うけどな」
「なんかジークむきになってる? でもありがと、嬉しいな」
「べ、別に本当のことだしなっ」
ジークの尻尾が左右に揺れているのをキッドが目を細くしてみていた。
「精霊達が元気だったりすると魔法の力が強くなるらしい。現に詩姫の影響もあってか妖精族の使う魔法の力は高いって言われてるくらいだしな」
「兄貴って物知りですよね、尊敬しますぅ」
「ただ族長になるために必要なことを勉強させられただけだって」
「いつもありがと、ジーク」
明るくお礼をするアイリスの顔を見て、ジークが顔を逸らしながら話を続ける。
「そ、それでな。その詩姫っていうのは詩自体もすごく上手いらしくて他の氏族の領域でコンサートを開いたりすることもあるんだ。オレは興味なかったからいかなかったけど狼族でも好きなやつは結構いるらしい」
「そうなんだ」
「なるほどです」
「んで、半年前かな? その詩姫の交代騒ぎがあったらしい。今度コンサートもまた企画されてるって話だ」
「詩姫さんかぁ……私も聞いてみたいな」
アイリスが物思いにふけるような表情で呟く。詩姫という存在にも興味を持ったようでティフィクスに着いたら是非聞いてみたいと思っていた。
「お嬢は聖女様なんですから、お願いすればいいんじゃないですか?」
「まだ私は聖女見習いだし。皆は聖女様って慕ってくれてはいるけど、それを利用するようなことはしたくないの」
「ま、アイリスはそういう奴だもんな」
「うん。機会があったらみんなで聞きにいきましょうね」
「はい、ボクも聞きたいです」
「オレもまあ、たまにはいいかな」
「ぴぃぴぃ」
そんな話をしていると濃い霧を抜けて小高い丘の上にでた。眼前にはとても幻想的な景色が広がっていた。花や木々が咲き誇り、心地よい風が吹き抜ける場所。そこが妖精の都ティフィクスだった。
「風がとっても気持ちいいね」
「妖精さん達がいっぱいですね」
「くるのいつ以来だったかな」
アイリスやキッドが綺麗な風景に見とれている間に、ジークは街の中に入るための門の場所を地図で確認していた。
「おーい、二人ともいくぞー?」
「うん、今いくね」
「はーい、兄貴」
丘の上から街を見下ろすことが出来た。建物も人間族とは違ってお洒落な色合いのように見える。丘を降りていくと街の前に検問があり、数人の妖精族の衛兵の姿があった。その中の一人がアイリスに声をかけてくる。
今いるのは魔族領でもある。人間族が目にはいれば自然と旅券の確認をするのが当たり前になっていた。
「失礼ですが、旅券を確認いたしますね」
「はい、これです。確認宜しくお願いします」
「……! せ、聖女様でしたか。少々お待ちくださいっ」
「は、はい。」
アイリスから手渡された旅券を衛兵が見ると、驚いた様子で誰かを呼びにいったようだ。アイリスの旅券には当然聖女の証であるスペルビア王国の国王クラージュと先代聖女アーニャの裏書が添えられているのだから当然の反応である。
しばらくすると衛兵が一人の妖精族のエルフの女性をつれて来た。身分的にも高いのだとすぐにわかったが、どこかで見たような顔つきをしていた。
「貴方が聖女様でしたか。お待ちしておりました。私はティフィクスの防衛を担当しておりますテールと申します」
茶色の髪色に黄色の瞳。確証はないが聞いてみることにした。
「あの、どこかでお会いしていませんか?」
「ああ、それならば既に会っていますね。私は妖精族の族長フォルトナの娘の一人で六使のフォードルとは姉妹の関係に当たりますので」
「ああ、そうですよね。そっくりです。びっくりしました」
「ふふ、他にも二人おりますが同じような顔なので驚かれるかもしれませんね」
同じ女性同士、賑やかな会話が弾む。きりのいいところでテールが本題を切り出す。
「今代の聖女様、聖騎士様。そしてお供の方。お待ちしておりました。聖女様達がこのティフィクスを訪ねられた際は族長の邸宅にご案内することになっております。逗留している間は自由に施設をお使いください」
「いいんですか?」
「ええ、族長であるフォルトナからのいいつけでもあります。お話したいこともあるということなのでご案内いたしますね」
「はい、宜しくお願いします」
アイリスは礼儀正しく一礼する。テールも返礼する。
こうしてアイリス達は無事妖精の都ティフィクスに到着したのだった。
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