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第73話 アーニャとの再会

 防衛線の報告が終わり、負傷者への対応の話に移った。六使から正式に助力の申し出を受けたアイリスは負傷者への対応に向かうことになる。そこに先代の聖女アーニャがカセドケプルに来たという話が入ってきたのだった。


「先代の聖女様は我々の申し出を受けてくれました。ベリル、今代の聖女様達の案内を任せてもいいだろうか?」


 人間族の六使エクスが悪魔族の六使ベリルに尋ねる。これから別室で待っているアーニャ達の元にアイリス達を合流させる旨だ。


 ベリルは60年間の人魔大戦の折、先代の聖女アーニャと聖騎士ガーライルと共に戦争終結に尽力した仲なのは皆知っていることであり適任と判断されたのだ。


「ああ、もちろんだ。こちらも懐かしい顔を見られると思うと嬉しいものだからな。ではアイリス様ご案内いたします」


「ベリルさん、よろしくお願いします」

「お世話になります!」

「お願いします!」

「ぴぃ!」


「ふふ、元気があってよいですな」


 ベリルに案内され、アイリス達は会議室を後にする。


 アイリスは歩きながら、ベリルに色々尋ねようと思っていた。以前ベリルとあったのは偶然であり、それほど言葉を交わしていなかったためだ。


「ベリルさんはアーニャ様とは頻繁に会っていないんですか?」


「ははは、アーニャもガーライルも今は教会に所属している。年齢は重ねてはいるが、聖女として忙しい日々を送っているのだから気軽に会いにいくのもはばかられるのだよ」


 苦笑しながらベリルが答える。

 久しぶりに会えるのが嬉しいというのは本当のようだ。


「さあ、着きましたぞ」


 そんな会話をして会館の中を歩いていると目的の部屋の前についた。

 ベリルが率先して扉を開けて中に入っていく。


 中に入ると懐かしいヒトが椅子にかけてアイリス達を待っていた。

 ベリル達に気が付くとゆっくり立ち上がり、変わらない穏やかな笑顔で迎えてくれた。


 相変わらずガーライルは静かにアーニャの後ろで壁に寄りかかっていた。


「久しぶりね、アイリス。ジークも元気そうで何よりだわ」


「お久しぶりです、アーニャ様!」

「ご、ご無沙汰してますっ」


「ふふ、二人とも少し見ないうちに大人びたわね。嬉しいわ」


「でもどうしてアーニャ様がカセドケプルに?」

「今回の『魔物達の大波』の話を聞いてやってきたの。私の力も皆の助けになればいいと思って」


「ご一緒で出来るの、とっても嬉しいです」

「私もよ、アイリス」


 二人の会話にキッドもすかさず言葉を挟む。


「あ、あの! は、初めまして聖女アーニャ様! アイリスさん達のお供をしてます、キッドです!!」


「あらなんて素敵で頼もしい従者様なのかしら。二人を宜しくね、キッド」

「はい! お任せください!」


「キッド、緊張しすぎだろ」

「だ、だって聖女様ですよ?!」

「ジークだって最初はガチガチだったじゃない」

「それ言うなよアイリス!」

「もう兄貴ってばぁ!」


 久しぶりにあったアーニャの前でアイリス達は仲が良いところをみせつけるように会話が弾んでいた。それを見てアーニャは微笑む。


 そしてアイリス達の後ろに立っていたベリルにゆっくりと近づき、言葉をかける。


「久しぶりね、ベリル。元気だった?」

「それはオレのセリフだ、アーニャ」


「ふふ、そうね。でも貴方は数年前とあまり変わっていないみたいでよかったわ」

「悪魔族は寿命が人間族と比べて長いからな。ガーライルも相変わらず無口で安心したぞ」


「まったく話さないわけじゃないがな」

「年を取って口数が減ったって話だろう? お前も昔に比べて冗談が旨くなったものだ」


 ガーライルとベリルが笑いあって話をしていた。


 聞けば最後にアーニャ達とベリルが会ったのは数年前になるそうだ。それほどお互いの立場が多忙ということなのだろう。


「懐かしい話は積もる程あるが、本題に入るとしよう。我々、六使からの申請は承諾してもらったと聞いている」


「ええ、今回の負傷者への治療の件ね。協力させてちょうだい」

「ではアーニャ達には負傷した冒険者達への治癒をお願いしようか」

「わかったわ。場所も聞いているから、ガーライルと向かうわね」


 旧友にあった為か普段よりも元気そうにアーニャが体を動かしながら話している。それを見てベリルが大きなため息を吐く。


「昔からのおてんばっぷりは変わってないな、アーニャ。もう若くないんだ、いくら聖騎士がいるとはいえ護衛くらいはつけさせてもらわないとオレの面目が立たない」


「あら、ごめんなさい。貴方に会えてつい喜んでしまったわ。じゃあ、お願いするわね」

「ガーライルもよろしく頼む」

「ああ、わかっている」


 アーニャと話をつけると今度はベリルがアイリス達に説明を始めた。


「アイリス様達には各使館の治療棟に収容されている兵士たちの治癒をお願いしたい」

「はい、わかりました!」

「ぴぃぴぃ!」


「こちらも同じく、案内役の兵士を共にさせよう。私はまだ事態の収拾の手続きが残っているから一緒にはいけないが先代と今代の聖女様達にはご足労をかける」


 アーニャとアイリスに向かってベリルが深々と礼をする。


「堅物なのは変わっていないわねベリル。ええ、こちらからも宜しくお願いしますね」

「私もできる限り、頑張りますね!」


 静かに頷くとベリルは部屋を出ていく。

 すぐ案内役の兵士が迎えにきてくれた。


「それじゃあ、出来ることをしましょうか。アイリス」

「はい! アーニャ様」


「それと治療が終わったらまた会いましょう。まだ話したい事があるの」

「わかりました」


 アーニャ達と久しぶりの再会を果たしたアイリス達は負傷者の治癒の為に一旦行動を別にするのだった。



数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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