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第70話 煌めく花の紋章

 アイリスの右手の花の紋章が煌めきを放つ。

 溢れ出す光が、地面全体を覆っていく。


「馬鹿な。あの聖獣のなりそこないのような奴が『精霊の呼び声(エピクレシス)』を発現させるなどありえんっ」


 急激な状況の変化に厄災の使徒に動揺の色が見える。

 そこにアイリスの声が響く。


「厄災の使徒、あなたの思い通りにはさせない。私と仲間たち、そして私の聖獣ピィが!」


「ぴぃ!」


 強い輝きを宿すその瞳がまっすぐに厄災の使徒を見つめていた。

 相手は身体を大きく動かし威圧するように声をあげる。


「フン、いい気になるな。今この場で立っているのはお前だけだ。お前一人で一体何が出来るというのだっ」


「私は一人じゃない。あなたみたいに邪な力をただ振りまく存在に私達は屈したりしない!」


 アイリスは右手の甲に煌めく花の紋章を高々と天に向かってかざす。


 足元から光のつぼみが一面に広がっていく。それを嫌ってかオーガ・キマイラは大きく後ろに下がる。


「『咲き誇れ、治癒の花(フラワーヒール)』!」


 その声に呼応するように広がった光のつぼみが一気に花開く。咲き誇る花達から温かい光が溢れ出し、大きな怪我を負ったジークとキッドを包み込む。


「身体の傷が消えていく……すげえ」

「この光、とっても温かいです」


 自然とジーク達が立ち上がる。通常の治癒では癒しきれない怪我が一瞬で治っていく。更に度重なる連戦の疲労も回復しているようだ。


「馬鹿なっ」


「これなら、やれる!」

「ボクもいけます!」


 二人に再び戦う力が宿る。ジークは聖剣を、キッドは大盾も握りしめてアイリスの左右に並ぶ。


 それをみてアイリスが優しく微笑む。二人が同じように微笑み返す。


「行こう、みんな!」

「ああ、借りはしっかりと返さないとな!」

「ボクもやられっぱなしは嫌いですから!」

「ぴぃぴぃ!」


「だからどうだと言うのだ。お前達のような小虫共が我がオーガ・キマイラに敵うものか! やれ!」


「ガアアアア!」


 光の花を押しつぶしながらオーガ・キマイラがアイリス達めがけて突進してくる。


 アイリスは詠唱を始める。大きな魔法陣が足元に展開される。


「『聖なる力場(フォースフィールド)』!」


 補助系神聖魔法『聖なる力場』。光の力によって対象の力を増加させる。


「すげえ、力が溢れてくる!」

「ふぁ……なんかすごく頑張れる気がします!」


「グオオオオ!」


 オーガ・キマイラが突進の勢いと共に両腕の鋭い爪をアイリスめがけて振り下ろす。


 すかさずキッドが前に出て、大盾を構える。『心眼』によって相手の攻撃の正確な位置を把握して防御をする姿勢をとる。


 凄まじい金属音が響き渡る。


「グウウウ!」

「やられっぱなしなボクじゃありません!!」


 キッドの大盾がオーガ・キマイラの両腕から繰り出される強烈な一撃を防ぎきる。

 

 足元の地面が衝撃によって崩れているがのけ反ることもなく防ぎきった。当初は片手の一撃ですら、防御するのが困難だったが今度はアイリスの神聖魔法によってキッドの力が増幅されている成果だった。


「受けきっただとっ?」


「キッド、すごい!」

「へへ、お嬢の力のおかげです!!」


 話す余裕もあるようで、勢いをつけてオーガ・キマイラの両腕の爪を弾き返した。巨躯が大きくのけ反る。


「へっ、キッドが頑張ってるのに兄貴のオレが大人しくしてられるかよ!」


 聖剣マーナガルムを構えたジークがオーガ・キマイラ目掛けて走り出す。


 『祝福(ギフト)』の力によって冷気を纏う刃の刀身が鋭く輝いている。間合いまで入るとあちらから再び攻撃が繰り出される。


「ガアア!!」


 ジークは両腕の爪を交互に振り上げて繰り出される相手の連撃を紙一重で回避していく。そして最後の一撃を避けた勢いで空中に跳躍する。


「厄災の使徒、見せてやるよ! 聖騎士の力って奴をな!」

「!」


 空中で身体を捻り、その勢いのままジークが聖剣を振り下ろし剣技を繰り出す。


「『氷狼咬斬(アイシクルバイト)』!!!」


 氷の刃となった聖剣から繰り出された一撃によってオーガ・キマイラの左腕が切断された。切り口は凍傷となって左腕を侵していく。これで左腕は使い物にならなくなったのが一目瞭然だった。


「ギャアアア!」


 合成魔獣の叫び声をあげる。

 動じず、アイリスが一歩前にでる。

 仲間から声援が飛ぶ。


「アイリス! 聖女の力、見せてやれ!」

「お嬢、やっちゃってください!!」


「うん! これで終わらせる!!」

「ぴぃぴ!!」


 強い力がこもった瞳で真っすぐに合成魔獣を見つめる。

 右手の花の紋章が更に煌めきを増していくのだった。


 今、カセドケプル防衛線の最後の戦いが始まろうとしていた。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。

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