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第71話 聖光の羽弓

 聖獣ピィの力を貸し与えられたアイリスのこれまで以上の神聖魔法によって、大きな怪我を負っていたジークとキッドも回復し、更に強化されて戦線に復帰する。


 キッドはオーガ・キマイラの渾身の一撃を防ぎきり、ジークは『祝福』の力を纏わせた聖剣の一撃によって左腕を切り落とすという成果をあげた。


「ガアアア!」


 左腕を切断され、傷口から広がる凍傷によってオーガ・キマイラの左側の腕は完全に機能を停止していた。だが、致命傷ではないため大きく咆哮し残った右腕の鋭い爪を構えて襲い掛かる。


「まだやる気かよっ!」

「でも大丈夫ですよ。ね、兄貴!」

「そうだな。アイリス! 頼むぜ!」


 オーガ・キマイラのしぶとさに驚くが、もう心配などジーク達はしていなかった。まるで勝利を確信しているようだった。二人の視線の先にはまっすぐな瞳で向かってくる合成魔獣を見つめているアイリスの姿があった。


「ガアアア!!」


「もう好きにはさせないっ」

「ぴぃぴぃ!」


「オーガ・キマイラの持つ闇の力の前に、聖女の光の力など効くものかっ」


 厄災の使徒が吐き捨てるように声をあげる。だが、集中しているアイリスの耳には届かない。


 迫ってくるオーガ・キマイラを向かい打つべく、アイリスが詠唱を始める。足元に再び魔法陣が広がっていく。


「煌めきよ、邪なる者の運命を縛る鎖となれ!」


 魔法陣から放たれる光が大きくなっていく。詠唱のために閉じていたアイリスの瞳が開くと詠唱が完了する。


「『煌めきの鎖(トウィンクルチェーン)』!!」


 阻害系神聖魔法『煌めきの鎖』。


 オーガ・キマイラの足元に同様の魔法陣が広がる。たくさんの光の粒が魔法陣から発生し煌めく。やがて煌めきは質量を持つ鎖へと変わり、オーガ・キマイラの全身を縛り上げた。


「グガアアア!!」


 振りほどこうともがくが、完全に身動きを封じられていた。


 その様子を見つめながらアイリスは深呼吸を一度する。そして花の紋章が輝く右手を胸の位置で構えると、左手に光の羽弓が握られる。


「ピィちゃん、いくよ!」

「ぴぃ!」


 花の紋章のまばゆい輝きが羽弓へと注がれると、二枚に分かれていた光の羽が4枚に分かれる。大きさも一回りは大きくなっているが重くはない。どこからか風が吹き、アイリスの周りを光の羽が舞う。


「聖なる光の羽弓よ、私に闇を振り払う力を!」


 光の弓の4枚の羽が大きく羽ばたく。


 狙いをオーガ・キマイラに定める。弦に右手を添えて強く引くと花の紋章の光が一本の矢に変わっていく。するとオーガ・キマイラまでの空間に光の魔法陣が浮かびあがった。


 アイリスが力強く、その一矢の名を呼ぶ。


「『セイクリッドアロー』!!!」


 放たれた矢が空中に浮かぶ魔法陣を突き抜けると、更に大きく、勢いよく飛んでいく。次の瞬間、無防備の巨躯に直撃し突き抜けていく。オーガ・キマイラの目から光が消え、その場で絶える。


 浄化されるように光へと変わっていく。魔石すら残りはしなかった。


「馬鹿な。オーガ・キマイラの闇の力を凌駕するほどの力だとっ」


「やったぜ、アイリス!!」

「やっぱりお嬢は最高です!!」

「ぴぃぴぃ!」


「ありがとう、みんなのおかげよ」


 アイリスは皆に振り返ると笑顔を見せる。

そして背後の門の上部いる厄災の使徒を見る。


「まさか今代の聖女がここまでの力を持っていたとはな。考えを改める必要があるようだ」


「負け惜しみかよ! 残りはオマエだけだぜ」


「そうですよ、観念してください!」


 ジークとキッドが厄災の使徒に言葉をぶつける。


「自惚れるなよ、小虫ども……これは終わりではない。始まりなのだ。我が野望のな。せいぜい今日の勝利に浸っているがいい」


「あなたの野望って一体何?」


「フフ、聖女アイリス、そして聖騎士ジークよ。既に世界には闇の力が溢れ始めている……巡礼の旅が無事に終わると思わぬことだ」


 そう吐き捨てると漆黒の霧に包まれて厄災の使徒は姿を消したのだった。


 最後の言葉が気になったアイリスだったが、今は目の前の勝利を駆け寄ってきてくれたジーク達と喜び合うことにしたのだった。


「アイリス、すごかったな。それにオレのあげた首飾りが変わったのにも驚いたぜ」

「今はもう元に戻っちゃったけどね。私もびっくりしちゃった」

「本当、すごかったですお嬢。あんなすごい怪我だったのに一瞬で治っちゃいましたし!」


「二人も無事でよかった。一緒に戦ってくれてありがとう」

「何言ってるんだよ、オレはお前の聖騎士だぜ? 当たり前だろ」

「うん、ありがとうジーク」

「ああ」


 今、とてもいい雰囲気なのはキッドにもわかってはいたが、自分もアイリスに褒めてもらいたい一心で声をあげる。


「お、お供のボクもいますからね!」

「ふふ、わかってるわ。キッドもありがとうね」

「へへ、照れちゃいますね」

「ぴぃぴぃ!」


 アイリス達が楽しく会話していると南門がゆっくりと開かれた。どうやら他の場所でも『魔物達の大波』を防ぎきったようで、何人かの衛兵達がかけつけてくれたのだ。


 その後、六使達も集まり、アイリス達は事情を説明することになったのだった。


 厄災の使徒、『刻印』の持つ力等話すことは山ほどあった。とはいえ、ここに『魔物達の大波』に対して行われたカセドケプル防衛戦は決着した。


 晴れ渡る青空がそれを高々と告げているようだった。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

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