第74話 垣間見た光と闇
防衛線で負傷した兵士達を治療するため、アイリス達は各氏族の使館の治療棟を周ることになった。先代の聖女アーニャとガーライルは冒険者達の治療に向かうため別行動だ。
「うう……」
「大丈夫ですよ、今治癒しますからね」
「ぴぃぴ」
「この荷物はどこに置けばいいですかっ」
「兄貴、この荷物も持っていきましょうか?!」
「ああ、こっちに頼むぜキッド」
各使館の治療棟を周りながらアイリスは負傷者に治癒をかけ、ジークとキッド達は負傷者のベッドの移動や薬の運搬を手伝っていた。
これに加えて冒険者達の負傷者も診るとなると労力はかなりのものと予想されたが、アーニャ達が来てくれたことで分担が可能になり負担も大きく減っていた。
夕方を迎える頃にはアイリス達は担当した全ての負傷者の回復を済ませた。兵士伝いにアーニャ達も負傷者の回復が終わったとのことだった。
「それじゃ、アーニャ様達と合流しましょうか」
「場所わかるのか?」
「さっき伝令を持ってきてくれた兵士さんから聞いたの。二人は人間族の使館に泊まるんだって」
「お嬢、言いつけ通り別の兵士さんに渡り鳥への手紙頼んでおきましたよ!」
「ありがとう、キッド」
「それじゃ、向かうとするか」
今夜はアイリス達もアーニャ達と同じところに宿泊することになったため、普段利用している宿屋『渡り鳥』の女将さんであるオーリに手紙をしたためておいたのだ。
人間族の使館につくと、六使のエクスがアイリス達を迎えてくれた。
「お待ちしておりました、アイリス様。聖騎士様、お供の方。先にアーニャ様達がお待ちです。どうぞごゆっくりお過ごしください」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ジークとキッドもアイリスに習ってお辞儀をする。エクスは笑顔で案内をしてくれた。
通された部屋にはアーニャが待っていた。時間的にも夕食の時間だ。
アイリス達の座っているテーブルに沢山の料理が並べられる。
「それじゃあ、頂きましょうか」
「はい」
「え、えっ。こんなご馳走食べていいんですか?!」
「肉料理いただきっ」
「あー、ずるいですよ兄貴ぃ」
沢山ある料理を取り合うジークとキッド。やはり男の子というのはこういうものなのだろうとアーニャとアイリスが微笑みあう。
ガーライルの姿が見えないようだが、聞くと夜風にあたりに行ったらしい。
「彼は結構、気まぐれなの。気にしないであげて」
そうアーニャは口にしていた。
食事も終わりに近づいてきた時、アーニャがアイリスに声をかけた。
「アイリス、ジーク、キッド。食事が終わったら、少しお話をしましょうか」
「はい、わかりました」
「はい」
「了解ですっ」
アーニャの泊まる部屋に呼び出されたアイリス達は食事が終わると、向かうことにした。部屋をノックすると優しい声が中から聞こえてくる。
「どうぞ、入ってきて」
部屋にはいるとガーライルの姿もあった。アイリス達は談話用のスペースに案内されて椅子に腰を下ろす。アーニャも腰掛けると口を開いた。
「この部屋には私が事前に結界を張っています。話の内容が外に漏れることはないわ」
「!」
「!」
「……」
突然のアーニャの言葉にジークもキッドも動揺が隠せないようだった。アイリスだけは落ち着いた様子で言葉を返した。どうやらアイリスなりに想像はついているようだ。
「大事な……話なんですね」
「ええ、そうなの。この結界の張り方はあとで教えるわね」
「アーニャ様、ありがとうございます」
早速アーニャは本題に入る。
「話は六使達からの報告書で伺っているわ。大変だったわね三人とも」
「ぴぃぴ!」
「あら、ごめんなさい。ピィも入れれば四人ってことになるかしらね」
「ぴぃぴぃ」
「ジークやキッド、ピィちゃんに助けられました。だから何とかなったんです」
「そんなことないだろ、アイリス。お前が頑張ってくれたから何とかなったんだろ」
「そうですよ、お嬢がいなかったらボク達やられちゃってましたよ」
「皆が頑張ったからこそよ。みんな自分を褒めてあげてちょうだい」
口々に三人が話す。それを穏やかな口調でアーニャが聞いていた。
そしてアーニャの表情が真剣なものに変わる。
「『厄災の使途』という者が現れたのね」
「はい、そうなんです」
「気味の悪いやつだったよな」
「威圧感が半端なかったです」
「何か特徴はあったのか?」
アーニャの後ろで話を聞いていたガーライルが口を開く。
「見た目とかの特徴は六使のヒト達に説明したとおりです。ただ……何か嫌な感じがまとわりついてました。漆黒のモヤのようなものが体から出ていたように見えました」
「!」
ガーライルがアイリスの言葉に反応する。
振り返ってアーニャがガーライルと目を合わせ、アイリス達の方に目を向けた。
「おそらく、これから始まる試練の旅路にも『厄災の使途』の陰謀が絡んでくるでしょう」
「アーニャ様、それはどういうことですか?」
「光と闇の力はお互い引きあうということです。光の力……つまり聖女の力こそが闇の力を払う唯一の希望なのです」
「以前、ビナールでガーライル様が言っていた私たちを待ち受ける困難ってこのことだったんですか?」
「ええ、そうよ。そしてそれは世界の『大いなる意思』の導きでもあるの」
「……聖騎士としてオレにできるのはアイリスを護ることなんですね。ガーライルさん」
「そうだ、ジーク。それが聖騎士に選ばれたお前の役割だ」
「忘れてません。どんなことがあってもアイリスはオレが護ります」
「ぼ、ボクもいますからね!」
「……頼んだぞ二人とも」
ガーライルの言葉にジークとキッドが強く頷いた。
アーニャが話を続ける。
「アイリス、貴方は聖獣ピィの真の声を聞いたのね」
「はい。以前アーニャ様がいっていた『聖獣の呼び声』ですよね」
「そうよ。今の貴方は以前よりも聖なる光の力が強くなっています。その存在を『厄災の使途』が放っておくことはないでしょう」
アイリスは黙ってアーニャの言葉に耳を傾けていた。
「ここから先、氏族の試練が貴方達を待っています。その道を進んだ先に必ず闇の力が立ち塞がるでしょう。けれど、諦めないで。自分の、そして仲間たちを信じて進んでちょうだい」
「私も思ってました。きっと私達が望む立派な聖女と聖騎士になるためには超えなきゃいけないモノがあるってことを」
「……しばらく見ないうちに、とても強くなったのねアイリス。貴方の瞳に強い希望の光が見えるわ」
「アーニャ様……」
「ジークやキッドにもね」
「オレ達にも……」
「ボクにもっ」
優しくアーニャがアイリス達に微笑む。
「いずれ貴方達に告げる事があるの。それまで元気で旅を続けていてね」
「はい、わかりました!」
「わかりました!」
「はい!」
「ぴぃぴぃ!」
こうして結界を介してのアーニャとの話は終わりを告げた。
その夜は疲れでアイリス達はぐっすりと眠ったのだった。
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