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第69話 聖獣の呼び声

 オーガ・キマイラの猛襲に窮地に立たされるアイリス達。だが、その時アイリスの肩に乗っていたピィの身体が光輝き今まで聞いたことのない鳴き声が周囲に響き渡る。


「ピィちゃん」

「……」


 アイリスを真っすぐな瞳でピィが見つめていた。

 何かを待っているかのようだった。


 その瞳を見て、あることを思い出す。


◇◆◇


 これはアイリスが王都ロークテルの王城で旅立つ前の数日間、神聖魔法などをアーニャから教えてもらっていた時のことだ。いつも肩に乗っている聖獣ピィについての話になった。


「ぴぃぴぃ!」


「ピィは貴方のことが好きみたいね」

「私もそんな気がします」

「それは良かったわ。アイリス、一つ聞いてもいいかしら」

「何ですか、アーニャ様」


 穏やかな表情を浮かべながらアーニャがアイリスに尋ねる。


「貴方はピィのこと、どう思っていますか?」

「え?」

「貴方の話したいように話してくれればいいの」


 少し驚いたようにアイリスが呟く。アーニャは静かに返答を待っていた。


「私はピィちゃんのこと、仲間っていうか家族みたいに思ってます」

「そうなのね」


「これから始まる旅はジークと、ピィちゃんと一緒ですから。聖獣として言葉も話せないし、灰色の身体のピィちゃんは伝説の聖獣ファフニールと比べられたら良く思わないヒト達もいるのもわかってます」


 アーニャはアイリスの言葉に耳を傾けていた。


「でも、私の召喚に応えてくれたのはピィちゃんだけなんです。見た目や持っている力だけが全てじゃないと思うんです。だから私はこの子と一緒に行きます」


「ぴぃぴぃ」


 アイリスの言葉を聞いて、アーニャが微笑む。


「そう、それこそが聖女と聖獣にとって一番必要な気持ちなの」

「アーニャ様?」


「聖獣がその姿で召喚に応じたということは、何か意味があるということ。そして聖獣は聖女の半身でもあります。アイリス、いつか貴方も聖獣ピィの真なる『声』を聞くときが来ます」


「ピィちゃんの真なる『声』……」


「心を通わせた聖女に己の中に眠る聖なる力を貸し与える『声』……それを『聖獣の呼び声(エピクレシス)』と言います」


「『聖獣の呼び声(エピクレシス)』」


「その『声』が聞こえたら、アイリス……貴方がすることはたった一つ。どうか忘れないで」


◇◆◇


 刹那、アイリスは瞳を閉じる。かつてアーニャに言われた言葉を思い出した。目の前にオーガ・キマイラが迫る。


 だが、今のアイリスは恐怖もそして今まで感じていた疲れさえも感じていなかった。瞳を開き、肩に乗り『その言葉』を待つ自らの聖獣を優しく見つめる。


「……」


「ピィちゃん、私に『力を貸して』」


ただ一言呟く。するとピィは小さい翼を思い切り広げ、天を見上げ『鳴く』。


「ぴぃ!!!」

――『!!!』――


 ピィの声に甲高い声が重なり、響き渡る。

 そしてピィの身体の光が天へと上がっていき、光の柱が天からアイリスに降り注ぐ。


 これこそが『精霊の呼び声』の力。

 温かな光にアイリスが包まれる。


 気が付くとジークに貰い首につけていた『花の首飾り』の形が変わり、中央には宝石を携えていた。


「オレがアイリスにあげた首飾りの形が変わった?」

「お嬢……とっても綺麗です」


 大きなダメージを負って、回復中のジークとキッドがゆっくりと起き上がりアイリスを見つめていた。


 その宝石が光り輝く。すると呼応するようにアイリスの右手の甲に刻まれた花の紋章が激しく煌めきを放つのだった。


「不思議……この光を見ていると力が湧いてくる。これが『聖獣の呼び声(エピクレシス)』。今私の中にピィちゃんの力が流れてくるのを感じる」


「ぴぃぴ」


「ありがとう、ピィちゃん。私、絶対に諦めない。私の大切なヒト達を守ってみせるね」


「ぴぃ!」


 それは一瞬の出来事だった。


 静かに花の紋章を携えた右手を天に向かってかざす。

 聖なる光が足元から地面全体に広がっていく。


 今、聖女アイリスの更なる力が目覚めたのだった。



数ある作品の中から本作を読んで頂きありがごうございます。

評価やブックマークなどをして頂けると、嬉しいです。

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