第72話 戦いを終えて
六使達や冒険者達、そしてアイリス達の活躍により『魔物達の大波』からカセドケプルを守ることが出来た。混乱の収拾には少し時間がかかるものの、城塞都市の機能を保ちつつ六使達は防衛時の報告会が開かれることになった。
厄災の使徒と交戦したアイリス達も同席する。
「今回の防衛線では負傷者は出ましたが、命を落とした者は誰一人いなかったことが何よりの救いでしたね」
進行役である人間族の六使エクスが話を切り出した。
「冒険者達のおかげもありますが、やはり聖女様達の活躍のおかげでしょうね」
「私もそう思います」
妖精族の六使フォードルと冒険者ギルドのサブマスターであるアニエスがアイリス達を見ながら言葉をかける。
「皆さんが頑張ってくれたからです」
六使達の視線が集まる中、照れ臭そうにアイリスが答える。
「それにしても……『災厄の使徒』とやらにまんまとやられてしまったということですね」
「兵士達に暗示をかけて情報を操作していようとは油断していたな」
「まさか聖女を手にかけようと計画していたとは」
狼族の六使ヴァルムと獅子族の六使ガラシャが口々に思いを語る。
次いで悪魔族の六使ベリルも口を開くのだった。
「戦いの後で魔力が高いフォードルに兵士達をみてもらいましたが、暗示などがかかっている者はもういないということでしたね」
アニエスが話した所で、竜人族の六使ローエングリンが口を開く。
「聖女様達もご無事で何よりです。お力を貸して頂いて我々も感謝しています」
ローグがそう口にした時、空気がピリピリと張りつめたのは言うまでもない。何故なら、今回現れた『厄災の使徒』の風貌が竜人族の特徴と類似していたためだ。
空気を察したローグが再度口を開く。
「交戦した聖女様達からの説明の通り、『厄災の使徒』と名乗った者が我ら竜人族を模した鎧を纏っていたということでしたね。ですが、それだけで私達の種族を疑うのは控えて頂きたいのです」
「確かに、鎧の下がどうなっているかはわからないからね」
フォローするようにエクスが言葉を添える。だが依然として張り詰めるような空気が消えることはなかった。話を変えるようにヴァルムが口をひらいた。
「それにしても『刻印』の持つ力にも驚かされましたね。防衛の前の時点で魔物達を意図的に従わせるという可能性について予測はついていましたが……まさか魔物達を融合させて新たな魔物『合成魔獣』とやらを生み出してしまうとは」
「今回だけでなく、今後も同じようなケースが出てくる可能性も考えられることから、冒険者ギルドからの周知もアニエスには頼むことにしよう」
ヴァルムの言葉にエクスが今後の情報の共有の話を交える。サブギルドマスターであるアニエスもその言葉に頷いた。
「その件については既に冒険者ギルドの伝達網にて周知させるように動いています。間もなく、情報が伝わり始めるでしょう」
「さすが冒険者ギルド、手際がいいな」
ベリルが口元に手を添えながら感心していた。
他の六使達からも称賛の声があがる。
「負傷者などの被害の状況はどうなっているんだ?」
ガラシャの発言にローグが状況を説明する。
「負傷者についてですが、まず我ら六使が率いている兵士たちについては各使館の治療棟にて治療を行っています。冒険者達につきましては都市内の大型の施設内にて治療を行っています」
ローグの言葉にガラシャが言葉を続ける。
「なるほど。我ら獅子族の医師達も多くヴィクトリオンから向かわせているが……報告によれば負傷者の数も多数と聞く。その点についてはやはり聖女様にお力を借りるのが良いと思うのだが、皆はどう考えている?」
他の六使もガラシャの意見に賛成のようで、皆がアイリスに目を向ける。意見をまとめる役としてエクスからアイリスに正式に要請の話が振られた。
「聖女様、お聞きの通りです。今回の防衛線ではこちらの落ち度で危険な目に合わせてしまって申し訳ありません。その上でまたこのようなお願いをするのも申し訳ないと思っておりますが、是非聖女様のお力を貸していただきたいと我々は考えております」
謝罪の意がこもった言葉をエクスが口にする。アイリスは笑顔で返答をする。皆が大変なのはアイリスもわかっていたのだ。
「はい、私の力がお役に立てるなら是非協力させてください!」
「オレ達も出来ることを手伝おうぜ、キッド」
「はい、兄貴!」
「ぴぃぴぃ!」
「だが、負傷者の数は多い。聖女様にはご足労をかけてしまうな」
ガラシャが俯き加減で呟く。その時会議室に伝令を持った兵士が入ってきた。風貌から悪魔族なのがわかる。ベリルの元に近づき、耳打ちをする。内容を聞いたベリルが口を開いた。
「その件については朗報がある」
「何かあったのか、ベリル」
エクスが尋ねるとベリルは言葉を続ける。
「先ほど、このカセドケプルに先代の聖女と聖騎士が到着したとのことだ」
ベリルの報告に会議室が良い意味でざわつく。
「アーニャ様達がカセドケプルに?」
思わずアイリスも呟く。
王都を旅立ってから久々のアーニャとの再会の時が訪れようとしていた。
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